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マリィは、王宮で階段から落とされた数日前のことを話した。
その日マリィは、王妃宮の女官から陛下主催の茶会で、使用する茶器の確認をするように支持された。
招待客の人数、必要なカップの数、テーブル数分の砂糖壺の数、簡単に走り書きされたメモを受け取り、マリィはパントリーに向かった。
その途中で、怒鳴り声と泣き声が聞こえる。
パントリーに向かう廊下は、普段人が通ることはあまりない。
下働きの者は、裏門に近い場所を行き来する。
ここを通るのは、主に料理を運ぶメイドと侍女、偶に料理長が料理の説明を直接求められた時に通るくらいだった。
マリィがそこを通ったのは午後2時。用がなければ、誰も通る時間ではなかった。
聞き苦しい怒鳴り声は、マリィの知る人物の声というのはすぐに分かった。
学園で挨拶をした事があったからだ。
それは王太子の婚約者、フェリシア。
王国で5家しかない公爵家の一つ、メシル公爵家のご令嬢だ。
歳はマリィの一つ上になる。
赤い髪に緑の瞳、学園では清廉な公爵令嬢と言われていた。
だが王宮の侍女たちの間では、苛烈で気に入らないことがあると直ぐにメイドに八つ当たりする人物と噂されていた。
「噂は本当だったのね」
呟きながら、どうしたものかとマリィは思案しながら歩く。その時、何故か偶然にもマリィの行く先の方から、王太子殿下が歩いて来るのが見えた。
マリィはまだ少し距離はあったけれど、立ち止まり一つ咳払いをして、廊下の隅に寄り、頭を下げて殿下の通りを待つことにした。
咳払いでマリィに気付いたフェリシアは、叩いていたメイドをその場に突き飛ばして、こちらにやって来る。
矛先をマリィに向けようとしたのか、何かを言おうとした気配がした時、彼女の目にも殿下の姿を認めたのだろう。
こちらに向けていた足の先の方向が変わった。
そして、先ほどとは打って変わった声で、殿下に声を掛けていた。
「リド様!どうしてこんな所に?」
「何だフェリシア、君こそどうしてここへ?」
「私は少し気分転換も兼ねて、王宮を巡っておりましたの」
フェリシアの空々しい言い訳が通用するのか分からないが、二人が通り過ぎるまで、マリィは頭を下げ続けたあと、パントリーへと向かった。
マリィが話し終わったあとの、一つ溜息を吐いてエリフォーヌが尋ねる。
「それが原因?」
「おそらく、そうだと思います。ですが証拠はありませんし」
「フム、殿下は気付いているかもしれないわね。よくある事なの?」
「噂でよろしいですか?王宮のことをお話するのは、エリフォーヌ様のお心にお止め頂くと信じているからこそですが」
「もちろんよ、でも場合によっては対処するわ」
マリィは、苦笑しながらも王宮の侍女のあいだで流れている噂を話した。
フェリシアは、王太子妃教育が上手く行かなかったとき、メイドや侍女見習いを一人生贄のように連れ出し、ストレスの発散をしている。
マリィは聞いた時、本当かどうかは分からなかった。
だが実際に目撃してしまって、噂は本当だったのだとあの日分かったのだとエリフォーヌに説明した。
「まぁ、勝ち気なのはよろしいけれど、危害を加えるのであれば話しは別なのよね」
エリフォーヌの目が、キラリと光ったように見えた。




