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エリーゼは最近不可解な状況に、ほぼ毎日眉をひそめている。
それは、セルディ伯爵ルーセントの存在だった。
彼は3年前まで、エリーゼが追いかけ回していた人物で、その頃は令息だった。
彼を得ようと、彼の妹の護衛騎士にまで色目を使った黒歴史まで、エリーゼには存在している。
その頃前世を思い出し、このままルーセントを追いかけ回せば、最後には流刑が待っている事を知った。
それを回避するために、己の人生を真っ当に戻すべく、真面目に働いてきたのだ。
折角距離を取り、彼の人生の中からもエリーゼの人生の中からも、互いの存在が視界に入らないように努力してきたのに。
最近チョロチョロとルーセントがエリーゼの前に現れる。
もしや、これがよく異世界物で言われる“強制力”というものなのだろうか?
彼の存在はエリーゼにとって身の破滅だ。
それなのに、彼の美丈夫は、屈託のない笑顔でエリーゼの前に現れる。
本気で止めてほしい。
だからエリーゼは眉をひそめるのだ。
「エリーゼ、今日も待ってるけど⋯」
ルチアが苦笑いをしながら報告に来る。
エリーゼはその時、王妃が先程まで手紙を認めていた文机を片付けているところだった。
鉛筆で草稿した紙は、機密文書扱いになる為、細かく破いて火に焚べなければならない。
その丸めた紙を別室で破く作業を今から行う為、小さな屑籠を抱えて苦虫を噛み潰したような顔で、エリーゼは移動した。
普段ならその面倒な作業は、エリーゼはあまり好きではなかった。
鉛筆だから消しゴムで消せるけれど、この世界の消しゴムはあまり性能が良くない。作る物質が前世に比べたら、何かが足らないのか、この世界にないものなのかもしれない。
だから消しても少しあとが残るのだ。
だから破く作業が一手間いる。
このまま焼却炉に持っていって、直接焼くのでは駄目なところが王宮らしい。
まぁそれが機密文書なのだけど。
エリーゼはこの作業時、いつもシュレッダーが恋しくなる。
でも今日はこの作業がある事が僥倖だった。
「何なの!あの人!目的がわからない!」
「まぁまぁエリーゼ」
ルチアとともに別室で紙を破きながら、ストレス発散も兼ねているエリーゼ。
そのエリーゼを宥めながらも、ルチアも紙を破いていた。
最近、ルーセントがエリーゼの前に現れるのだが、彼はただ挨拶をするだけなのだ。
朝なら「おはよう」
昼なら「ごきげんよう」
夕方なら「気をつけてお帰り、また明日」
挨拶だけだから、エリーゼとしては文句も言えない。
彼の目的がわからなくてエリーゼのイライラは募るばかりだ。
何故なら彼は近寄ってはならない、エリーゼにとっては死を招く人物なのだ。
でもそんな事を言ったら、エリーゼは頭がおかしくなったと思われるに決まっている。
「強制力なんて今更でしょう!何なのよ!」
「きょうせいりょくって何?」
思わず叫んだエリーゼの言葉に、ルチアが反応して、エリーゼは益々追い込まれる。
「何でもないわ」
エリーゼは、ポツリと言ってから、いつも以上に細かく紙を破っていた。




