第3幕ー8 謎は深まるばかり
メリークリスマス!
本日から諸事情(嫌なサブタイトルで今年終わりたくない)により毎日投稿します。~1/3まで
『新月』が終わり、エルネストから次の公演である『星彩』のチケットが2枚届いた。折角なのでシャーロットを誘ってみると、食い気味に行くと答え少し驚く。シャーロット曰く、劇場は1度行ってみたい場所で、やはりフォルトナ作の劇はプレディエール国でも耳に入るくらい話題になるものらしい。
簡単に国を空けられないシャーロットはベラーク国へ行く際にフォルトナ作の劇が見られないか期待していたが、イザベルから年1回くらいしか公演が無く、タイミング的に見る事は叶わないだろうと伝えられていた為諦めていたそうだ。
よってシャーロットはとても喜んで当日までウキウキしながら過ごしていたのだった。重たい話をした後だから、わざとそうしているのかもしれないが。
シャーロットを誘ったのは他にも理由がある。近日中に彼女は国へ帰らなければならなくなる。
あの後シナリオを作り、シリルを通じてクロウ家へ送ってもらっていた。人選はクロウ家に任せてあり、それが今日実行されるようになっている。
クロウ家ならば上手くやるだろう。プレティエール国の問題を長引かせると更に余計な問題が湧いてくる。クロウ家とてそれは望むところでは無いはずだ。
手に入ったチケットを手に2人で劇場へ入り、それから指定された桟敷席へ向かう。桟敷席には既にエルネストが座って寛いでいた。
珍しい事もあるものだ。大抵エルネストの知らない人を連れて行くと知ったら来ない人だ。それは私とエルネストの関係がフォルトナの秘密を守るという意味合いが強い。
「立ちっぱなしは疲れるよ?」
「どこに座れと……」
「いや~綺麗な女性を両脇に置いて観劇できるなんて贅沢だよね」
何を言い出すのだと言いかけた所でシャーロットがスタスタ歩いてエルネストの隣にストンと座った。こうなっては文句は言えない。仕方なくエルネストの隣に座ると彼は前もって用意されていたグラスに果実水を注いで手渡してきたので受け取る。
「オーリが新しい友人を作ったみたいだから、興味があってね。僕はエルネスト・ラサロ。オーリにとっては優しいお兄さんみたいな関係かな」
「そうか! わたしはシャーロットという」
「うんうん、よろしくね。良い子にはお菓子もあげようね」
そう言ってエルネストはシャーロットの手にマカロンを乗せた。
良いお兄さんぶっているつもりだろうが、初対面の相手には怪しい人に映るだろう。それでもシャーロットはニコリと笑ってマカロンを口にしたのだった。
会場はどんどん席が埋まっていき、始まるのを皆が待っている。室温も上がって暑いとさえ思えた。
そろそろかと思い始めた頃、どよめきが起こり舞台の方に視線を向けると、幕が上がっていない舞台の上にエミリアと王城でブリオネス公爵の補佐をしている文官が立った。観客達は劇が始まるのかと思い、喋るのを止め舞台を注視する。
「許可した覚えはないのだけどねぇ。……意地でもこの劇場を手に入れたいのか」
エルネストが不敵な笑みを浮かべて舞台に立つ2人に目を細めた。
文官は舞台の上に立っているエミリアが実はフォルトナであり、今まで正体不明だったのは彼女がベラーク国民では無かったからで、国の繁栄の為に移住することになったなどと、もっともらしい事を告げると困惑の為か会場はざわついた。
突然舞台の上に立って「実は私がフォルトナです」なんてやっても、困惑しかない。もっともらしい理由を付けたとしても、フォルトナとは正体不明である事に面白みも感じているのだから。
エルネストが私に近しい人以外にフォルトナの正体を教えないのは戦略だ。名前もエルネストが決めた。
フォルトナ作の劇をやると盛況なのは確実で運営をする上でも必要な事だった。多くの劇団員への給金、劇を上演する為の衣装や道具、建物の修繕等、とにかくお金がかかる。道楽で出来るようなものではない。
だから正体不明の作者という謎を作ったのだ。
この日の為にしつらえたドレスとアクセサリーでエミリアはニコニコしながら手を振っている。今日はあのアクセサリーを身に着けていないように見えた。
紹介は終わり、少し経ってから観客達が困惑した中で幕は上がり劇が始まった。
『星彩』はベラーク国で語り継がれている悪女を主人公にした物語だ。
その悪女の名前は“セシリア・クロウ”という。300年程前にベラーク国に実在したクロウ公爵家の娘で側妃だった女性。イザベルの婚約者でクレーエ家の当主となるべくやってきたシリル・クロウはセシリア・クロウの血筋であり、私達一族の1人だ。
今も尚語り継がれる彼女は親の言う事を聞かず、悪さをした幼い子供の脅し文句となっている。「セシリア・クロウになっちゃうよ!」とか「セシリア・クロウに連れて行かれるよ!」と日々活躍している。
セシリア・クロウが側妃として人前に現れたのは処刑の日のみ。
ではそれまでの間彼女は何をしていたのか、言い伝えでは自身が持つ美貌と公爵家出身という身分を盾に周りの迷惑を顧みず贅を尽くし、気に入らない者を些細な罪で家族もろとも処刑し、更には王になり替わろうとして王と王妃に毒を盛って殺そうとした、と言い伝えられている。
彼女の最後は首と両手両足に鎖を繋がれた状態で王都中を裸足で歩かされ、すれ違った者達から石を投げつけられた後、火あぶりの刑に処された。
火がつけられる前にセシリア・クロウは「王家の正統な血は絶たれた! この先、国は滅ぶだろう!」と大声で笑いながら呪いの言葉を吐いたという。死んだ翌年、王家は原因不明の病に襲われ、呪いは本物だったと人々は恐れおののいたそうだ。
セシリア・クロウの呪いを阻止したのは王妃で、彼女は女神から神託を受け病を鎮める方法を知ったらしい。それは王妃の姿を模した像を神殿に置くことだった。
そして王妃の父親が実は女神の血を引く一族だったと公表した事で“神血の一族”と呼ばれるようになったといわれる。
余談だが、その当時の王妃の名はローサ・ブリオネス。
まだ伯爵家だったブリオネス家出身であり、神殿に国内で一番権力のある女性が神殿に自分の姿を模した女神像を置くきっかけとなった女性である。
つまるところ、この劇『星彩』の内容はベラーク国に住む人達が知るセシリア・クロウの真逆の姿を描いたものだ。
思いきり側妃とブリオネス公爵家に喧嘩を売っている内容なのだ。一応クラウディオの婚約者としてやってきたエミリアがフォルトナとして表に出た以上、ただ事では終わらない。
これこそ思わぬ誤算。もしかしなくても勝手に帰ってくれるのでは?
期待をしてしまいそうになる。
「あの子、自分の置かれている立場が分かっているのかな。ますます『新月』の予言通りに不幸への道を進もうとしているように見えるね」
「エル様は彼等が不幸になると思います? もしかしたらこのまま上手くまとまるかもしれませんよ」
「それは無いかな。あの令嬢を王太子妃にしたところで旨味が全く無いよね。バルバーニー家なんて聞いた事が無い家だし。王妃になったとしても名前だけじゃないかな。とにかく別の有力貴族の令嬢を妻に迎え入れて表に出すと思うよ。うちの国は側妃が王妃を押しのけ、自分が王妃のように振舞っている事例が多いからね。誰とかどこの家とは言わないけれど」
「ああ……」
シャーロットは食い入るように舞台で演じられていく物語を見ていたので私達の会話なんて耳にも入らない様子だ。時々「おお……」とか呟いていたので楽しんでいるらしい。
舞台はセシリア・クロウが牢へ閉じ込められ翌日処刑されるシーンに入り、舞台に立つ俳優以外、全員が呼吸すらも聞こえないくらい静かになった。
「止めてーーーーっ!」
突然大声がして劇が止まる。声の主はエミリアだ。
「どういう事?! ワタシが書いた台本じゃない! ちゃんとワタシが書いたのを上演してよ!」
大声を上げたエミリアに全ての人の視線が集まった。
もっと早くに気づいていただろうに、このタイミングで言うなんて最悪だ。
不満が籠ったものも少なくは無い。現にシャーロットは舌打ちをしてエミリアを睨みつけている。
「これはフォルトナの作品じゃありませーーーーん! 間違えな……」
「うるせぇーー! 良い所なんだよっ!! 最後まで大人しく見やがれ!」
1階の一般客、平民が多く居る場所から怒声が聞こえると声を揃えて「そうだ!そうだ!」と声が上がった。決して安いとは言い難いチケット代を支払ってまで見に来ている観客は特に熱心に見る。そんな彼等の怒りの声が桟敷席から身を乗り出していたエミリアに向けられた。
今にも殴り込みに行きそうな空気に舞台に立つ俳優達は立ちすくみ、係員達は彼等が向かっていかないようドアを数人で固めた。
桟敷席からも身を乗り出して不満を訴えている人も居た。
「ぷっ……何、この茶番。さて、僕は戻ろうかな。色々対応しなきゃいけないしね」
そう言ってエルネストは立ち上がり片手をヒラヒラ振って去って行った。
怒りをぶつけられたエミリアは恐怖に顔を歪め、クラウディオが守る様にして離れて行く様子が見えた。王子役の男性俳優の機転で何とか暴動寸前で収まり、少し内容を戻した所から再開され幕は閉じたのだった。
「エミリア・バルバーニーは一体何を考えているんだ……」
帰るためにロビーまで出た所で、私が思っていた事と同じ事をシャーロットが口にした。




