1578 託した想い
グラビティ・バーストは、アルベルト・ジョシュアの最強の技である。
グラビティソードの刀身に重力エネルギーを集め、超重力の波動として撃つ。
超重力の波動は不可視であるため、回避は困難である。そして防御も難しい。属性技ではなく、ただ超重力のエネルギーをぶつけてくるため、肉体的強さで耐えるしかないのだ。
しかし相当鍛えられた強靭な肉体であっても、ゴールド騎士であるアルベルトが撃つ波動なのだ。
まず無事ではすまない威力である。
対するアラタは、拳に集約させた光の力を、光の波動として撃ち放った。
これまでの戦い方は、光の力を拳で振るうだけだった。
しかしウィッカー・バリオスとの修行で、アラタは光の力を波動として撃てるようになった。
その威力は強力無比である。帝国へ進軍している道中で襲って来た刺客、ハビエル・フェルトゥザとの戦いでも、ハビエルの闇の力を光の波動で撃ち破り、決着を付ける事ができた程だ。
アラタとアルベルト、両者の戦いはお互いの最強の技で、雌雄を決する事となった。
「ぐッ!おぉぉぉぉぉぉぉーーーーーーーーーッツ!」
す、すごい!とんでもないパワーだ!こ、これがゴールド騎士の力か!
ほんの僅かでも気を緩めれば、一気に持っていかれるぞ!
せめぎ合う力の衝突によって突風が吹き荒び、体を強く激しく打ち付けてくる。
俺は深く腰を落とし、両足に力を入れてしっかりと地面を踏みしめた。少しの力も抜く事はできない。
ギリギリで耐えながら、歯を喰いしばり腹に力を入れて踏みとどまった。
アルベルト・ジョシュアが撃ち放つグラビティー・バーストは、視認できない波動である。
しかし今、アラタの視線の先、両者の中央で激しくぶつかり合っている事は分かる。耳をつんざく轟音が鳴り響き、衝撃によって砂は吹き飛び地面が大きく抉れた。大地が揺れて大気が震える。まるで地震と台風が同時に来たようだ。
戦いを見ていた兵士達の半数は、立っている事ができずに膝を着いた。残りの半数も叩きつけてくる衝撃、そして振動に耐える事が精いっぱいで、この場から離れる事さえできなかった。
クインズベリー兵も帝国兵も、どちらも理解していた。
この戦場は、この二人の勝敗で決着がつくと・・・
「ぐぬ・・・!」
アルベルト・ジョシュアもまた、二つの強大な力のせめぎ合いに消耗していた。
超重力の波動に、アラタの光の波動が真向からぶつかっている。まさか互角だとは思わなかった。
頬を伝う汗、震える手足、体力の消耗は大きい。ほんの少しの緩みも許されない。それほど光の波動は凄まじい威力だった。
・・・う、ぐ・・・ア、ラタ・・・・・こ、これほど・・・これほど、高めて、いたのか・・・・・
強大な力のぶつかり合いがきっかけになったのか、アルベルトの意識が再び戻った。
しかしそれは朧気で、非常に不安定なものだった。
だが途切れ途切れの意識の隙間で、アルベルトはここまでの戦いを見ていた。
自由にならない体、声を出す事もできない。
表情を変える事なく仲間達を斬った自分に対して、アラタは解放すると宣言して向かってきた。
騎士である自分はクインズベリーに忠義を立てている。
帝国の傀儡にされてしまった今の状況が、どれほどの屈辱かは、筆舌に尽くしがたい。
切り取った場面のような記憶だが・・・俺はあの時、あの大爆発で吹き飛ばされた・・・
そして意識が戻った時には、もう俺は俺で無くなっていたんだ。
俺が目を覚ましたのは、どこかも分からない冷たい床の上だった。
周囲で話していたヤツらの、いくつか耳に残った言葉がある。
・・・薬を飲ませた、命令は絶対、死ぬまで戦い続ける・・・
これだけで理解できた、意識を失っている間に俺は帝国に捕まり、操り人形にされてしまったんだ。
国のために戦っていたはずが、国の敵になってしまった。
騎士にとって、これほどの屈辱があるだろうか・・・・・
アラタ・・・・・俺を殺せ。
俺はもう、自分の体さえ自由に動かす事ができない。自害さえできないんだ。
だからお前が俺を殺すんだ。
これ以上俺に、国を裏切らせないでくれ。
俺に仲間達を斬らせないでくれ。
そしてなによりクインズベリーのために・・・俺を殺してくれ!
「ウォォォォォォォォーーーーーーーッツ!」
ビシビシと体を打ち付ける衝撃はすさまじく、その場に倒されそうになる。
アラタは腰を落とし両足に力を入れ、必死に耐えていた。
負けない・・・負けられない・・・負けるわけにはいかない!
光の波動とグラビティ・バースト、二つの力は拮抗していた。
自力で上回るアルベルトを相手に、なぜここまで食い下がる事ができるのか?
それは一言で言えば精神力である。ゴールド騎士のアルベルトの精神力が弱いという話しではない。
むしろ国の最高戦力に数えられるゴールド騎士は、人並み以上の精神力を持っている、それこそアラタより上だと考えるべきだろう。
ではなぜアラタが、アルベルトに対抗しえるのか?
それは・・・
「俺が護るんだ!カチュアを、みんなを護るんだ!」
ギリっと歯を噛み締めると、アラタの放つ光が一層強さを増した。
たった一人、異世界プライズリング大陸に転移させられたアラタを、レイジェスの仲間達は温かく受け入れててくれた。住む場所も、仕事も、そして妻となる女性までこの世界で得る事ができた。
アラタは感謝していた。返しきれない程の大きな恩を感じていた。
仲間達を護るためならなんでもする。
その気持ちはアルベルトにも負けない、アラタの力の根源である。
そして仲間を想う気持ちが、アラタの力を爆発させた。
「ッ!?」
アルベルト・ジョシュアは目を見開いた。
グラビティ・ソードから発していた超重力の波動が、突然押され始めたからだ。
こ、れは・・・俺の、グラビティ、バースト、よりも・・・・・
ア、ラタ・・・・・・・
「ぐぅっ!」
フッと意識が消え入りそうになった。
だがアルベルトは唇を強く噛んで、意識をここにとどめた。
おそらく今意識を奪われれば、もう戻って来れないだろう。
そう確信に近いなにかを感じたため、自分という存在を必死にここに残した。
今・・・意識を奪われるわけには、いかない・・・・・
そうだ、アラタ・・・それでいい・・・お前の手で、俺を・・・俺を殺してくれ!
今ここで自分を止めさせる。
それがアルベルト・ジョシュアの願いだ。
その結果この命を失う事になろうともかまわない。
帝国よ・・・俺を操り、クインズベリーを潰そうと考えたらしいが、うまくいくと思う、なよ・・・
クインズベリーには、強い戦士が沢山いるんだ・・・・・
俺がいなくても・・・こいつらなら・・・・・
「こいつらならやれる!」
アルベルト・ジョシュアのグラビティ・バーストが、光の波動に撃ち抜かれた!
・・・・・クインズベリーを・・・・・頼んだ、ぞ・・・・・・・
光の波動がアルベルト・ジョシュアを飲み込んだその時、ゴールド騎士アルベルト・ジョシュアは穏やかな表情で笑っていた。




