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1580 フェリックス 対 デューク・サリバン

「どうやら僕達クインズベリーが優勢みたいだね?焦るかい?師団長さん」


ゴールド騎士のフェリックス・ダラキアンは、虹色に淡く光る剣を握りながら、デューク・サリバンを挑発するように見た。

フェリックスから少し距離を置いた後方では、闇の巫女ルナがフェリックスの背中を見つめていた。

その黒い瞳には不安や心配ではなく、強い信頼があった。


開戦と同時に飛び出したフェリックスは、直属の第三騎士団を率いながら敵陣に突撃し、見事に師団長であるデューク・サリバンの元へ辿り着いていた。

そしてクインズベリー第三騎士団が、帝国軍第七師団と交戦し押さえる事で、フェリックスとデュークの一騎打ちの構図を作り出していた。



「焦る?なぜ俺が焦らねばならない?」


帝国軍第七師団長デューク・サリバンは、深紅の鎧は身に付けているが、武器らしい物は何も持っていなかった。両の拳を肩の高さで軽く握り、右足を後ろに引いて左半身を前に構えている。


フエリックスの武器、幻想の剣を相手に素手で戦っていたのだ。



砂上で対峙する両者は、対照的な姿だった。

ゴールド騎士のフェリックスは、黄金の鎧に傷一つ付いておらず、涼しい顔をしていた。

ここまで無傷でたどり着き、デューク・サリバンを相手に一撃ももらっていない証明である。


しかしデューク・サリバンの深紅の鎧は、ところどころにヒビが入り、鎧の一部は斬り取られて欠けていた。左頬から顎にかけてパックリと斬られた傷からは、真っ赤な血が流れ出ている。


無傷のフェリックスに対して、デュークは少しづつ、だが確実にダメージを蓄積させていた。



「なに余裕かましてんのさ?あんたさぁ、自分の攻撃が僕に一発も当たってないの分かってる?僕の攻撃も致命傷は与えられてないけど、徐々に切り刻んでるんだ。その首を飛ばすのも時間の問題だよ?しかもあんたのお仲間もどんどんやられてるときた。絶体絶命ってヤツだよ」


フェリックスが得意気に話すのも無理からぬ事だった。

現在この戦場では、目に見えてクインズベリー軍が押している。帝国軍第七師団の幹部達もほぼ壊滅状態であり、あとはフェリックスがデューク・サリバンを倒せば、この戦場はクインズベリーの勝利なのだ。


しかも戦闘はフェリックスがペースを握っている。

多少の時間はかかるだろうが、このままならフェリックスが勝ち切るだろう。


「貴様は一つ、大きな勘違いをしている」


「は?勘違い?」


現状を見れば、フェリックスが指摘する通りである。

だが追い詰められているはずのデューク・サリバンには、フェリックスが口にする、焦り、は微塵も無かった。それどころかデューク・サリバンの黒い目には、揺るぎない自信、いや確信があった。

そう、勝つのは自分だという確信である。



「そうだ、戦いとは最後に立っていた者が勝者だ。ならば戦いの過程でどれだけ貴様らが優位に立とうとも、最後に立っている俺が勝者という事だ」


途中経過は関係ない。そう言い切るデューク・サリバンの言葉に、フェリックスは一目を瞬かせた。

何を言っているんだ?率直に頭に浮かんだ言葉だ。この戦場はもはや、デューク・サリバンさえ倒せば、勝負がつくのだ。ここまで追い込まれて何を馬鹿な事を言っている?


「・・・ハッ、まだ勝つ気なの?諦め悪いよ?」


「そう思うならばかかって来い。すぐに分かる事だ」


フェリックスが嘲笑するが、デューク・サリバンは眉一つ動かさず、拳を構えたまま淡々と言葉を返した。


「・・・ふ~ん、そう?じゃあ行かせてもらおうかな」


そう呟くと、フェリックスの顔から笑みが消えた。

軽薄な態度をとっているが、それはあくまでも表面だけである。フェリックスは戦いを舐めているわけでも、デューク・サリバンを軽く見ているわけでもない。


スピードでデュークを上回っているフェリックスは、今のところ被弾はしていない。だがフェリックスも決定打は与えられていないのだ。相手は大陸最強の軍事国家ブロートン帝国の師団長である。今優位に立っているからと言って、決して緩めてはならない。



デューク・サリバン!お前のその首、僕がとってやるよ!



フェリックスが地面を蹴ったその時だった。



「およそ六分、二ラウンドも見ればだいたい分かる・・・」

「!?」



六分?二ラウンド?何だ?何を言っている?



ボクシングを知らないフェリックスは、デュークの言葉の意味が理解できなかった。

だがその意味を理解できなくとも、フェリックスに迷いは無い。



いや、余計な事は考えるな、僕の方がスピードで勝っている。ここまでこいつの攻撃は全て躱してきた。

集中しろ、このまま行け!僕がこいつを倒すんだ!



幻想の剣を脇に構え、一直線に駆けてデュークの首を狙い、突きを繰り出す!


「ッ!」


超高速の突き!真っ直ぐに伸ばした幻想の剣の切っ先が、デューク・サリバンの喉を斬り裂くと思われたその時、まるで軌道を読んでいたかのように、デュークは最小の動きで身を反らし、フェリックスの突きを躱した!



今のタイミングで躱すのか!?だが!


体当たりのように突っ込んで行ったため、否が応にもフェリックスの体は前方に向かってしまう。

一撃を躱したデュークは、フェリックスの背中を見下ろす形である。

フェリックスにとって致命的な隙であり、デュークには絶好機である。この背中に拳を打ち下ろせば一発だろう。


だがフェリックスは、強く地面を踏みつけて強制的に動きを止めた。

全力疾走した体を無理矢理止めたため、本来であれば肉体に反動がきてダメージを受けかねないが、足に纏った闘気でダメージは最小にまで軽減されていた。そして瞬時に足を回し体を捻り、右手に握る幻想の剣を、デュークの首に向かって振り抜いた!


だが・・・


「ッ!」


フェリックスの剣を、デュークは腰を落として躱した。

虹色の刃はデュークの坊主頭の数センチ上を、ただ風だけを切った。その動きは、フェリックスがこう剣を振るう、それを予見していたかの如き動きだった。そう、デューク・サリバンは、フェリックスの剣の速さ、タイミングを掴んでいた。



な、んだと!?


驚愕するフェリックス。

デュークの動きは、さっきまでとはまるで違う。たった二振りだが、自分の剣が見切られたと悟った。

動揺はフェリックスの体の動きを、ほんの一瞬だが止めた。


そしてその一瞬をデュークは見逃しはしない。


左肩を後ろに引き付けると、反動を付けて腰を回転させ、左拳を振り抜いた!



「ガ・・・ァ・・・ッ!」


デューク・サリバンの左ボディフックが、フェリックスの右脇腹に突き刺さった。



「六分、二ラウンドも見ればだいたい分かると言ったはずだ」



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