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マリィは、こんな時間に来てしまった事を後悔していた。人を訪ねる時間ではない事は、重々承知していた《《つもり》》だった。
それでも、大事なことだからと《《自分の事しか》》考えていない言い訳を並べてやってきたのだ。
謝罪をしに来ているはずなのに、相手の事を何一つ慮った行動ではなかった。
本当なら帰るべきだった。
それでも⋯と、また自分に言い訳する。
そんな自分に不意に前世の両親の姿が思い浮かんだ。
あの二人の事は、前世を思い出したあと、その記憶部分だけを封印するように忘れていっていた。
今の自分の父親はセドリックだし、前世の《《あの》》父親とは、比べ物にならない程に善人だ。
前世の父親もセドリックが良かった。それが本心であったから、記憶の奥の奥の方で強引に鍵をかけたのだ。
それがどうだろう
と、マリィは思う。
今の自分の傲慢な思考は、前世の両親に似ている。
相手のことなど考えず、自分の気持ちだけを優先している。
そう考えたら、恥ずかしくて居たたまれなくなった。
エリーゼに勧められるまま、座っていた椅子だったが、マリィは立ち上がった。
こちらを見るエリーゼの顔が困惑している。
「あの、マリィさん?」
そして、マリィはその呼びかけでまたもや自分は勝手な行動をしようと仕掛けた事に気付く。居た堪れないからといって、ここで帰るなら始めからくるなよってことになる。
「ごめんなさい、エリーゼ様」
「あの、様は止めませんか?私達入宮したのも同じですし」
「あのはい、すみません、このような時間に⋯私自分のことしか考えていなくて。実は今日は謝罪に来たのです」
「謝罪ですか?」
エリーゼには、マリィから謝罪される身に覚えがなく益々困惑する。あの事故のことなら、昼間に充分謝罪を受け取った。
それ以外の謝罪?
分からなくてエリーゼは、マリィの方を見る。
茶色い髪はナリッシュ男爵と同じだけれど、今はそこに部屋の灯りが反射していて金色に見える。
その時、エリーゼの記憶に何かが掠った。
それは前世の漫画の記憶だった。
漫画の最後の最後に、結ばれたマリィとルーセントの会話。
『君が王族だったから』その一行が唐突に思い浮かんだのだ。
そうだった、すっかり忘れていたけれど、あの漫画のヒロインのマリィは、王族に連なる青い血を持っていた。
亡き王弟殿下の遺児がナリッシュ男爵だ。その記憶が思い出された時、王妃陛下に呼ばれた事やリゼッタ様のお茶。男爵という爵位に見合わない、気品が漂う所作に穏やかな態度。
エリーゼの脳内で不思議のすべてが繋がる。
そしてマリィに目を向ける。
世が世ならマリィは王女待遇を受けてもおかしくない人物だ。
そんな人からの謝罪。
これってなんとか回避した断罪に繋がらないわよね?
エリーゼは、自分でも分からない漫画にないこのシチュエーションに、体が小刻みに震えてきた。




