第3話 初めて気が合った姉妹
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「えっ……ちょっと待って。わたくしは死んだはずでは? でもここは間違いなくバルドー伯爵家だわ」
朝の陽射しが窓から差し込んでいた。サロメは寝台から起き上がり、見慣れた自室を見回した。廊下を妹のジュリエットが侍女と通り、二人の会話が聞こえた。ジュリエットはいつもサロメより早起きだった。
「お姉様は本当に努力家ですわ。頭より身体を鍛えて、剣や弓矢の腕は誰よりも強い……男性だったら王族を守る近衛騎士になれましたわね」
「誠にジュリエットお嬢様のおっしゃる通りです。サロメお嬢様が男性でなかったことは、バルドー伯爵家の損失です」
言葉では褒めているが、クスクス笑う小ばかにしたような言い方に、サロメはいつも苛ついていた。ところが、今日はそんな妹の嫌みさえ懐かしかった。あの侯爵家で受けた仕打ちに比べれば、こんなものは可愛らしいものだ。
「サロメお嬢様。お目覚めですか? お支度をお手伝いに参りました」
サロメの侍女がやって来た。
「今日の日付は?」
「本日はカプシーヌ歴564年11月1日にございますよ」
にっこりと笑いながら答える侍女に、サロメは我が耳を疑う。
サロメたちが嫁いだのは、この半年後だ。
まさかと思い、サロメは鏡台の前に立った。
そこに映っているのは、艶やかな金髪に澄んだ青い瞳を持つ、若く美しい自分の姿だった。頬には健康的な赤みが差し、肌にも張りがある。
離れに閉じ込められていた頃は、一日一度の粗末な食事で痩せ細り、頬はこけ、髪も艶を失っていた。最後には鏡を見る気力さえなかったほどだ。
それなのに、今は身体のどこにも痛みがなく、力もみなぎっている。
「本当に……戻ってきたのね」
サロメは鏡に映る自分を見つめ、頬にそっと手を当てた。
「なんという幸運。わたくしはあの未来を知っている。ならば、同じ過ちを繰り返さずに済むわ」
身支度を終えたサロメは、朝食を取るために食堂へ向かった。バルドー伯爵家では、特別な用事がない限り、家族そろって食事を取ることになっている。
食堂にはすでに両親と兄のジュルダン、そしてジュリエットが席についていた。両親はいつもどおり穏やかに談笑しており、兄も静かに食事をしている。
サロメは自然とジュリエットをちらちらと見てしまう。ジュリエットは澄ました顔で上品に料理を味わっていたが、時折、探るような視線をこちらへ向けていた。
「お姉様ったら、わたくしをジロジロと先ほどから見ていますけれど、いったいどうしたんですの? 食事中は人のことを、そのようにまじまじと見つめてはいけませんわよ。なにかおっしゃりたいのならどうぞ」
「わたくしは夢で未来まで行ってきたわ。ジュリエットはそれを聞いてどう思う?」
サロメはここでも単刀直入に言ってしまう。
「まあ、サロメったら。またおかしなことを言い出して。あなたの夢はいつも奇想天外ね」
母親は呆れたように笑った。娘の突拍子もない発言には、すっかり慣れているのだ。
これまでのジュリエットは、そんな姉の話に関心なさげに薄く笑うだけだった。しかし、今は違った。
「まあ、それは興味深いですわ。ぜひ後でわたくしの部屋にいらして、詳しくお伺いしたいです。どんな小説よりも楽しいでしょうね」
「あら、珍しい。ジュリエットまで夢の話を聞きたがるなんて。今日は二人とも仲がいいのね」
母親は嬉しそうに姉妹を見比べた。
「いつもそうして仲良くしてくれると、お母様も嬉しいわ。せっかく双子に生まれたのですもの」
ジュリエットが自室に誘ってくるなど、これまで一度もなかったことだ。
サロメはジュリエットに向かって真剣な顔で告げた。
「いいえ……楽しくはないわ。すごく胸クソ悪い話よ。でも、ジュリエットに聞いてほしいのよ」
「……わたくしもお姉様に、とても楽しくない夢のお話をいたしましょう。初めて気が合いましたわね」
ジュリエットは艶やかな笑みを浮かべて、優雅にデザートを手に取った。
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