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王宮には、使用人達が寛げる庭がある。
専用の食堂の近くにそれはあって、主に王宮で働く文官、女官、侍女が使用している。偶に近衛騎士の人もいたりするが、彼らには訓練場の近くにも広場があり、そこに花壇があったりするので、彼らは主にそこを使っている。
今日もエリーゼは、休憩中にそこのベンチで寛いでいた。
今日は遅番だった為、休憩もそれにあわせて少し遅めの時間だった。
この方が他の部署の人と会うことがあまりないので、エリーゼはゆっくりできるから、遅番の日のほうが好きだった。
ここの花壇は、王宮の他の庭園とは違い、小花が多く植えられている。
それをぼんやり見ながら過ごすことが、忙しい侍女の仕事の癒やしの時間にもなっていた。
「あれっ、君って」
ベンチはあちこち点在しているのが、今この広場には目視で数人しか居ない。
そんな人疎らの時間にエリーゼに声をかけたのは、この世界のヒーロー、ルーセントだった。
過去に狙っていた時は、一度も話しかけられたりしたことはないし、逃げ回られてばかりだったのに、どうしたのだろう?
相変わらず美丈夫な顔は、あの頃と変わらない。いや寧ろ、年を数年重ねた少年から青年になって、少し色気が加わっただろうか?
あんなに追いかけ回して、執着していたのに、エリーゼは今彼に自分アピールをする気には全くならなかった。
「お久しぶりです、セルディ伯爵」
エリーゼは立ち上がり、略式の挨拶をした。
今、ルーセントは伯爵を継承していたはずだ。
「君って、雰囲気が随分変わったね」
ルーセントは、エリーゼにそう言って、立ち去⋯⋯らなかった。
何故かずっとそのままこちらを見ている。
エリーゼは困ってしまった。
今エリーゼは休憩中で、できれば体を休めるために座っていたい。
でも挨拶をするために立ち上がっていて、ルーセントが立ち去らないために、そのまま立ったままなのだ。
勝手に座るのも憚られるし、無視して座ってもいいものかと思案するが、どう考えてもそれは失礼に当たる。
しかも、何かしら話でもあるなら兎も角、全く話さずにそのままこちらを見ているだけなのだ。
休憩の時間は限られている。
エリーゼは、ここで休憩することを諦めた。
「セルディ伯爵、そろそろ休憩が終わりますので、失礼いたします」
「あ、あぁ」
もう一度、一礼してエリーゼはその場を去り、侍女待機室で残りの時間休憩することにした。
歩きながらエリーゼはブツブツとつぶやいていた。
「全くもう!休憩時間は貴重なのに。邪魔しないで欲しいわ」
かつてストーカー紛いに追い回していたのに、時が経てばその事をすっかり横に置いて、前世を思い出す前の勝手なエリーゼが、少しだけ顔を出していた。




