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あなたと私の分岐点  作者: maruko


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 約束の時間は10時。

 エリーゼは王宮の客用玄関口の控えに、9時30分に着いた。

 頭の中で、ナリッシュ男爵の外見の特徴を反芻する。

 黒髪に黒い瞳、整った容姿。

 特徴はそれだけだった。

 あまり聞かない家名だとエリーゼは思った。


 9時45分

 ナリッシュ男爵が来城されたと、エリーゼの待つ控室に報告が入る。

 エリーゼは立ち上がり、座っていた為に少し縒れた侍女服のスカートのしわを直す。


「私がご案内します」


 報告者にそう言って控室を出ると、少し離れた廊下の隅に、王妃陛下と面談するには簡素な装いの紳士が立っていた。


 黒髪で黒い瞳、ナリッシュ男爵の特徴と一致するが、その容姿がこんなに整っているとは思っていなかった。確かに整った容姿と記載はあったけど。


「お待ちしておりました」


 エリーゼは45度に体を傾けて挨拶をする。


「丁寧にありがとう」

「ご案内致します」


 初めての表の業務。

 言葉は震えなかっただろうか?

 歩幅はどうだろうか?

 ナリッシュ男爵は、歩きづらくないだろうか?


 今まで先輩侍女たちの表の仕事を見てきた。遠目だが案内役も見た事はあった。


 その時はただ憧れた。

 あの単純な業務なら、私にも出来るはず。

 その時はそう思ったけれど、全然単純じゃないと今実感している。


 後ろを歩く客人の気配を感じながら、歩幅にまで気を使う。

 王宮に滅多に来ない客人や初めての人には、時間が許せば窓のある廊下を選び、外の景色が眺められるようにすると、見習いのときに習った。

 今それを実践する時だ。

 次の角で王妃の部屋に近いのは右に曲がるのだが、左に曲がれば窓がある。

 王妃の宮の庭園は、今薔薇が見頃だ。

 そう思って、エリーゼが左に曲がる。気配でナリッシュ男爵もちゃんと付いてきてくれているのがわかる。

 少しだけ歩みのペースを落とす。

 これでもまだ時間には余裕があるはず、そう思った時、後ろから声が掛けられた。


「気遣い頂きありがとう」


 エリーゼは、その言葉で彼はこの宮の構造を熟知していると感じた。


 ナリッシュ男爵は、ここへ来たことはあるかもしれないけれど10年はないはずだ。

 何故なら連絡に使われる情報は、過去10年分だからだ。


 不思議な人だ。


 エリーゼはナリッシュ男爵の印象をそう結論づけた。男爵の地位にあって数回ここへ来られる人は滅多にいないからだ。


 窓のある廊下を回り、王妃陛下専用の応接室まで辿り着いた。

 扉を守る騎士にエリーゼが声を掛けようとすると、ナリッシュ男爵が手を上げてそれを止める。

 怪訝に思うエリーゼに、ナリッシュ男爵は頭を深々と下げた。


「モエラーズ男爵令嬢だね、私はマリィ・ナリッシュの父親だ。あの時はマリィが大変迷惑をかけた。君がいなかったらマリィは大怪我をしていた。こちらにも事情があり、お礼を伝えるのが遅くなった事を申し訳なく思う。本当に感謝している、ありがとう」

「いえ、お気になさらずとも大丈夫でございます」


 エリーゼは、自分の事をナリッシュ男爵が知っている事も驚いたが、やはり3年前のマリィという方の父親だったのだと、自分の考えが当たった事にも驚いた。今日のエリーゼは勘が冴えている。

 少しだけ嬉しく感じた時、ナリッシュ男爵が懐から懐中時計を取り出して、時間を確認しているのが見えた。

 そして直ぐにパチンと蓋を閉めると


「丁度いい時間だ」


 と言った。その時、ナリッシュ男爵の黒髪が、光の加減で少し薄く見えた。染めている?


 騎士が中に声を掛ける。

 中から扉がススっと開いた。

 男爵が中に入り、エリーゼは直ぐに続いて左の方へと移動した。

 その時壁際の時計が目に入る。

 丁度約束の10時を針が示していた。





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