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最後に笑うのは誰なのかしら?私、貴女、それとも・・・  作者: 鵠居士
蛇足(小話・サイドストーリーなど) 時系列バラバラ注意
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お菓子くれないと悪戯するぞ?

本編から数年後の話。

世界の大きな改変から数年後の事。




「「お菓子をくれないと悪戯するぞ!!」」


幼い少年と少女が手を繋ぎあって、部屋に入ってきた母親に向かい声を張り上げた。

「うえっ!?」

突然のことに驚いた母親が後ろに後ずさり、バランスを崩して背中から倒れこみそうになった。その姿に驚き、慌てた子供たちが手を伸ばすが間に合いそうにもなく、慌てて手を伸ばした子供たちも母親の上に圧し掛かりそうになった。


「大丈夫か?」

それを支えたのは、父親だった。

母親の後ろから現れた父親は、妻の背中に腕をまわして体を支え、妻とその上に圧し掛かった子供たちが床に倒れ込むのを止めた。

骨と皮とまでは言わないものの、なんでそんなに細いの!と理不尽な怒りを妻に覚えられている父親に、大人一人と子供二人を涼しい顔で支えら得る力があったのかと、子供たちは驚いた。




「なに、これは?」

『闇の精霊王』プルートは、部屋の中を見回して驚きを露にした。

ケーキにクッキー、飴にチョコレート。

様々な種類の、たくさんのお菓子が部屋の中に積み上げられていた。


「ハロウィンだから、貰いに行ってきたんだ。」

「お父様とお母様が最後なの。」


「「だから。」」


「「お菓子か悪戯か?」」


「ハロウィンって、確か君が作ったお祭りだよね」

「はい。冥府を作れって言われたので、お盆と一緒にして作りましたね。」

死後、『書の精霊』となる事が自分も知らない内に決定しているリリーナ。

クロノスたちに、人々が冥府を認識する話を作れ。ついでに冥府の内容も作っといてと無茶振りされた彼女は、前世で溜め込んでいた世界中の神話をごちゃ混ぜにして冥府を作り、輪廻のシステムを生み出し、ついでにお盆とハロウィンを混ぜたお祭りも作っていた。


ハロウィンは年に一度だけ転生を待つ魂が冥府から戻ってくる日。

魂たちは家族や親しい人の下を訪れて、「お菓子をくれないと悪戯するぞ」と言う。

これは彼等の幸せな転生を冥府の女王に願う供物を捧げて欲しいという意味だとされる。

死者たちに紛れるような姿をした子供たちが日が暮れた後に小さなランプだけと持って家々を回ることで、死者たちも堂々と自分の家に帰ることが出来る。


「前世の人たちが見たら、めちゃくちゃだって怒るかも知れませんが。」

だって、コスプレ文化も根付かせたら面白いかなぁって思って。

転生者たちの呆れた視線を受けても、リリーナに反省の色はなかった。



「それで、貴方たちはどんな格好でいったの?」

見たところ、モントとステラの二人は真っ黒なマントを羽織っているだけのようで、リリーナはどんな仮装でお菓子を集めてきたのか気になった。

「「闇の精霊」」

「つまんない!」

フードを目深くかぶり、子供達が答えたものに、リリーナは不満を覚えた。

闇の精霊王の子供が闇の精霊の仮装をして、何が楽しいのか!

ここは、光の精霊とか、他の精霊の格好をした方が受けると思うのだ。


「えっ?でも、おばさんたちは『闇の精霊』の悪戯は怖いよねって言ってくれたよ?」

「おじさん達も、御菓子で退散してくれるなら助かるよなって。」


それって、もしかしてこれの事?

リリーナは隣にいる夫を見た。


あっ、良かった。何のことだか、感づいてないようで。

首を傾げているプルートをチラリと確認したリリーナはホッと息を吐いた。



「それで?何処を回ってきたの?」

あとで、お礼を言わないと。

そう考えるのも、リリーナに前世の日本人としての気質が残っているからだろう。



「まずは、エザフォス様たちのところ!」

「パイを貰ったよ。」

冥府の女王としての仕事に従事している妻の一年に一度の休みとあって、エザフォスは冥府にいた。その間の『地の精霊王』としての役割は、地の高位精霊たちが喜んで代わりを務めていた。

双子が、先ほどの今日だけ使える魔法の言葉を言うと、エザフォスは「菓子はないな」と困り果てていた。

幸先悪いその言葉に、がっかりして肩を落とした双子の様子を見たエザフォスは、「甘いものならばいいのか?」と、大地に懐から出した小さな種を地面に落とすと、その場所に力を注ぎいれた。

すると、種が落とされた地面から、にょきにょきと木が伸びていき、エザフォスも見上げる大きさとなった木から、二つの真っ赤に熟れた実が成り、双子の手の中に落ちてきた。

「アルカの実ならば、菓子までとは言わないまでも甘いものなのだが。

 これでは駄目だろうか?」

双子が目当てにしていたお菓子とは全然違うものだったが、大地の豊穣を司る精霊王の力を一身に受けた果物は、とても美味しそうで、双子は素直にお礼を言って頭を下げた。

果物を、貰ったお菓子をしまおうと持ってきていた籠に入れようとした時、冥府の女王ユージェニーが二つのアルカの実を双子から取り上げた。

「私からのお菓子は貰ってはくれないのか?」

ユージェニーは二人の返事を待たずに、アルカの実を持って何処かへと消えていった。

どうしたらいいのかと頭を悩ませた二人をエザフォスが宥め、二人の興味を引く話をしてユージェニーの帰りをまった。

「待たせたね。」

エザフォスの話が一番の盛り上がりを見せた時、ユージェニーが手にホカホカを湯気を立てる、こんがり狐色になったパイを持って戻ってきた。

「アルカの実のパイだ。」

「「わぁぁ!」」

ぱぁっと目を輝かせた双子は、二人にお礼を言って冥府を後にした。



次に向かったのは、火の精霊王のところ。

スコーピオのところには、火の民の子供達も多く訪れていた。

彼を始めとした火の精霊たちは、そんな子供たちに、熱で柔らかくなった飴を手で練って動物の形に成型したものを配っていた。

子供達の列に一緒になって並んだ双子の番になり、双子に気がついたスコーピオは、犬や猫を模った飴の他に、開かれた本、三日月という両親を連想される飴を作ってくれた。




『水の精霊王』様は、コラルさんが水饅頭っていうプルプルしたものをくれたよ。


マリアンナさんたちは、綿菓子っていう雲みたいなお菓子をくれた。


ルーチェおばさんはぐっすり寝てたけど、アウローラさんたちが色んなお菓子をくれた。



双子が手振り素振りで、貰ったお菓子を嬉しそうに語っていく。


ただ、『森の姫』フェーリの事になると口を濁した。

不思議に思い、どうしたの?と問いかける。


すると・・・


~『霊廟の森』~


「お菓子をくれないと悪戯するぞ!」

そういって飛び込んだ、静寂が支配する霊廟の森。

双子たちが始めに見たのは、首を横に大きく振って「来ない方がいい」「帰った方が・・・」と言葉を濁しながら促す森に住む精霊たちの姿だった。


ん?と双子が首を捻った時にはもう遅く。


「悪戯がいいわ。」

パンッ

優しげなフェーリの声と手を叩く音が響いた。

すると、森の入り口で、木々の間から明るい光が差し込んでいた心地よい森の景色が一変、鬱蒼と木々や草が茂り、薄暗い光景へと変わっていた。

森の入り口があった背後を振り返っても、そこには鬱蒼と暗い森の道があるだけ。

双子が目に涙を浮かべた。

《迷路になっているの。罠も一杯あるから楽しんで?》

クスクスクス

それは普段と変わらない優しげなフェーリの声だったが、何処からともなく響きあって聞こえる上に、幼い双子をこんな場所に放り込んだ張本人であることは明白。

双子には、それはそれは恐ろしい声に聞こえた。



結局、ゴールと書かれた看板を見つけて出ることが出来たのは、一時間後。心細かった双子には、とても長い時間に感じ、もう帰れないのかとも思った程。ゴールから飛び出て、「おかえりなさい」と笑ったフェーリの顔を見て、双子は思いっきり声を上げて、涙を流した。


「あぁ、もう。君の悪戯は過激だから止めておけって、あの頃も言っておいたのに。こんな小さな子たちまで巻き込んで・・・。それに、悪戯されるのであって、する方じゃないだろ。」

「あら、これでも初級者用なのよ?罠も少なかったし、怪我をするようなものを外しておいたでしょ?」


ワンワンと泣く双子を抱き上げて、あやしてくれたのは優しい風貌の青年だった。

ポンポンと背中を撫でられて落ち着こうとした双子が聞いたのは、フェーリの恐ろしい言葉だった。


あれで、簡単なの?


薄暗く不気味な森の中、行き止まりや元に戻る道、そこに仕掛けられた落とし穴の数々。

双子はプルプルと、青年の腕の中で震えていた。


「まったく。ごめんね、君達。こいつは僕が叱っておくよ。普段は本当に優しい奴だから、嫌わないであげてね。これはお詫びだよ。」

森の外に出て地面に下ろされた双子に、青年は手作りの焼き菓子が詰められた子供にはピッタリの大きさの籠を手渡した。

「相変わらず、好きなのね、そういうこと。」

「誰かの我侭のおかげで生きている間に随分と上達してね。今でも、冥府で楽な役割をさせてもらっているから作る時間には事足りるんだ。」


フェーリと青年の声を背に、双子は逃げるように家に戻ってきた。





「マジで悪いかった」

いつもは傲岸不遜なクロノスが涙ながらに話した双子に頭を下げた。

「姫さん・・・・」

『伝達の精霊』タイチと『極める者の精霊』タグが頭を抱えている。


双子が話している間にやってきた、プルートの友人である彼らは、双子の話を聞いて呆気に取られていた。


「あいつを止められるような奴はいない。こりゃあ被害はでかいぞ?」

「いや。あの森に行くような子供はいないだろ。国の聖域だし。大丈夫だ。」

「夫である彼がハロウィンだけとはいえ、帰ってくるんだ。大きな無茶はしないだろう。」


「あっ。駄目っぽいぞ。ハロウィンの日に森に入ると宝が手に入るって噂が流れ始めた。」

訪れる者がいないのなら、フェーリの悪趣味な悪戯の被害にあうものはいないだろうと彼らがホッと肩を撫で下ろした所に、情報を司るタイチが何かを受信して、それを友人たちに伝えた。

「風の精霊たちを使って流してやがる。宝が、金銀財宝になった。願いが叶うってのにもなったな。」



「よし。聞かなかったことにしましょう。」

重くなっていく一方の空気に、リリーナは腹を括った。

そう、聞かなかった、見なかったことにすればいい。

そんな欲深な考えで聖域とされる『霊廟の森』に行くほうが悪いのだ。


「ほら。そんな所でヤンキーみたいに座り込んでないで、二人にお菓子をくれるんですよね?早くしないと、悪戯しますよ?」

そう言って、リリーナが取り出したのは、原稿用紙とペン。

こうなると、どんな悪戯になるかは、男達は察した。

しゃがみ込んで、頭を突きつけあって円座を組んでいたクロノス、プルート、タイチ、タグ。

今や、精霊たちの間で悪徳四人組と一纏めにされている彼らは、一斉に立ち上がり動き出した。


「何?」

「お菓子?」


双子も涙を引っ込めて、興味津々に父親たちの動きを見守る。


双子とリリーナの視線を受けながら、男たちが部屋に運び入れたのは、茶色の液体が流れ落ちる噴水の形をしてもの。

「チョコレートファウンテンです。」

テーブルの上に置かれたそれに近づいたリリーナは、プルートが持ってきたお盆に乗っている長いフォークにマシュマロを指して、流れるチョコレートに差し入れた。

たっぷりのチョコが絡まったマシュマロを頬張り、リリーナは満面の笑みを子供達に向ける。


「早くしないと、私が全部食べちゃうわよ?」


その言葉を真に受けたモントとステラ。

二人の子供達は、先を競うように駆け寄り、気が済むまでチョコレートフォンデュを楽しんだ。


先日は、投稿間違いをしてしまい、申し訳ありませんでした。

ご指摘下さりありがとう御座います。


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