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マリィは最近、卓上コンロを作ろうと必死になっていた。
何故なら“鍋”が食べたくなったのだ。
前世の記憶を思い出し、色々な商品を絵で伝え、優秀な技術者達がそれを形にしてくれていた。
商会でもマリィの考えた物は当たりが多く。
最優先で開発してくれている。
その中で、電化製品だけはなかなか商品化に至らないという挫折もあったりしたが、それでも技術者達は開発まではしてくれて、マリィの家には冷凍冷蔵庫とクーラーが置いてある。
この国でのエネルギーのメーボンは、特定の容器に入れて使用する。前世で言うところの乾電池の役割をしてくれる。
これを使えば、この世界に魔法なんてなくても錬金術がなくても何とかなるものは出来た。
そんなある日、マリィは突然“鍋”が食べたくなったのだ。
「水炊きならなんとかなるんじゃないかな?」
そう思って材料を揃えてみた。
鶏肉、ネギ、しいたけはこの世界でもあった。しいたけは少し怪しくもあったが、毒があるわけでもないので、なんとかなりそうだった。しいたけというより、かさが育ちすぎたしめじ?
豆腐はなかったが、大豆がこの世界にはあった。
これをどうにかすれば豆腐になるんだよね。マリィは、そう思って色々と試行錯誤してみたら偶然できた。
ここでも何故かメーボンが役に立った。
何故かはわからないけれど、家の調理場で豆腐作りをしているところに、偶々冷凍冷蔵庫のメーボンを入れ替えるために、置いていた新品のメーボンが豆乳の上に落ちた。
「ギャー」
と大騒ぎして直ぐに出したが、メーボンの液は少し漏れてしまっていた。
それをマリィは捨てたが、次の日ゴミ箱で薄っすら固まっていた。
それでメーボンは使える事を学んだマリィは考えた。
メーボンは塩と同じでもとは海水だ。
食べられるんじゃない?
そう思って、自分を実験台にして何度か試してみた。体調も悪くなかった。
そうやって豆腐もできた。
水炊きは鍋で直ぐにできる。
味ポン酢も醤油の代わりに酢と魚醤を使った。
だけど、調理場で食べなければならない。
ダイニングに持っていって暫くはいいけれど、少しするとどうしても鶏肉の油で膜が張ってしまう。
それをまた調理場に持っていって温め直さなければならない。
卓上コンロがあれば、温めながらその場で掬えるのに。
そう思ってからマリィは、必死で絵を書いて説明するのだが、コンロの小型化が難しいのだ。
そうやってマリィが奮闘している日々の中、同じ開発部で働く、セルディ伯爵ルーセントの様子が最近おかしい。
彼は伯爵家を継いだあとも、商会の開発部には在籍している。だが、如何せん彼はもう伯爵だから、公爵家の後継の仕事にも携わらなければならない。
だから遅い時間に来たり、数日来なかったりしても、特に気にはしていなかった。
だが、最近は来るたびに大きな溜息を吐いて、心ここにあらずの状態だった。
ただでさえいいアイデアの浮かばないマリィはイライラとしていた。
何故前世自分はもっと頭が良くなかったのだろうかと、日々嘆く毎日。
そんな中に、偶に来て盛大な溜息を溢して、哀愁漂う美丈夫は、頭がクリアなときは目の保養だが、こちらが悩んでいる時は、ただひたすら鬱陶しいだけだった。
今はルーセントの憂いよりも卓上コンロのマリィだったので、極力構わないようにしていた。




