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マリィは、数日タウンハウスでゆっくり過ごし、公爵家からの迎えの馬車に乗り、商会へと向かった。
マリィは、この数日で前世の真理子の記憶を駆使して、スケッチブックに絵を書き溜めた。
日本人の時の記憶は、有り余るほどに沢山の便利な物が溢れている。
だが如何せん、真理子は高校生だった。
しかも特に優秀というわけでもない、ただの一般的な女子高生だ。
物は知っていても、どんな仕組みでどのように作られているのかなんて知ってるわけがない。
だから、自分が覚えている物を絵に書いて、その下にそれがどのような物で、どんな時に使われていたのかを書いた。
出来るだけ解りやすいように書いたが、余計な専門用語は省いた。
それというのも、この世界でどんな物質があるのかをマリィが知らないからだ。
貴族としての一般的なマナーや理は知っていても、マリィは学園も中途で辞めてしまっている。どこの領地でどんな特産物や鉱物があるのかなど、マリィはまだ知識が足りなかった。
下手に知ったかぶりで色々と書くよりも、適当な表現で《《このような物》》としたほうが、聞く相手が勝手に想像してくれると期待したのだ。
ムーセル商会は、現会長はムートン公爵だった。
商会に連れてこられたマリィを、入り口で迎えてくれたのはセルディ伯爵だった。
「マリィ、久しぶりだな」
「はい、ご無沙汰しておりご挨拶も遅くなりました、セルディ伯爵様」
アマリーヌの父であるセルディ伯爵は、娘のことがあってから、殊更マリィに気を遣ってくれる。この日もおそらくエリフォーヌに聞いて、マリィを待っていてくれたのだと思った。
「父上、ムートン公爵の所へ案内しよう」
伯爵自らが会長室へと案内してくれるという、異例の高待遇にマリィは恐縮しながらも、後をついて行く。
会長室は大きな観音開きの扉で、両脇には護衛が立っていた。
伯爵がマリィの訪いを告げると、ゆっくりと扉が開く。
真正面には黒檀で作られた大きな机。
その机には、こちらを鋭い目で見ているムートン公爵が座っていた。
「会長、お連れしました」
「ウム、マリィ災難だったな」
「ムートン公爵様、お久しぶりにお目見えできて光栄です。お気遣いの言葉ありがとう存じます」
マリィは挨拶の後、カーテシーで敬意を示した。
ムートン公爵と会うのも久しぶりだった。
会長室では、お互い堅苦しい会話をして、その後商会の談話室に連れて行かれてからは、普段のムートン公爵に変わった。彼は普段はマリィに対しては気さくなお祖父様という感じだ。
「企画部があるから、そこでマリィのアイデアを話すといい。エリフォーヌに散々話しただろう?珍しく興奮していたぞ」
ムートン公爵は、エリフォーヌからマリィの前世の記憶に基づいた商品の話を聞いて、直ぐに手配をしてくれていた。
「会長、お呼びと伺いました」
「おぉ来たか来たか。マリィ、あの話をこいつに思う存分話すと良い。期待しているからな」
「はい、会長。ご期待に添えるようがんばります」
会長がマリィに会わせたのは、孫のルーセント。マリィも何度か話したことのあるアマリーヌの兄だった。
彼は今商会の企画部で仕事を学んでいるところだという。
「マリィ、久しぶりだな」
「はい、ルーセント様。お久しぶりです」
今日は、何度も久しぶりの人に会う。
みんなマリィに気遣いを見せてくれる。
何だか新たな門出を、皆が祝福してくれているような気になって来てマリィの心は弾む。
そうして企画室に案内されたマリィは、その場にいた企画部の皆にスケッチブックに書いた様々な商品の説明をする。
その中の色々な商品から、手始めに作られたのが、鉛筆と消しゴム、そして鉛筆削りだった。
マリィの新たな道の始まりだった。




