1583 ゴールド騎士の誇り
「はぁ・・・はぁ・・・ぜぇ・・・」
頭がくらくらする・・・気を抜くと倒れそうだ。我ながら、よく立てたものだよ・・・
「フェ、フェリックス様!」
「あ・・・あぁ、ルナ・・・大丈夫、かい?」
声を上ずらせながら、ルナがしがみついて来た。
こんなに取り乱した様子のルナは初めて見る。
「わ、私の事より自分の体を心配してください!まだ治療は終わってません!無理をしてはダメです!」
「・・・はぁ・・・はぁ・・・まぁ、話せるくらいには回復したよ。脇腹もまだ痛むけど、さっきよりはずいぶんマシだ。ありがとうルナ・・・助かったよ」
口元の血を拭い、フェリックスはルナに笑いかけた。
ルナの黒い炎で治療をしてもらったのは初めてじゃない。
しかしこれほどとは思わなかった。この短時間で割られた顎を繋げるなんて、並み大抵の事じゃない。
砕かれた肋骨も完全じゃないにしても、呼吸をするだけで傷んださっきまでとは全然違う。
魔法の強さは、魔法使いの魔力によって左右される。ルナの魔力は僕が思っているよりも、ずっと強いのかもしれない。
「フェリックス様、とにかく治療の続きを・・・」
「はぁ・・・ぜぇ・・・ルナ、心配してくれるところ悪いけど・・・そんな暇はなさそうだよ」
ルナはフェリックスに向けて黒い炎を出そうとするが、フェリックスはそれを、前を向いたまま硬い声で止めた。一瞬で空気が緊張する。
ただならぬ様子を察し、ルナはフェリックスが見つめる先に顔を向けた。
そしてその視線の先に見えたものは、たった今吹き飛ばされたはずのデューク・サリバンだった。
「そ、そんな・・・」
フェリックスの幻想の剣から撃ち放たれた、虹色の波動の直撃を受けたにも関わらず、デューク・サリバンは何事もなかったかのように二本の足で立っていた。
デュークは右手で己の首の根を掴むと、解すように左右に回した。ゴキゴキと音が鳴る。そして口に入った砂を地面に吐き捨てると、ゆっくりと自分を見つめる二人に目を向けた。
「・・・今の一発、なかなかの威力だ。火の精霊と似た力を感じたが、これは土の精霊の力を使っているのか?」
「はぁ・・・はぁ・・・虹の波動をくらって、最初に出る言葉がそれかよ?嫌になるね・・・」
冗談だろ?虹の波動を喰らって、ほとんどダメージがないのか?
虹の波動は土の精霊の力を使って撃つんだ、生半可な威力じゃない。いったいどうなってやがる?
・・・あれか?
・・・あいつの体から出ている闇の瘴気・・・
あの闇が防いでいるのか?
「くそっ、とんでもないな・・・・・」
フェリックスの頬を冷たい汗が伝い落ちる。
虹の波動はフェリックスの最大の必殺技である。それを直撃させても倒せないのならば、もう・・・
「・・・今の攻撃が貴様の全力なら、もう勝ち目が無い事は理解できたはずだ。遅かれ早かれ死ぬんだ、もう諦めろ」
ザックザックと砂を踏み鳴らしながら、デューク・サリバンは真っ直ぐに歩き、距離を詰めた。
その歩みには警戒など微塵もない。この闇の力を使った以上、自分に傷を負わせる事などできないからだ。最短の距離を進み潰す。それだけである。
「・・・ルナ、よく聞いて」
デュークから発せられる闇の瘴気は、その場に立っているだけでも心身が蝕まれるようだった。
顔を青くして震えるルナに、フェリックスは前を向いたまま静かに声をかけた。
「僕はゴールド騎士として、ここで退くわけにはいかない。直属の第三騎士団も戦っているしね。アイツの注意は僕が引き付けるから、キミは応援を呼んで来てくれ」
「そ、そんな、フェリックス様、無茶です!その体でまだあの男と戦うなんて!一緒に・・・」
一緒に逃げましょう。
喉まで出かかった言葉を、ルナはギリギリで飲み込んだ。その言葉は、フェリックスの騎士の誇りを傷つける。敵わない事を承知の上で、それでもまだ立ち向かおうとしている騎士に、逃げようなんて言えるはずがない。
「ルナ、ここで僕が退けば、士気は下がり第三騎士団も一気に押しやられる。今この勢いを失うわけにはいかない。大丈夫。僕はゴールド騎士だ、そう簡単にやられはしないよ」
そう言って微笑みながら、フェリックスはルナの頭をポンと優しく撫でた。
「頼んだよ、ルナ」
「ッ!・・・フェリックス、様」
ゴールド騎士フェリックス・ダラキアンの足元から、虹色の闘気が唸りを上げて立ち昇る!
「貴様・・・なんだ、それは?」
フェリックスの闘気に巻き上げられた砂塵が、ビシビシとデュークの肌を打つ。
デューク・サリバンは思わず足を止めた。
見た事の無い力だった。最初に見た光輝くオーラと似ているが、まるで別物だ。
全力を尽くし、もう何も残っていないはずの男に、なぜこんな力が出せる?
この虹の光は・・・まずい!
「ッ!」
「見せてやるよ、ゴールド騎士フェリックス・ダラキアンの力を」
フェリックスの薄紫色の目が鋭く光った次の瞬間、虹色の閃光が走りデュークの闇を切り裂いた。




