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「それは、どうしてかしらと聞いても理由を言うつもりはないの?」
エリフォーヌは、いつものマリィならば、必ず理由を述べてからお願いするはずなのに、《《ちょっとした》》などと、そんなお願いの仕方などされたことがない。だから理由を言うことができないか、言いたくないかのどちらかだろうと思い、そんな言い方をした。
実を言うと、今のマリィの申し出は、エリフォーヌにとっては渡りに船のようなものだった。
それは丁度昨日、王妃陛下から相談されたことの解決策になるからだ。
だが、それでもマリィの理由を聞かなければ、決断は下せない。
エリフォーヌは、マリィが《《ちゃんと》》、そのちょっとした理由をとやらを、話すのを根気強く待った。
マリィはかなりの時間、躊躇していた。
エリフォーヌが諦めるのを待つかのように。
だが根比べならエリフォーヌは、年若いマリィにだって負ける気はしなかった。
公爵夫人として、長い間社交界を牽引していた、その手練手管は伊達じゃないのだ。
どれくらいの時間は見合っていたのか、やはりというべきか、とうとうマリィは折れた。
そして話し始めたのは、エリフォーヌにとっては意外なものだった。
「ぼうはんぶざーを作った者に会いたいと?」
「はい、そうルーセント様に言ったそうです。それがとても切羽詰まっていたらしく。ただ⋯私はそれを知らずに、いつもルーセント様の周りにいた令嬢達のように、私に対しての《《牽制》》だとばかり思ったものですから。見事に無視してしまいました」
結局マリィは、エリフォーヌに全部話すしかなかった。
「このままでは、気になってしまって居心地が物凄く悪くて、夜も眠れないのです。どうしてブザーの開発者に会いたかったのか、それを聞きたいと思いました。ですが、今回はルーセント様を間に入れるわけには行きません。私の頭の中を安易に手紙に認めたくありません。ですから直接会って話したいのですが、王宮に、ましてや隣国なら尚更、一介の男爵令嬢では近づくこともできないので、誠に勝手ではありますが、エリフォーヌ様のお力添えを賜りたくて⋯」
マリィの話を聞きながら、エリフォーヌはほくそ笑んでいた。
やはり、この役目はマリィがぴったりだ。
だが、そんな風に思っていることは、その表情にはおくびにも出さず、態とらしく大仰に溜息を吐いて見せた。
「はぁーー仕方ありませんね。私が勝手に隣国に使者を出すわけにはいかないのですが⋯」
そう言ってエリフォーヌは、少し考える素振りをしてみせる。
「分かったわマリィ。他ならぬ貴方の頼みです。ですが、遊びに向かわせるわけにはいかないのです。第二王子の目的を考えればね。ですから、貴方を臨時の王宮の侍女に王妃陛下に任命してもらいます。第二王子の侍女として、隣国へ赴きなさい」
「ありがとうございます!エリフォーヌ様!」
感激で潤んだ瞳でこちらを見るマリィに、エリフォーヌは少しだけ罪悪感を持った。だがなあくまでも少しだけ。
昨日王妃陛下から受けた相談は、隣国に侍女として派遣したドリスの件だった。
彼女は王宮で、品行方正な真面目な侍女として、王太子宮にいた人物だと聞いて、王妃は今回派遣したのだが、エリーゼの報告書によってそれが揺らいだ。
本当に、報告書にあるような事をドリスがしているのか、確認をしてくれる侍女を手配したいが、ドリスの事もあるから、王宮以外で探したい。誰かいい人物はいないかと相談されたのだ。
そんなエリフォーヌの前に、マリィはネギを背負ってやってきたのだった。




