1514 力の秘密
「さて、あとはお前一人だな」
背中と首から血を流し、砂の上で倒れている男を一瞥すると、私は深紅のローブを纏った紫色の髪の女、エディスに向き直った。
「・・・・・」
仲間があっさりと倒された事がよほど衝撃だったのか、エディスは口を開かず、ただ立ったまま無表情で、倒れているミルコをじっと見つめていた。
ナイフに付いた血を砂の上に払い落し、エディスに対して構える。
私とエディスの間には7~8メートル程の距離はあった。この程度の距離なら、私は一歩で詰める事ができる。体力型の私と、魔法使いのエディスの身体能力の差は説明するまでもない。まず私の動きに反応すらできないだろう。だからさっさとこの女の首を斬り飛ばせばいいのだが、実際にはそう簡単な話しでもない。
この女、黒魔法使いか?
私が向き合ったまま仕掛けない理由の一つが、この女の魔法系統が分からないからだ。
この女が一人で私の前に来たのなら、黒魔法使いと考えていいだろう。
しかし体力型の男と二人だった事を考えれば、青か白の可能性も十分にある
どの系統かで戦い方は大きく変わるし、もっとも戦闘に向かない白魔法使いだって、魔道具次第では恐ろしい力を発揮する。だからうかつには仕掛ける事ができない。思いもよらぬ反撃を受ける事があるからだ。
そしてこの女の魔力だ。
体力型の私が肌で感じる程の強い魔力。この女が白、黒、青のどの系統の魔法使いであったとしても、相当な使い手である事は間違いないだろう。
しかしいつまでも睨み合っているわけにはいかない。
攻撃と防御のいくつかのパターンを想定し、ジリっと足を前に出して仕掛けようとしたその時、紫色の髪の魔法使いは、口元に左手を当て、私を見つめながらクスクスと笑い出した。
「・・・何がおかしい?」
少しだけ背筋がザワついた。
この女がずっと黙っているのは、目の前で仲間があっさりと殺されたから、ショックを受けているのかと思っていた。
だが違っていたようだ。嘲笑を浮かべるその顔からは、仲間を思いやる気持ちなど微塵も感じられない。
この女はこの状況を楽しんでいるんだ。
「・・・もういい、死ね」
これ以上この女と関わっても不快なだけだ。この女の系統は分からないし魔道具も不明だが、一瞬で首を刎ねて終わらせてやる。
ぐっと足に力を込め、地面を蹴ろうとしたその時、紫色の髪の魔法使いエディスの目がスッ細められ、右手の親指を自分の首に当てた。
「クスクス、何がおかしいって?そんなの決まってるじゃない?・・・あんたの間抜け面よ!」
カッと目を開くと、エディスは首に当てた右手の親指を真横に引いて、首を掻っ切るマネをして叫んだ!
「ッ!?」
直後、背後に感じた殺気に私は反射的に振り返り、両手のダガーナイフを交差させながらその一撃を受けた!
ぶつかり合う金属音が鳴り響く。
私は自分の目の前で光る長剣、そしてその長剣を振り下ろした男を見て目を見張った。
「っ!・・・お前!?」
「チッ、勘のいい女だぜ!」
軽薄な笑みを浮かべるこの男は、たった今私が首を切り裂いて殺したはずのミルコ・カバエルだった。
ギリギリと力を込めて、長剣を押し込もうとしてくる。両手のナイフで受け止めているが、少しでも気を抜けば潰されてしまいそうだ。数秒前まで血を吐き倒れていた男とはとても思えない。
「どういう事だ?手応えはあった、私は確かにお前の首を切った。なぜ生きている?」
「くっくっく、いやぁ~危なかったぜ、本当に死ぬ寸前だった。けど残念!俺はこのとーり生きている!なんでだろうねぇぇぇぇぇ!」
ミルコの赤い目が燃えるように強い光を放つ!
「なッ!?」
突然ミルコの力が強まり、拮抗していた力のせめぎ合いが一気に押し込まれる!
馬鹿な!こいつ、今まで手加減していたというのか!?いや、そんなはずはない、この目だ、この赤い目が光って急に強くなった!この目に秘密があるんだ!
長剣を止める両腕が痺れてきた、くっ!なんだこの重さは!?押し潰されそうだ!
「さっきは舐めた事言ってくれたよなぁ?これでも大した事ねぇか?ぶった斬ってやるぜぇぇぇ!」
ミルコ・カバエルの赤い目がより激しく強い光を放つと、長剣がレイチェルのダガーナイフを弾き飛ばした!




