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エリーゼは、ドリスの代わりがマリィという事に、少なからず動揺していた。
王宮での案内役を仰せつかったナリッシュ男爵。王妃陛下から個人的に面会を要請され、その腹心の侍女から丁寧な対応をされる人。
どのような関係なのか、それはエリーゼが、王妃の宮で働くようになった中で最上級の謎の人物なのだ。
そんな人物の娘。
しかも疾うの昔に王宮を辞した侍女である。
第二王子の今回の役目は、国家単位での懸念事項とされている重要事項だと、エリーゼは聞かされているのだ。
そんな所に、既に退職した人物を送って来るなど、本来なら前代未聞のことなのに、マリィの派遣を、アンドリューは心強く思っている様子だった。
ナリッシュ男爵親子って、王家にとって何なのだろう?
エリーゼは、爵位は自分と同じ男爵家であっても、ナリッシュ男爵家は特別な家なのだと考え、その人物とこれからどのように付き合えばいいのか、その事に困惑して動揺していたのだ。
そんな事を夜着に着替えながら考えていた時、ノックの音がした。
(こんな時間に誰?)
こちらに来てからもそうだが、侍女の仕事というのは朝が早く夜が遅い。
そんなエリーゼが、寝支度をしている時間なのだ。気軽に人を訪ねられる様な普通の時間ではない。
緊急時なら、ノックの音が緩やか過ぎると思った。
「何方ですか?」
エリーゼが警戒しながらノックに応えると、相手が息を呑む音が聞こえた。
「⋯⋯こんな時間に申しわけありません。マリィです。お話があってきました。仕事中には聞けなかったものですから⋯」
「明日では⋯駄目なのでしょうか?」
「唐突でしたね、すみませんでした。では明日この時間に伺ってもよろしいでしょうか?」
扉の外にいるマリィの声は、夜半という時間とエリーゼを気遣う小声ながらも穏やかな声だった。しかも約束する時間が明日の今時分なら、仕事の話ではないのだ。マリィとの共通事項は、あの階段での事故だけだが、あの時の事で何か話したいことでもあるのだろうか?それなら今でも同じだとエリーゼは考えた。
「夜着に着替えてしまったのですが、それでもよろしければ開けます」
「⋯⋯お願いできますか?」
マリィのその言葉で、エリーゼは夜着の上からガウンを羽織り扉を開けた。
そこには寝支度もしていないマリィが、申し訳なさそうに佇んでいた。
その姿は、ナリッシュ男爵の、あの凡そ男爵らしからぬ気品が見て取れるような姿を思い起こさせた。




