第17話 朝っぱらから引っ越しする事に⁉
「お兄ちゃん、お兄ちゃんッ!」
「な、なんだ⁉」
外からは雀の囀りが聞こえ。
自室のカーテンからは日差しが入り込んでいる。
刹那――、岸本和樹の体には大きな衝撃が走ったのである。
少し呼吸できなくなり、一瞬だけ危うかった。
「お兄ちゃん! 朝だよ、早く起きて!」
「朝……そ、そうだな……」
和樹はベッドにて仰向けで休んでいた時に、いきなり妹の咲が飛び乗って来たのである。
咲は和樹の体に騎乗したまま、朝っぱらから笑顔で話しかけてくるのだ。
「ちょっと危なかったんだけど」
「ごめんね、お兄ちゃん」
咲は笑顔を見せながら謝罪する。
「え……というか、今何時?」
和樹は眠い瞼を擦りながら妹に問う。
「えっとね、七時半だったよ」
「七時半? というか、今日は日曜日だろ」
和樹は特に予定のない休日は、基本八時半に起きるのだ。
普段よりも一時間ほど早い目覚めとなっていた。
「そうだよ」
「早すぎないか?」
「そうなんだけどね。ちょっと手伝ってほしいことがあるの」
「手伝い? どんな?」
「引っ越し」
「……え、引っ越し……? どういうこと? 俺の家がってこと?」
「違うよ。私の友達の真帆ちゃんンちだよ」
「引っ越しって事は……転校するのか?」
和樹は寝起きの状態で、脳内が少々混乱していた。
「全然違うよ。そんなんじゃないよ。引っ越しはそうなんだけど。真帆ちゃんは転校しないよ。同じ街にある新しい一軒家に引っ越しするだけ」
「そ、そうなんだ。でも、なんで俺らも手伝わないといけないの?」
「人手が足りないんだって」
「え、業者は? 引っ越し業者に頼んでないのか?」
「同じ街中での引っ越しだから頼まなかったって。でも、真帆ちゃんの家って、両親と小学生の子しかいないでしょ。だから人手が欲しいってことらしいの」
「ああ、そういうことか。わかった。そういう事なら、手伝うか……」
「じゃ、決まりね。真帆ちゃんには電話で伝えておくね」
騎乗していた咲は、和樹から降りると駆け足で部屋を立ち去って行く。
妹は朝から元気なのが凄い。
和樹はまだ眠く、背伸びをした後でベッドから立ち上がる。
「今日は晴天か」
和樹は瞼を擦りながら自室のカーテンを全開にし、そう呟いたのだった。
「真帆ちゃん、手伝いに来たよ」
咲は手を振りながら、村瀬家へと近づいていく。
「ありがと、咲ちゃん。でも、急に誘ってごめんね」
「いいよ。こっちにはお兄ちゃんがいるし、大丈夫だよ。安心して」
住宅が立ち並ぶ、近くの歩道付近で会話している二人。
その光景を和樹は見ていた。
和樹は妹と共に朝食を済ませ、外用の私服に着替えた後で、自宅を後にしていたのだ。
今、村瀬家の近くまで徒歩で訪れており、ようやく到着した感じである。
岸本家から徒歩で十五分ほどの距離感であり、意外と近場に住んでいたらしい。
「ここが、村瀬さんの家か」
現在の村瀬家は、五階建てマンションに住んでいるらしい。
和樹はそのマンションを見上げる。
「……そ、そうか。五階建てマンションって……あれ? そう言えばエレベーターはあるのか?」
「ないよ。それと、真帆ちゃんの場所は四階にあるの」
「……じゃあ、徒歩で荷物を持って階段を移動するってこと?」
「そうだよ。頑張ってね、お兄ちゃん」
「あ、ははは……」
和樹は朝っぱらから修行みたいな現状にぶち当たってしまい、枯れた声で笑っていた。
「じゃ、今日は頼むよ。二人とも」
「はい、頑張ります」
「よろしくお願いします」
咲と和樹は、村瀬家のマンションの玄関先まで階段を使って到着していた。
そこで、二人は真帆の父親から期待されていたのだ。
「まずは簡単な荷物からお願いしようかな。すでにまとめているモノがあるから。それから頼むよ。あ、そうだ。手が汚れたり傷ついたらよくないからね。二人は軍手を持ってきてるかな?」
「すいません、持ってきてないです」
真帆の父親から言われ、和樹は反応を返す。
「そうか。母さん、軍手ある? 二人分」
「そっちの方にあったはずよ」
部屋の奥から真帆の母親らしき声が聞こえてくる。
「え? ここかな? あ、あった、これだね」
父親は袋に入っていた軍手を取り出し、二人に渡す。
「「ありがとうございます」」
二人は両手に軍手をつけ、周りに置かれてあった小さな段ボールから順に持ち上げる。
二人はマンション一階近くに止めている、レンタルしてきたであろうハイエースの中に詰めていく。
その行為を何度も続ける事となったのである。
「うッ、重い……何が入ってるんだ?」
「それは学校で使う教科書やノートが入ってるの」
「そうなのか」
真帆から言われ、納得する重さだと実感する。
「はあ、でも、やるしかないか。ヨシッ!」
和樹は靴を履いた後、勢いよく持ち上げた。
重いのは確かな事だが、持ち歩けない事もない重さである。
「俺も手伝うか?」
「え?」
声は聞こえるが、姿が見えない。
「ここにいるって」
近くまで真帆の弟である陸翔がやってくる。
「いいよ。小学生には頼めないって」
「そんなに見くびらないでほしいな。俺だってある程度、力はあるさ。毎日運動してるし。部活でも腕立て伏せもしてるんだぜ」
陸翔は鼻の下を指先で擦りながら、どや顔をしていた。
「でもな」
「いいから。少し支えるだけになるかもしれないけどさ。いないよりかはマシだろ」
「わ、分かった。じゃあ、頼むね」
和樹は少しだけ、陸翔の力を借りる事にしたのだ。
陸翔の協力もあって、大分楽だった。
「よし、大体は片付いたな、後はタンスや冷蔵庫になるけど。和樹くんは持てそうかな」
「は、はい。出来ると思います」
和樹は、真帆の父親に対してよい返事をした。
「よし、なら、一緒に持とうか。あ、小春。そこにいると危ないから」
「はい」
父親に言われ、小春はサッと、その場所から退いた。
これから重いモノを持ち、移動する事になる。
タンスや冷蔵庫の死角になって見えなかった場合、誤って怪我をさせてしまう可能性だってあり得るのだ。
「じゃ、そっちの方を持ったかね」
「はい、持ちました」
二人で冷蔵庫を持ちあげた。
その光景を見ながら、咲がお兄ちゃん頑張ってねと笑顔で応援してくれていたのだ。
妹の前で醜態を晒さないためにも、全力を出し切って移動する。
その後でタンスも同様に、ハイエースのところまで持って行き、その中に入れたのであった。




