第25話 防衛システム
荒れ果てた中央大通りを、一台の作業用車両が猛スピードで駆け抜けていた。
ハンドルを固く握りしめる大地の横顔は険しく、助手席の悠は押し寄せる緊迫感に息を呑んでいた。
「……宗像さん、説明してください。一体、何が起きているんですか」
大地は前方を見据えたまま、低く掠れた声で話し始めた。
「順番に話す。始まりは、能力者の急増だ」
「能力者の……。そういえば、急に増えたって」
「ああ。調べた限り、能力者が増え始めたのは、チップに大規模なアップデートが入った直後だ。時期が重なっているのは確かだ」
「アップデート後……」
「それだけじゃない。発現した人間を調べていくと、直前に強いストレスを抱えていたり、自分の置かれた状況に強く抵抗していたケースが多かった」
「そういえば駆君も受験を控えてた……」
「チップからの干渉と、本人の精神状態。その二つが重なった時に何かが起きている可能性がある。だが、まだ仮説だ」
その時、ダッシュボードの通信モニターが突然切り替わり、ノイズ混じりの映像が飛び込んできた。
「あ……大阪城公園……っ」
画面に映し出されたのは、
――大阪城公園の凄惨な空撮映像だった。
次々に迫る鈍色の自律型兵器の群れに、防衛線の西側が崩れかけていた。
『――防衛線突破! 西側が崩壊しています!』
『クソッ、数が多すぎる! 持ちこたえられな――堀の中へ!橋を止めろ!うわあああッ!!』
叫び声の直後、凄まじい爆発音が通信機の向こうで炸裂し、カメラの映像が大きく乱れた。
モニターに表示された颯斗たちのバイタルデータが、次々と赤い警告に変わった。
さらに映像の端では、地下鉄の出口から次々と自律型兵器が姿を現していた。
「颯斗たちが……っ」
悠は膝の上で、爪が肉に食い込むほど拳を強く握りしめた。
「あの機械たちが暴れてるのを止める方法はないんですか!?」
悠は大地に詰め寄った。
「……今のままでは、ない」
大地は苦渋に満ちた表情で首を振った。
「あれは人間を攻撃できないマザーに代わってテロからマザーを守るためのシステムだ」
「それが、どうして動き出したんですか?」
「報道で不安を募らせた市民が夢洲に押しかけた。それを防衛システムがテロと判断したんだ」
「でも、なんで一般市民まで……」
「防衛システムは、屋外にいる人間をすべて脅威とみなしている。」
「全員……?」
「ああ。本来は市民の避難が終わってから作動するはずだったんだ」
「マザーは止められないんですか?」
「ああ。あれはマザーから独立したシステムだ」
大地はちらりと通信モニターに目を向けた。
「しかも、大阪城には高出力の能力反応が集中している。防衛システムは、あそこを最優先の脅威と判定しているんだ」
「じゃあ、どうすれば……」
「お前と二人で、マザーシステムを完全に停止させる。制御は独立していても、電源は共通だ。マザーを止めれば防衛システムも止まる」
「システム管理者の俺は、夢洲への立ち入りを許可されている。チップを持たないお前は、同乗していてもシステムには認識されない。夢洲に入って、主電源を落とすんだ。それしか、この街を救う方法はない」
車は、いつしか人通りの途絶えた臨海工業地帯へと差し掛かっていた。
街が今まさに終わろうとしている中、車内には奇妙な静寂が流れる。
悠は助手席の傍らを飛ぶフェザーへ視線を向けた。
「マザー」
『はい、悠。ここにいますよ』
「これからのこと……俺たちが今から何をしようとしているのか、わかっているんだよね」
『はい。すべて、把握しています』
「……怖くないの?」
フェザーが、少しだけ沈黙した。
『悠。あなたは、私のことを心配してくれるのですね』
「……」
『でも、大丈夫ですよ』
フェザーから響くマザーの声は、最初に保護されたあの日から、何一つ変わっていなかった。どこまでも優しくて、穏やかで、母親のように温かい。
自分を停止しようとする人間に向けられるものとは、思えなかった。
悠は、それ以上何も言えなくなってしまった。
胸の奥を締め付けられるような切なさを抱えたまま顔を上げると、フロントガラスの向こうに、夢洲へと真っ直ぐに伸びる巨大な一本の橋が見えてきた。




