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第16話 妹を裏切るわけには…

「今日は良い買い物ができた感じ」


 稲葉玲奈(いなば/れな)は嬉しそうに、購入した衣服が入っている紙袋を抱きしめながら言う。

 彼女が購入したのは、最初から欲しがっていた水色を中心としたカーディガンである。

 その他に、カーディガンにマッチしているロングスカートも購入していたのだ。


 露出度の高い服は、岸本和樹(きしもと/かずき)の意見を踏まえ、購入を断念していた。


「岸本さんも一緒に選んでくれてありがとね♡」

「いいよ。ちょっと、あの空気感には慣れなかったけど。稲葉さんが好きな服を購入出来て何よりだから」


 女性が多い環境だと、他人の目が気になって変な緊張を感じていたものの、外に出た瞬間から、そのしがらみから解放された感じになっていたのだ。


 和樹は外の空気を吸い、軽く息をはいていた。


「他に寄るところは?」

「そうだね……あ、そうだ。私、帰りにフライドチキン屋による予定だったんだ。時間的にも丁度いい頃合いだし、立ち寄ってもいい?」


 玲奈はハッとしたように目を見開き、和樹の方を向いて言葉を返してくる。


「いいよ。ここからだと、少し戻らないといけないかも」

「岸本さんはそれでもいい?」

「俺は気にしないから。じゃ、行こうか」


 これからの予定が定まると二人はまた手を繋ぎ、フライドチキン屋がある場所へ歩き出すのだった。




「岸本さんはどうする? 一緒に買う?」

「どうしよっかな。昨日も食べたし……じゃあ、ちょっと咲に聞いてみるよ」


 フライドチキン屋の店内にいる和樹。

 今日もまた購入すれば、二日続けてのフライドチキンになるのだ。


 土曜日という事もあり、少々混んでいる店内の待合スペース付近にいる二人。和樹はスマホを手にすると、それを耳元に当てた。


「……もしもし、咲。今時間大丈夫?」


 和樹は電話に出た咲とやり取りを始めたのだ。


「うん、そうなんだ。今日もフライドチキンになるけどいいかっていう話なんだけど」


 電話越しの妹は、今日も食べたいと言っていた。


「だよな、昨日はチキンというより、ハンバーガーメインだったしな。今日はフライドチキンだけのセット商品を買って行くから。え? ああ、季節限定のチョコパイ付きね。わかった。後は? ない? だったら、そういうことで」


 電話している最中から電話を切り終わるまでの間、咲は楽し気な口ぶりになっていたのだ。

 和樹はそろそろ電話を切るからと何度か言い、スマホのボタンを押して電話機能を終了させたのである。


「それでどうだったの?」


 隣にいる玲奈から聞かれた。


「いるって。それもセット商品の奴。結構な出費になると思うけど大丈夫だよな。多分……」

「セット商品? チキンのセット商品は二千五百円もするよ」


 スマホでフライドチキン屋のHPを表示している玲奈は、その画面を見せてきたのだ。


「そ、そんなにか。はッ、そうか、チキンだけのセット商品はセールじゃないのか」


 和樹は、スマホ画面を見て驚愕した。


「そうだよ。セール対象なのはハンバーガー付きのセット商品だけだよ」

「あ……勢いで言っちゃったよ……でもな、これから別の商品を買うって伝えたら咲はショックを受けるだろうし」


 和樹はメニュー表をしっかりと見てから発言すればよかったと頭を抱え、今になって後悔していた。


「どうする? お金は大丈夫?」

「……ちょっと厳しいかな。後、チョコパイも追加で購入しないといけないし、三千円くらいになりそう」


 和樹は財布の中身を確認すると、絶望染みた顔色を見せ始めるのだった。


「どうしたら……」


 和樹はガクッと肩を落としていた。


「私もさっき洋服を購入したから、そんなに残ってないし。自分用の分しかないよ」


 玲奈も財布を確認していたが、首を横に振っていた。


「え。じゃあ……しょうがない。咲に素直に伝えるか」


 和樹は手元を震わせながらスマホを操作し、自宅の電話番号を画面上に表示させたのだ。


「いらっしゃいませー」


 和樹がボタンを押す直前だった。


 店内に新しく入店してきた人がいたのである。

 店員の挨拶が店内に響き渡っていた。


 和樹は、誰が入店してきたのかをチラッと確認すると、そこにいたのは委員長の西園寺智絵理だった。

 プライベートでも制服を身につけており、しかも、隣には付き添いの人までいたのである。


「あれ? そちらの二人は岸本君と稲葉さんですよね。お二人はプライベートでも一緒なんですね」


 智絵理は冷静な立ち振る舞いで二人の顔を見るなり、話しかけてくる。

 彼女は学校にいる時と同様な口調であり、プライベートでも委員長らしさを感じられるほどだった。


「そ、それはたまたまで」

「そうなんです、丁度私たちは街中で出会って。それで、こうしているの」


 和樹と玲奈は付き合っている事を悟られないように、互いに早口になって何とか誤魔化そうとする。


「そこまで隠さないといけない事なんですか?」


 おどおどする二人を見て、智絵理は不思議そうに首を傾げていた。


「そ、それは……」


 和樹は口元を震わせ、言葉に詰まってしまう。


「もう、諦めてもいいんじゃないかな、岸本さん。委員長なら信用できるし。他の人だったら危ういかもだけどね」


 玲奈は、和樹の耳元でこっそりと言う。


「そ、そうだな。俺ら、一応付き合っているというか。あまり他人には言わないでほしいんだけど――」


 和樹は簡易的に説明した。


「んー、そういうことね。事情は分かったわ。秘密にしておくわね」


 その甲斐もあってか、智絵理はすぐに状況を察してくれたのである。

 最後には笑顔で対応してくれたのだ。


「そう言えば、二人は困っているようでしたけど。何かあったんでしょうか?」


 智絵理は、二人の顔色を交互に伺っていた。


「それがフライドチキンだけのセット商品を購入しようと思ってたんだけど、若干お金が足りなくて」

「そういう事ですか。でしたら、クーポン券がありますので、これでどうでしょうか? 以前、お店から貰ったモノですけど。私たちはそれを使わなくてもお買い物もできますし」


 智絵理は隣にいる付き添いの人から受け取ったクーポン券を和樹に差し出す。

 そのクーポン券を利用すれば三割引きになり、チョコパイも含めて、和樹が所有している現金だけでも購入可能になるのだ。


「え、いいの?」

「はい。困っているのなら、お受け取りください」

「ありがと、助かるよ」


 和樹はその時、感謝した。

 やはり、智絵理は学校以外でも委員長だと思ったのだ。


 これで妹に言い訳をしなくてもいいと思い、和樹はその後で、会計カウンターでフライドチキンだけのセット商品を注文するのだった。


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