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ナリッシュ男爵は、娘マリィの出立に感傷的になっていた。
突然隣国に行くと手紙が来て、急いで男爵領からタウンハウスへやってきたのだが、到着したのは出発の前日だった。
マリィは意気揚々と、出立に向けて気分が高揚しているように見えた。
思えばセドリックは、マリィの一番多感な時期に側に居てあげることができなかった。
自分の出自の為に、マリィには苦労をかけているということを、彼は自覚していた。
子供が親に振り回されるという事は、何も珍しい事ではない。だが、死んでまでも尚、いや死んだからこそ迷惑をかけるなんていうのは珍しいのではないか?彼はそう思っている。しかもセドリックの親は、孫にまで迷惑をかけている。
男爵という身分なら、貴族の中でも比較的身軽な立ち位置だ。
発言権は平民にしか強くはないけれど、元より権力を欲しているわけではないから丁度よかった。間違っても、中央の政治に食い込もうと思ったこともないから、気持ちは平和なものだった。ただ、ナリッシュ男爵家は貧乏すぎた。
だからこそ、セドリックの窮状が王妃陛下の胸を傷めたのだろう。
そこそこに生活していたら、きっとそっとして置いてくれたに違いないのだ。
そんな事を考えながら、美しく成長したマリィを見る。
卒業資格は後に取得出来たものの、学園に入学できたと喜んだのも束の間、退学を余儀なくされたマリィ。その後、王宮の侍女として上がることになったのに、またもや不幸が彼女に降りかかる。そしてその時セドリックは、娘が王宮でも変わらず酷い中傷を受けていたことを知ったのだ。
それを辞してからのマリィは、《《人が変わったように》》活き活きとしている。
ムートン公爵家の温情で、商会に雇ってもらい開発部とかやらに配属されてから、マリィは大変そうではあっても楽しそうだった。
『お父様、こんな物を作ろうと思っていますのよ』
『お父様、不便な事はコレで解決されるはずですわ』
『お父様、コレ冷たいままでしょう?』
会うたびにスケッチブックを片手に、開発される商品について目を輝かせながら語ってくれる。
セドリックは、いつかマリィを嫁に出すはずだった。
そして、数年見守ったあとマリィの息子に男爵を譲ろうと考えていたのだ。
それくらいの時間があれば、貧乏からも脱出できて、少しは暮らしやすくなっているはずだった。
マリィは口にこそ出さないが、もうすでに嫁に行く気がなくなったのだろう。
今は新しい物作りに夢中だった。
それが一変また王宮の侍女に戻るという、しかも《《隣国》》で。
心配しないはずがなかった。
「マリィ、くれぐれも体には気をつけてくれ。嫌になったら帰ってくるんだ。お役目なんてそんなもの、マリィの命には替えられないんだからな。わかってるか?無茶だけはしないでくれ。もうあんな思いはしたくない」
王宮では階段から突き落とされるというとんでもない目に合ったのだ。
隣国では何があるのかわからない。
側についてあげることも出来ない自分に、セドリックは歯痒さから憤っていた。




