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「ねぇマリィ、君さぁ⋯⋯」
突然話しかけてきたルーセントだったが、君さぁのあとが長い。
ただでさえイライラと伝わらない絵を、必死に試行錯誤して書き直しているマリィは、「早く言え!」と心の中で怒鳴っていた。
まだ公爵家にいた頃や、商会に入りたての頃は、マリィはルーセントに淡い恋心のようなものを抱いていた時期もあった。今はそれが、はたして恋心であったのかは疑わしい限りだ。
ルーセントが伯爵令息でこの商会に入り浸っていた頃、商品開発のディスカッションで、二人は度々揉めた。揉めても、より良い商品が開発されて、それが売れれば喜びを分かち合った。
そんな事を何回も繰り返すうちに、信頼関係はできたが、恋心はお互いに霧散した。
もはや友人枠というよりも親戚枠に近い感情かもしれない。
だから、言いたいことも言い難いことも言える仲なのに、煮え切らない雰囲気を醸し出すルーセント。
そしてまだ言わない。
「何なのですか?私忙しいんですけど?」
マリィの言葉にチラリとスケッチブックを見て、ルーセントは溜息をつく。
「マリィ、お祖母様に婚約しろって言われなかったか?」
「あぁ言われました。私の身を案じてくださって」
「それなのに、まだ《《お絵かき》》止めないの?そんなことをしてる暇があったら、夜会とか出席でもしたら?」
ルーセントの完全な八つ当たりだった。
それはルーセント自身が重々承知。
言ってから、しまった!と思ったが、時既に遅し。
マリィの眉があり得ないほどに釣り上がる。
「んまぁーーー!なんてこと言うんですか!これはお絵かきなんかじゃありません!立派な仕事です!ルーセント様こそ、ここに来てずっーーーーと溜息ばかり。何か言い掛ければ黙ってしまって!鬱陶しい事この上ないわ。迷惑ですからお帰りください!」
「なっ!悪かったな!もういい!」
ルーセントはどう考えても自分が悪いのは、分かっているが、悩める自分の相談相手がマリィしか思いつかなかったのだ。
少しくらい自分を慮ってくれてもいいだろう
なんて勝手なことを思い、怒りのままに部屋を後にした。
商品開発部の部屋にいた数人の技術者達は、いつもと違う諍いの様子に困惑しながらも、二人を宥めることはしなかった。




