↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ZERO  作者: 楓シロ
PR
24/25

第24話 大阪城へ

 大阪城へ向かう大通りは、すでにまともな道路ではなくなっていた。


 信号はすべて赤。

 交差点の中央には無人の自動運転車が何台も斜めに停まり、車道を塞いでいる。

 歩道では、避難先を失った市民たちが、何が起きているのかも分からないまま右往左往していた。


「大阪城まで、あとどれくらい!?」

 走りながら彩乃が叫ぶ。

『現在地から約二キロメートルです』

「遠っ!」

「喋ってる暇あったら走れ」

 颯斗が前を向いたまま言う。


 《高脅威対象三名、大阪城公園方面へ移動中》


 その時。

 頭上から、低いモーター音が重なって聞こえてきた。

「……上!」

 蒼紫の声に、三人が一斉に顔を上げる。

 ビルの谷間から、数十機の配送ドローンが姿を現した。

 普段なら食品や日用品を運ぶ、小型の無人配送機。

 だが今、その底部には、普段の荷物とは明らかに違う大型の金属製ボックスが吊り下げられていた。

「何持ってんだ、あれ……」


 次の瞬間。


 ガコン。


 ドローンの一機が、抱えていた金属製の配送ボックスを切り離した。

「散れ!」

 颯斗の叫びと同時に、重量物が歩道へ激突する。


 ドォン――ッ!


 コンクリートが砕け、破片が四方へ飛び散った。

 続いて二機、三機。

 次々と荷物が投下される。

「配達の仕方、間違ってるわ!」

 彩乃が叫びながら身をかわす。


 蒼紫が両手を前へ向けた。

「伏せろ!」

 空気中の水分が一気に凍りつき、頭上へ半透明の氷壁が広がる。

 その直後、複数の配送ボックスが激突した。


 バキィン――!


 氷が大きくひび割れる。

「やべっ……!」

 蒼紫が歯を食いしばり、必死に氷を補強する。

「長くは持たない!」

「十分だ!」

 颯斗が氷壁の下を駆け抜ける。


 その直後、氷壁が限界を迎えて豪快に破砕した。

 砕け散る氷の結晶の中、颯斗が地を蹴る。

「蒼紫、動くな!」

「はあ!?」

 次の瞬間、颯斗の足が蒼紫の肩にかかった。

「おい――!」

 そのまま蒼紫を踏み台にして、一気に上空へ跳ぶ。

 腰の刀が抜き放たれた。


 一機。

 二機。

 三機。


 空中で身体を捻りながら、迫っていたドローンを立て続けに斬り裂く。

 切断された機体が火花を散らし、次々と墜落していった。

 着地した颯斗の背中へ、蒼紫の怒声が飛ぶ。

「人を踏み台にするな!」

「助かっただろ」

「そういう問題じゃない!」


 三人が走り出したその先で、女性が道路の中央にしゃがみ込んでいた。

「彩乃!」

「分かってる!」

 彩乃が駆け寄り、女性の腕を取る。

「ここにいたら危ないです! 立てますか!?」

「でも、どこへ行けば……! 案内が全部消えて……!」

「マザー!」

『はい、彩乃さん』

「一般の人はどうしたらいいの!?」

『防衛システムは、現在、屋外にいる対象を優先的に脅威として識別しています』

「屋外……?」

『はい。一般市民の皆さんは、可能な限り建物内部へ避難してください。建物内へ移動すれば、現行の防衛プロトコル上、攻撃対象として認識される可能性は大きく低下します』


 颯斗が振り返る。

「聞こえたか! 建物の中へ入れ!」

 周囲の人々が一斉に顔を上げた。

「でも、さっきシャッターが――!」

「閉じ込められても、外にいるよりマシだ!」

 颯斗は近くの古い雑居ビルを指差す。

「自動設備が少ない建物を使え! 地下や奥の部屋へ入れ!」

 人々が我先にと走り出す。

 彩乃と蒼紫も、転んだ老人や泣き出した子どもを支えながら、次々と建物の中へ誘導する。

 最後の一人が入口へ消えた、その直後だった。


 遠くから、タイヤが地面を擦る異様な音が響いた。


 キィィィィ――ッ!!


「……何だ?」

 颯斗が振り向く。

 高架道路の上。

 無人の自動運転車が、一台、ガードレールへ向かって加速していた。


「まさか――」


 金属製の柵を突き破り、車体が宙へ飛び出す。

「嘘だろ!?」

 数トンの車両が、回転しながらこちらへ落下してくる。

「彩乃!」

「間に合わない!」

 颯斗が地を蹴った。

 全身に能力を巡らせ、落下してくる車体へ刀を振り抜く。


 凄まじい衝撃。

 刀身が車体の側面へ食い込み、軌道がわずかに逸れる。


 ドォォン――ッ!!


 車は三人のすぐ横へ叩きつけられ、路面を削りながら何十メートルも滑っていった。

「……そこから飛んでくるのかよ」

 蒼紫が呆然と呟く。

『警告』

 すぐ近くの案内板から、無機質な声が流れた。

『高脅威対象三名、移動継続を確認』


「また来るぞ!」

 今度は歩道脇に並んでいた清掃ロボットが一斉に動き出した。

 普段ならゴミを吸い取り、路面を磨くだけの小さな機体。

 だが今は、回転ブラシを異常な速度で回しながら、こちらへ突進してくる。


「いや、それまで敵になるの!?」

 彩乃が思わず叫ぶ。

 一台が足元へ飛び込んでくる。

 颯斗が蹴り飛ばす。

 だが二台目、三台目が続く。

 蒼紫が路面を凍らせると、清掃ロボットの群れが制御を失い、次々と壁へ激突した。

「……なんでもありだな」

「それな!」


 そのまま走りながら、蒼紫が前方を塞ぐ車列へ冷気を走らせる。

 タイヤと路面が一気に凍結する。

「颯斗!」

「ああ!」

 颯斗が一台の車体へ斬撃を叩き込み、横へ押し退ける。


 わずかな隙間。


「今!」

 三人が駆け抜ける。

 後ろでは警備機の足音が響く。

 上空ではドローンが旋回している。

 サイネージには赤い警告表示が次々と現れた。

 それでも、三人の足は止まらなかった。


 警告音を背に、止められた車列の隙間を抜け、何度も進路を変えながら走り続ける。


 やがて、周囲の高層ビルが少しずつ途切れ始めた。


 視界の先に、緑が広がる。


 その向こう。

 古い石垣の上に、大阪城の天守が姿を現した。


「……見えた!」


 街の中心部とはまるで別世界のように、視界が一気に開けた。

 自動化された都市設備も、ここまで来るとぐっと減る。


 一人、また一人。

 別の通りから逃れてきた能力者たちも、大阪城公園へと集まり始めていた。


「はぁ……はぁ……やっと着いた……」

 彩乃が膝に手をつき、荒い息を吐く。

 蒼紫も肩で息をしながら周囲を見回した。

「……さすがに、ここは少ないな」

 街中では、どこを向いても追ってきた配送ドローンや、自動運転車も見当たらない。


 颯斗も刀を下ろし、ほんのわずかに息を吐いた。

「ここなら――」


 その時だった。


「おい……」

 少し離れた場所にいた能力者の一人が、震える声を上げた。

「あれ、見ろ」


 全員の視線が、一斉に西の空へ向く。

 地鳴りのような重低音が、次第に大きくなっていく。


 大阪城公園の外。

 ビルの隙間を縫うようにして、赤い光がいくつも浮かび上がっていた。


 一つ。


 二つ。


 十。


 二十。


 それは次第に数を増しながら、こちらへ近づいてくる。

 低い駆動音が、地面の奥から響くように重なっていった。


 彩乃の顔から、わずかに戻っていた血の気が引く。

「……嘘でしょ」


 颯斗は再び、ゆっくりと刀を構えた。

「……来たか」


 大阪城へ辿り着けば、少しは時間を稼げる。

 そう思っていた。

 だが、防衛システムは――

 彼らを見失ってなどいなかった。


『大阪城公園周辺に、高出力の能力反応が集中しています。自律防衛システムがこれを高脅威対象と判定したようです』


 一斉に赤く発光する、無機質な光学センサー。

 機体群は明確に能力者たちを攻撃対象として捉え、大阪城公園に集結した能力者たちへ銃口を向けた。


 ◇


 大画面のモニターには、先ほど颯斗たちが到着した大阪城公園の緊迫した様子が、ドローンからの空撮映像で映し出され続けている。尚人は、自分のスマートフォンを両手で抱え込んだまま、ソファの隅で小さく震えていた。

「……俺のせいだ。みんなが戦うことになんて……」

「今は、そんなこと言ってる場合じゃない」

 悠は尚人を責めることなく、ただ短く告げて、真っ直ぐにモニターへ向き直った。


 悠は傍らのフェザーへ視線を向けた。

「マザー。状況を教えてくれ」

『はい、悠。現在、大阪城公園に集結した能力者たちに対し、夢洲セクターからの自動防衛機体が急速に接近しています。一分後には、交戦状態へ移行すると予測されます』

「颯斗たちは……あいつらは、大丈夫なのか?」

『リアルタイムで、彼らのバイタルと現場の視覚情報を共有します』


 画面が切り替わると、大阪城の広大な敷地で、押し寄せる無数の鉄の群れを迎え撃つ颯斗たちの姿が、鮮明に映し出される。

 能力者たちの先頭に立つ颯斗、彩乃、蒼紫。

 しかし、敵の数はあまりにも多すぎた。視界の先を埋め尽くし、無限に湧き出てくるかのような無機質な兵器の列。


 悠は、ただ拳を強く握りしめることしかできなかった。

 今の自分には、彼らと同じように戦う力がない。

 ただここで、彼らが傷つき、戦う姿を、画面越しに見つめることしかできない。


「颯斗……彩乃、蒼紫……っ!」

 届かないと分かっていても、悠の口から、祈るような声が漏れ出していた。


 そのとき、

「悠」

 振り向くと、そこには宗像が立っていた。

 作業着は煤で汚れ、額には汗が滲んでいる。


 いつもどこか余裕のある男の顔から、その余裕だけが綺麗に消えていた。


「宗像さん?」

「夢洲に行くぞ」

「え?」

「時間がない」


 宗像の目は迷いがなかった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。