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「マリィ、あなた記憶喪失って本当に?」
ナリッシュ男爵家のタウンハウス。
朝っぱらから訪ねて来たのは、ムートン公爵夫人エリフォーヌ様だった。
マリィは観念した。
何故なら、エリフォーヌは王国の社交界を長く牽引してきた女性。社交界は若く華やかな女性が、やはり中心になりがちだ。そんな風潮がある中で、今でも発言力の強さを発揮している稀有な人。
この異世界でまだまだひよっこの16歳のマリィが、騙せる相手ではないのだ。
臍で茶を沸かすとばかりに、鼻であしらわれるのが目に見える。
「エリフォーヌ様、実はこの家に来てから徐々に思い出すことも多くて。記憶喪失はおそらく頭を打った事による一時的な物だったと思います」
「まぁ!そうなのね。じゃあ《《あの時》》貴方に何があったかは?」
「はい、覚えています」
「そう、私が聞きたいことはわかるわよね」
「はい。ですがご心配には及びません。アマリーヌ様は全く関与しておりません」
エリフォーヌが何を心配してこの家に来たのか、マリィは分かっていた。
記憶喪失を演技ではないかとエリフォーヌが思ったのも、それが関係して王宮を出ることにしたのではと疑ったことも。
学園でアマリーヌの事で、通えなくなったマリィが、居場所を求めて王宮の侍女として出仕したのに、またもや自分の孫が、マリィを排除しようとして動いたのではないかと疑っていたのだ。それはエリフォーヌにとっては、辛いそして悩める思いだったと思うと、正直に話して彼女の憂いを取り除けた事に、マリィはホッと胸を撫で下ろすのだった。
「では、誰が貴方を?」
「それに準ずる証拠は私の目撃だけですが、よろしいですか?」
「えぇ正直にお願い」
自分の孫が関与していなかった、それだけで急にいつものエリフォーヌに変化した事に、マリィは彼女の人間らしさを垣間見た気がして、つい笑顔になりそうになって顔を引き締めた。
「王太子様の婚約者、フェリシア様です」
「まぁ!」
「私を階段から落としたのはケイト・ルール様ですが、背後にはフェリシア様がいらっしゃると確信しています。動機もありますので」
「子飼いの伯爵令嬢を使ったのね。動機とは穏やかではなさそうね。詳しく聞いても?」
「はい、お話します」
マリィは王宮で習った、作法で背中をピシッと伸ばし、片手を口元に添え「お耳を」とエリフォーヌに告げた。




