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嫁ぎ先を交換したわたくしたちは二度とお前らに虐げられない!  作者: 青空一夏


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第8話 辺境伯との対決-1

 サロメが振り返ると、カールが恐ろしい形相でこちらへ向かってくるところだった。

「医師の見立てはどうだったの?」

 サロメは平然と尋ねる。側にいた執事は、はらはらと辺境伯とサロメを交互に見ていた。執事はこの屋敷で当主に逆らう人間など見たことがない。

「鼻の骨が折れていた。顔もひどく腫れている。お前のせいでリディアはひどい目に遭ったんだぞ!」

「まあ、それはお気の毒に。でも、命に別状がなかったのは何よりね」

 まるで他人事のようなサロメの返答に、カールの怒りはますます募った。リディアが怪我をしたというのに、妻は少しも悪びれた様子がない。そればかりか、涼しい顔で自分を見つめている。

「ふざけるな! 少しは反省しろ!」

 カールは怒鳴るなり、サロメに向かって拳を振り上げた。しかし、サロメは軽く身をひねってその一撃をかわすと、素早く間合いを取った。

 まさか避けられるとは思っていなかったのだろう。カールは驚いた顔をしたが、サロメはそんな夫を呆れたように見つめていた。

「国境を守る誇り高き辺境伯が、屋敷の中で妻を殴るなんて情けないと思わない? しかも身分の低い愛人を庇い、理不尽な理由で正妻に暴力を振るうとは、とてもお粗末で滑稽だわ。大勢の騎士を率いる武人のくせに、最も騎士道に背くような真似をしている。そんなことで部下に示しがつくの?」

 辺境伯の顔が怒りで真っ赤になった。武人としての誇りを傷つけられたことが、とても腹立たしかったのだ。

 サロメは少しも怯まなかった。むしろ、こういう相手なら遠慮はいらないと思っていた。貴族社会には、表面上は親切を装いながら、裏では陰湿な嫌がらせを繰り返す人間がいる。前世の姑がまさにそうだった。そういう相手は苦手だったが、カールのように怒りを隠さず、力で相手を屈服させようとする男なら負けはしない。

「そんなにわたくしを従わせたいのなら、正々堂々と勝負したら? 旦那様は武人なのでしょう? 武芸の腕前で公に決着をつける方が、よほど潔いし外聞もいいと思うわ」

 サロメが平然と勝負を持ちかけたことで、カールは一瞬呆気に取られた。しかし、すぐに馬鹿にしたような笑みを浮かべる。国境の防衛を任され、日頃から騎士たちの訓練にも参加している自分が、小娘ひとりに負けるはずがないと思ったのだ。

「いいだろう。そこまで言うなら相手になってやる。だが、負けたあとで泣き言を言っても許さんぞ!」

「もちろんよ。ただし、勝負をするからには条件を決めておきましょう。わたくしが勝ったら、今後、屋敷のことはすべてわたくしに任せてもらうわ。リディアにも、女主人であるわたくしの指示に従ってもらう。その代わり、旦那様が勝ったら、わたくしは屋敷のことに一切口出しをしないわ。それでどうかしら? 書面にして立会人は両隣の領地の当主にしましょう。あとから『言った言わない』で揉めたくないわ」

「ほお。ずいぶんな自信だな。俺はどんな勝負にも負けない。なにで競うかはお前に選ばせてやろう。せめてもの情けだ」

 辺境伯は鼻で笑った。初めから自分が勝つと決めつけているので、その条件にも異存はなかった。むしろ、生意気な妻をこの機会に徹底的に懲らしめてやろうと考えていた。

 もっとも、サロメの方も負けるつもりなど毛頭ない。幼い頃から身体を鍛えることが何より好きで、剣術も弓術も実家の騎士たちに交じって腕を磨いてきた。こと武芸に関しては、並の騎士に引けを取らない自信がある。

 もちろん、歴戦の武人であるカールが相手となれば油断は禁物だ。特に剣で戦うとなれば、体格や腕力の差が不利に働く可能性もある。しかし、技術と正確さを競う勝負なら、十分に勝ち目がある。

「それなら、弓で勝負しましょう!」




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