第5話 嫁ぎ先交換
「お父様は、どうしてそのようにお考えなのですか? きっと思慮深い理由がおありなのでしょう。教えてくださいませ」
ジュリエットが穏やかに尋ねると、伯爵はそれぞれの嫁ぎ先について簡単な説明をした後に、当然のことのように答えた。
「ソワイエ辺境伯家は、代々武勇をもって名を馳せてきた家だ。辺境の守りを任されているだけあって、当主も気性の激しい武人だと聞いている。だからこそ、妻には穏やかで優しく、家庭を温かく守ってくれる女性が向いていると思うのだよ。ジュリエットなら、きっとよい妻になれるだろう」
「なるほど……お父様のお考えにも一理ありますわね」
ジュリエットは微笑みながら頷いた。
父の考えは理解できる。気性の激しい武人には、穏やかな妻が似合うというのも、一般的にはもっともらしい話だ。しかし、ソワイエ辺境伯が妻に平気で暴力を振るう人物であり、メイドの愛人がいることを父は知らないのである。
「それに、マクレ侯爵家は由緒ある名門で、社交界での評判もいい。侯爵自身も温厚で礼儀正しく、母親を大切にしているそうだ。少々気の強いサロメには、そういう優しい男性の方が合うのではないかな」
一方のサロメは、あからさまに眉を顰めた。確かにマクレ侯爵は、外では物腰の柔らかい紳士として振る舞っていた。母親を大切にする孝行息子だと評判だったことも覚えている。しかし、実際には母親の言いなりで、妻の訴えなどまったく聞こうとしない男だったのだ。
「お父様の考えはわかったわ。でも、わたくしはソワイエ辺境伯家に嫁ぎたいのよ」
「……サロメが辺境伯家に?」
伯爵は意外そうに目を見開いた。
「ええ。わたくしは剣術も乗馬も好きですし、身体を動かすことが性に合っています。武芸を重んじる辺境伯家なら、きっと楽しく暮らせると思うのです。それに、気性の激しい男性が相手なら、わたくしの方がうまくやっていけるのではないかしら」
「いや、しかし……サロメも気が強いからな。夫婦で喧嘩になったりしないか? 」
「喧嘩になったとしても、負けるつもりはありませんわ」
サロメが平然と答えたので、伯爵は困ったように笑った。
「まったく、サロメにはかなわないな。結婚を戦のように言うものではないよ 」
「お父様、お姉様の願いをお聞きくださいませ。わたくしはマクレ侯爵家に嫁ぎたいと思いましたから、ちょうど良いのです」
ジュリエットはサロメに加勢するように続けた。
「マクレ侯爵様のお母様は上品で優美な趣味を好むでしょう。わたくしなら刺繍や生け花も得意ですし、きっとお話があいますわ。温厚なマクレ侯爵とも相性は良いと思います」
「そうか……ジュリエットはマクレ侯爵家の方がよいのか」
伯爵はしばらく考え込んだ。娘たちの性格を考えれば、自分の提案した組み合わせが良案だと思っていた。しかし、本人たちがこれほどはっきり希望しているのなら、無理に反対する理由もない。そもそも、どちらも家柄や格式に問題のない縁談である。
「あなた、二人がそう言っているのですから、希望を聞いてあげてもよろしいのではありませんか?」
それまで黙って話を聞いていた伯爵夫人が、穏やかに口を添えた。
「そうだな。わたしも二人によかれと思って勧めたのだが、結婚するのは二人だからね。先方も特に名指しではなく、バルドー伯爵家の娘を所望とのことだった。ならば、そのように話を進めよう」
「ありがとうございます、お父様」
姉妹は揃って頭を下げた。
伯爵夫妻は、娘たちが自分の意思で結婚相手を選んだことを喜んだ。しかも、あれほど仲の悪かった二人が、仲良く相手の望みを叶えてあげてほしいと言うのだから、なおさらである。
こうして、サロメはソワイエ辺境伯家に、ジュリエットはマクレ侯爵家に嫁ぐことが正式に決まったのである。
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