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看護メイドの名前はアイナと言った。
「医師様に侍女様の看護をするように申し付けられました」
そう言ったアイナの手には、水桶とタオルがあった。エリーゼはその時、王宮に来て初めて人に感謝した。
「ありがとう⋯ございます」
声を震わせながらお礼を述べるエリーゼに、アイナは勘違いしたようだ。もしかするとエリーゼの噂を聞いていたのかもしれない。
「私のような者に、お世話をされるのは嫌でしょうが、動けるまでは我慢してください」
「えっ?」
アイナの勘違いの言葉にエリーゼは固まった。
これはちゃんと誤解を解かなければならないと思った。
「違うの、そうではないの。嬉しすぎて泣きそうだったの」
「えっ?」
今度はアイナが驚く番だった。
アイナにしてみれば、自惚れ屋の傲慢な侍女だと聞いているエリーゼが、アイナのようなメイドに心からお礼など言うはずがないと思っていた。それでも表面的にもお礼を言った事を驚いたが、案の定屈辱に震えているのだと思っていた。
アイナは、エリーゼが実際に洗濯メイドを詰っている場面を見たことがあった。噂されているように、その物言いは苛烈で眉間に皺が寄るほど不快だった。
自分だって男爵令嬢のくせに!
いつもメイド達の間で、エリーゼはそう言われていたのだ。
エリーゼとアイナのようなメイドとの違いは、庶子かそうではないかの違いだけだ。
王宮で働く者は、きっちり身元を調べられる。
その身分によって配置が決まるのだ。
平民はどんなに優秀でも、学園に通っていなければメイドだ。侍女に昇格など有り得ない。
そして貴族だとしてもその生まれで配置も変わる。
アイナは男爵令嬢だが届けは庶子だ。
アイナの母は、父の愛人という立場だった。
王宮に出仕することになり、身分の違いをはっきり胸に刻まれたアイナは、それから母が嫌いになった。
そしてあろうことか王宮で、母のように振る舞うエリーゼの事も大ッキライだった。
老医師様から言われなければ、ここには来なかった。
だが、今目の前にいるエリーゼは、アイナの知っているエリーゼではなかった。
怪我をして心細くなった?
それにしても⋯。訝しむアイナだったが、それでもアイナはエリーゼと違って、仕事はちゃんとする人だった。
水桶にはぬるま湯を入れてきたようで、タオルを絞って、エリーゼの体を丁寧に拭いてくれた。
体中が痛むエリーゼに、気を使いながらアイナが拭く間、エリーゼも拭かれたときに痛みが走り、顔が歪んでも文句は言わなかった。
その後、部屋を出ていったアイナが再び戻ってきた時に、彼女はワゴンを押して入ってきた。
アイナが部屋に戻った途端、いい匂いがエリーゼの鼻孔を擽る。お腹もグウと空腹を主張した。
アイナの運んできたミルク粥は、エリーゼの空腹と心を満たす優しい味がした。




