1579 人間として、騎士として
「アルベルト、いつまでやってんの?もういいんじゃない?」
ゴールド騎士のフェリックス・ダラキアンが、呆れたように眉を寄せながら話しかけてきた。
「ふぅ・・・別に俺を待つ必要はないんだぞ?自分の訓練が終わったのなら、先に帰ればいい」
騎士団宿舎の敷地内にある訓練室で、俺は闘気を使う訓練をしていた。
すでに時刻は22時を回っている。他の騎士達はとっくに引き上げており、残っているのは俺とフェリックスだけだった。
バリオスから教えてもらったこの闘気という力は、恐ろしい程強力なものだった。しかし誰でも覚えられるものではない。騎士団では俺とフェリックス、あとは数人のシルバー騎士しか会得できなかった。
「アルベルトは真面目だねぇ?でもさ、闘気は僕もキミも、もう十分ものにしたと思うけど?そんなに一日中頑張らなくてもよくない?」
フェリックスは切れ長の目を細めると、小さく笑って首を傾げる。
こいつは昔からこうだ。ヘラヘラしていて適当で真剣みというものが無い。
「いいや、まだまだだ。ゴールド騎士の称号に相応しい男でいるためには、現状で満足しては駄目だ。フェリックス、お前こそもっと真剣に訓練したらどうだ?お前が本気で取り組めば、もっと高みにいけると思うんだがな」
「え?なに言ってるのアルベルト、僕はいつだって真面目だよ?時間外労働はしないだけさ」
「はぁ・・・本当にお前は・・・まぁいい、俺はもうしばらくやっていく。お前は帰れ」
「え?命令しないでよ?僕はアルベルトが頑張るところを、くつろぎながら眺めて時間を潰すよ」
そう言ってフェリックスは壁に背を預けると、ニコニコしながら俺の訓練を見つめた。
「あ、アルベルト、もうちょっと力抜いたほうがいいよ」
「あ~・・・そうじゃないんだよね。もうちょっと自然体で」
「だからさぁ~・・・アルベルトって意外と不器用なとこあるよね」
俺が訓練を続けている間、フェリックスはダメ出しとアドバイスをくれた。
フェリックス、こいつは俺とは違う。天賦の才がある。
こいつが本気で訓練すれば、ゴールド騎士の中でも歴代最強・・・そう、ゴールド騎士という言葉では収まらない存在になれると思う。
そう考えると・・・・・
「・・・もったいない」
「え?何?」
耳ざとく俺の呟きに反応するフェリックスに、俺はフッと口の端を持ち上げた。
「・・・なんでもない・・・さて、今のは良い感覚だった、忘れないうちにもう一度だ」
「え~、まだ続けるの?アルベルトって本当に熱心だよね?まぁ、いいけどさ」
結局この日も俺が訓練を終えるまで、フェリックスは付き合ってくれた。
フェリックス・・・
お前なら、俺が目指した高みに届くはずだ
だからもう、過去に縛られるな
お前はもう忘れたと言っているが、心の深いところで、まだ自分の過去を引きずっているんだ
だから適当な振る舞いをして軽い男を装う事で、自分の本心を見せないようにしているんだ
なぁフェリックス・・・周りをよく見てみろ
今のお前には沢山の仲間がいるじゃないか
お前を慕って隣を歩いてくれる子もいる
だから・・・もう過去に捕らわれるな
お前なら乗り越えられる
お前なら・・・・・
「フェリックス・・・あとは・・・・・まかせた、ぞ・・・」
その言葉を最後に、アルベルト・ジョシュアの体から力が抜け落ちた
「・・・・・アルベルトさん」
ガクリと落ちた首を支えて、アラタはアルベルトが息を引き取った事を見届けた。
光の波動の直撃を受けたアルベルトはボロボロだった。
深紅の鎧は砕け散り、体中が全身が赤黒く焼けている。そして頭、肩、胸、至るところから血が流れ落ちていた。
しかしこれだけの傷を負っても、その死に顔に残ったものは、痛みや苦しみではなく安らぎだった。
そう、アルベルトは安らかな心で息絶えたのだ。
アルベルト・ジョシュアは、最期は自分を取り戻した。
操り人形のまま終わるのではなく、人間として、騎士としてその命を終える事ができた。
体の自由を奪われながらも、懸命に自分自身と戦い、そして仲間に後を託す事ができた。
クインズベリーを信じているからこそ、アルベルトは安らかに逝く事ができた。
「・・・・・あとは、任せてください」
そう呟き、アラタはそっとアルベルトの亡骸を横たえた。
アルベルトさん・・・
あなたは俺を殺そうと思えば殺せたはずです
でも、あなたは自分の命より、クインズベリーの勝利を願った
その想いに応えてみせます
そしてあなたの最後の言葉・・・・・
俺がちゃんと届けます
「・・・残りの帝国兵を倒すぞ」
立ち上がったアラタの目には、揺るぎない強い意思が宿っていた。




