第4話 どうやら妹も死に戻ったらしい
朝食が済むと、サロメはジュリエットの後についていった。後ろにはそれぞれの侍女が控えていたが、ジュリエットはにこやかに振り返ると、二人に向かって言った。
「わたくしとお姉様は、これから夢のお話をしますの。とてもばかばかしいお話ですから、お前たちに聞かれると恥ずかしいわ。廊下で控えていてちょうだい。聴き耳を立ててはだめよ」
「はい、かしこまりました」
侍女たちは神妙な顔つきで返事をしたものの、どちらも不思議そうにしていた。普段の姉妹はあまり親しくなく、顔を合わせても必要なこと以外はほとんど話さない。それなのに、今日は朝食の席でも仲良く話していたのだ。いったい何があったのだろうと、気になって仕方がない。
「ジュリエットとわたくしは、今まで気が合わなかった。けれど、これからは違うと思うわ。わたくしたちの敵はおそらく夢の中にいるのよ」
サロメがそう言うと、侍女たちはますます困惑した。ただ、バルドー伯爵夫人は、娘たちが仲良くすることを大層喜んでいた。ならば自分たちも、これまでのように互いを牽制する必要はないのかもしれない。そう考えた侍女たちは、顔を見合わせて小さく頷き合った。
ジュリエットはサロメの手を引いて自分の部屋に招き入れると、扉を閉めて鍵をかけた。すると、それまで我慢していたサロメが、さっそく口を開いた。
「聞いて、ジュリエット。あれはただの夢なんかじゃないわ。これから現実に起きることなのよ。わたくしはマクレ侯爵に嫁いだ。あの男は母親の言うことしか信じない、どうしようもない男だったわ。そして、腹黒い姑に嵌められたわたくしは、古びた離れに追いやられ……そこで命を落としたの」
「……なるほど。わたくしはソワイエ辺境伯家に嫁ぎました。あの方はひどい乱暴者で、嫁いだときには、すでに寵愛しているメイドのリディアがいました。やがてその者が妊娠すると、辺境伯は生まれてくる子を、わたくしが産んだことにしようとしたのです。そのために、わたくしを地下室へ閉じ込めました。妊娠していないことを、誰にも知られないようにするためです」
ジュリエットはそこで一度言葉を切った。
「逆らえば殴られました。わたくしには抵抗するだけの腕力もなく、ただ耐えることしかできませんでした。……とても悔しかったですわ。そしてわたくしも辺境伯から受けた暴力が原因で命を落としました」
そう言って、ジュリエットは一筋の涙を零した。サロメは思わず妹を抱きしめた。今まで気が合わないと思っていた妹だが、自分と同じように悲惨な最期を迎えていたことが、たまらなく不憫で悔しい。
「乱暴者か……妻を殴って言うことをきかせるような男なら、わたくしは負けないわ。腕力で解決できる相手なら、むしろ好都合よ。ジュリエット、あなたはどう? 親切で優しいふりをしている、腹黒い姑をうまくあしらえる?」
「実際にお会いしてみなければわかりませんけれど、おそらくお姉様よりは上手にお相手できると思いますわ」
ジュリエットが微笑むと、サロメもつられて笑った。
「過去に何が起きるかを知っているのだから、わたくし一人でも何とかできると思っていたけれど……考えてみれば、わたくしたちは嫁ぎ先を間違えたと思わない? 適材適所という言葉があるでしょう?」
「ええ。お姉様は男性に引けを取らず力持ちで、剣や弓矢の腕も見事です。わたくしはかなり、人の考えを読むことが得意ですものね」
「そういうことよ。確か、婚姻の申し込みが来るのはもうじきよね。先方はどちらも、バルドー伯爵家の娘を妻に迎えたいと言ってきたはず。まだ相手は決まっていないのだから、わたくしたちが希望を出せばいい。婚礼までは半年ほどあったはずよ」
「それなら、今からでも十分間に合いますわね」
「ええ。嫁ぎ先を交換しましょう。どう?」
「異存はありませんわ。お姉様、早速これから、お互いが嫁ぎ先で経験した出来事を、できるだけ詳しく紙に書き出しませんか?」
「書き出す?」
「ええ。夫やその家族の性格、使用人たちのこと、どんな事件が起きて、誰が何をしたのか。覚えていることをすべて書き出して交換するのです。そうすれば、何が起きるのかを事前に知ることができますでしょう?」
「なるほど。それなら相手の手口もわかるし、先回りして対策を立てられるわね」
サロメは嬉しそうに笑った。これまで妹とは何かにつけて意見が合わなかったが、こうして話してみると、思ったよりもずっといい。二人は顔を見合わせ微笑んだ。
それから数日後、バルドー伯爵家に二つの縁談が舞い込んだ。
一つはソワイエ辺境伯家から、もう一つはマクレ侯爵家からである。
どちらもバルドー伯爵家の娘を妻に迎えたいという申し込みで、姉妹のどちらを希望するかまでは指定されていなかった。
伯爵夫妻はさっそく二人の娘を呼び、縁談について話し合うことにした。
「実は、サロメとジュリエットに縁談が来ているんだ」
二人の父親であるバルドー伯爵はそう切り出すと、ソワイエ辺境伯家とマクレ侯爵家から婚姻の申し込みがあったことを説明した。
「どちらも由緒ある家柄だし、申し分のない縁談だと思っている。そこで、二人の意見も聞いておきたいのだが……」
伯爵は二人の娘を交互に見つめた。
「わたしとしては、サロメにはマクレ侯爵家、ジュリエットにはソワイエ辺境伯家がよいのではないかと思っている」
それを聞いた姉妹は、思わず顔を見合わせた。前の人生とまったく同じ組み合わせだったからである。前の人生ではその理由を特に聞いた覚えはない。けれど、今はその理由を聞き、なんとしても伯爵の考えを覆さねばならない。
(絶対に嫌よ)
しかし、ジュリエットは嫌悪の表情はおくびにも出さず、伯爵に向けて甘えるような視線を向けた。
「お父様は、どうしてそのようにお考えなのですか? きっと思慮深い理由がおありなのでしょう。教えてくださいませ」




