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応接室の扉が開いてナリッシュ男爵が出てきた。彼は一度部屋の外に出たあと、もう一度体を王妃陛下に向けて、深々と一礼していた。
その様子を、王妃が微笑んで見つめていた事に、エリーゼは少し驚いた。
あまり感情を表に出すことのない王妃が、ナリッシュ男爵を慈しむように見つめているのが意外だった。
二人の関係を詮索するつもりはエリーゼにはないけれど、不思議に思うには充分な出来事だった。
ナリッシュ男爵がエリーゼ達の方を見た時、扉が閉まる。そのタイミングでエリーゼも1歩前に出た。
「お見送りさせて頂きます」
「ありがとう」
ダンディな男爵の微笑みで、お礼を言われると何だか照れてしまうが、エリーゼも顔に出さないように気をつけた。
案内してきた時と同じように、後ろの気配を感じながら、エリーゼは廊下を歩く。
曲がり角で少し迷ったが、窓側の廊下へと進んだ。
暫くすると、男爵が立ち止まった気配がした。
横目で様子を窺うと、男爵が窓の外をじっと見ているのに気付いた。
「痛かったね」
男爵の言葉で窓の外を見ると、マリィが降ってきた段差の少ない階段が目に入る。
そこで先程の言葉は、エリーゼに向けられた言葉だと気付いた。
「そうですね」
3年前、ひとりぼっちで餓死するんじゃないかという恐怖を思い出して、つい口にしてしまった。
「あっ、申しわけありません」
失礼だったと思い謝罪したが、男爵は片手を上げて「気にしないで」と言ってくれた。
その時、上げていない腕の方で、何かを小脇に抱えているのが目に入った。
その視線に気付いた男爵が苦笑しながら言った。
「娘への釣書何だ、どうやら私はこの為に呼ばれたようだ。娘に怒られるかもね、ハハハ」
屈託なく笑う男爵に、エリーゼは一礼して再び前を向いて帰りへの廊下を歩く。
だがその心中は、今日何度目か分からない驚きでいっぱいだった。
男爵令嬢の縁談を王妃様が薦めるなんて。
この親子は王妃様に取って、どのような関係なのだろう?
詮索つもりはなくても、疑問はどんどん溢れる程に湧いてくる。
さっきチラリと見えた釣書は、1冊ではなかった。
複数人分あるという事は、断る選択肢も与えられているという事だ。
エリーゼは、3年間全く考えたこともなかった、マリィ・ナリッシュ男爵令嬢が、どんな顔だったか、記憶の欠片を探した。




