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オリビア・クレーエ  作者: ならせ
第3幕
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第3幕ー7 シャーロットの事情

 屋敷に戻って真っ先に向かったのはシャーロットが使っている客室である。直接エミリアと対峙してみて変態なのは分かったが、それとは別に何か得体のしれないものを持っているような感じがした。


 帰りの馬車の中で催眠をかけようとしていたのではないかと考えていた。アルベルトの考えや思いと行動が一致しない事と、私に対してブレスレットを寄こせと言った時に感じた意識を持って行かれるような感覚、それらを鑑みて出た答えだ。

 もしそうだとしたら大事だ。次の王となるクラウディオを催眠状態にして、思い通りに操る事が可能だという事なのだから。


 ノックをすると中からシャーロットの声がしたのでドアを開ける。彼女は丁度読書中で本を脇に置いて振り返った。


「もう夕食の時間か?」

「まだ先よ。エミリア・バルバーニー様について、知っている限り全て教えてくれないかしら」

「何があった?」


 シャーロットの雰囲気が変わり、部屋の温度がぐっと下がった気がした。気持ちは分からなくも無いので、構わず話をしてみる事にした。こういうのは先人に聞くのが一番だ。

 アルベルトと腕を組んで歩く後ろ姿を見た事、それに対しての彼の反応。待ち構えられて言葉を交わした時に感じた意識を持って行かれるような感覚があった事を踏まえて立てた仮説。


 話し終えるとシャーロットは眉を寄せて目を閉じ、指先は何度も膝を叩く。


「そういう事か」

「印象としては変わった方、というより何だか普通じゃないような気がして」


 5人同時に婚約者の居る男性を虜にしたらしい女性。

 シャーロットが来た日に聞いた内容で、エミリアをとても妖艶な女性だと想像していた。実際は可愛らしい姿で、5人の男性に婚約破棄を決意させる程の魅力があるとはとても思えない。


「わたしが知っている範囲で教えるが、バルバーニー家自体はごく普通の平民より少し裕福な家だな。エミリア・バルバーニーはバルバーニー男爵の庶子で、母親はそこのメイドだ。バルバーニー男爵とは恋人の関係だったらしいが、結婚は認められず追い出された」

「よくある話ね」

「そうだな。エミリア・バルバーニーが男爵家に入ったのは半年程前、母親が亡くなったと言って訪ねてきた。ちなみに年は16、仕立て屋で針子をしていたらしい。異母兄弟になるが、弟が2人と妹が1人いる。仲が良いかどうかまでは分からないがな」

「16……」


 16歳で仕事をしていたのならば、1人でも生きていけると思うのだが。それにたった半年で社交界に出られる程の教養を身に着けるのは並大抵の努力では難しい。

 追い返すという方法もあったはずなのに。特に夫人は面白くないだろう。


「ここまでがわたしの知るエミリア・バルバーニーの全てだ。不自然だと思うだろう? ずっと平民として育った人間が男爵家に入って、たった数カ月で社交界デビューだ。さらに短い期間で婚約破棄騒動を起こしている。裏で糸を引いているのは王妹、つまりわたしの叔母上であるディクソン伯爵夫人だ。オリビアの話を聞いて確信を得たよ」

「どういう事?」

「わたしは伯爵家へ嫁いだ叔母上と王位を争っているのだよ、実は。プレディエール国王の子供はわたしだけなのだが、直系という点では叔母上も同じだからな。つい最近女性の王位継承が認められたばかりなのだが、早速名乗りを上げている上に既に支持者もそれなりに居る。準備が早すぎるのだよ。そこで思い至ったのが宝物庫に納められていたアクセサリーだったんだ。探したが、案の定無くなっていた。侵入はありえないが、父上の唯一の兄妹となってしまった叔母上ならば可能だろう。……全く忌々しい」


 綺麗な顔を険しくさせて吐き捨てるように言う。シャーロットは伯爵夫人を凄まじく憎悪しているようだった。


「じゃあシャーロットが婚約破棄されたのも、アクセサリーのせいだというの?」

「信じられないだろうがな。何代か前の王に仕えた妃の持ち物で、死の間際まで身に着けていたと言われているアクセサリーだ。多くの人が彼女の言う事ならば何でも従ったらしい。支持者を得るのに使ったと思ったが、エミリア・バルバーニーに使わせて、わたしへの信頼を失わせ、ベラーク国を外から操る算段だろう」

「対処法は無いのかしら」

「あるにはある……が、今は作っている途中で完成していないんだ」


 完成するまでの間、エミリアと接触するのを避けるしか方法は無さそうだ。早々にエミリアには国へ帰ってもらうのが一番だろう。


「事情が変わってしまったから、改めて考え直さなければ……。面倒な事をしてくれるよ、全く」

「だったら私達、手を組まない? シャーロットが女王になれるように手を貸すわ」

「国が離れているのに、どうやってわたしを女王にする? 冗談はよせ」

「冗談で言っていないわよ。シリル義兄様もいるのだし、やれるわ」

「そこまで言うのならやってみるが良い。本当にやれるのかどうか見せてもらうとしようか。女王になる事が決まったら望みを何でも叶えてやろう」

「……約束よ?」


 ニコリと微笑んで手を差し出すとシャーロットは不敵な笑みを浮かべて握り返す。


 シャーロットを女王にするという事は、エミリアがベラーク国に居る意味も得も無くなる。それにプレディエール国には敵がとても多そうだ。

 折角の縁だし、シャーロットに恩を売っておいても良いのではないだろうか。


 だって、ほら……ベラーク国では機嫌を損ねてはいけない人ナンバーワンだからね、この人。

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