第5話
ある日、石山ヒビは腹を括った。
(よし、話しかけよう、うん)
帰りの靴箱の前。
「レイの、その白い髪、地毛?」
鈴岡レイは、履き替えたがゆえに手に残ったほうの靴を靴箱に入れながら、
「そうだよ、地毛。変?」
「変じゃないよ! むしろ、その……綺麗」
ヒビは自分でも、自分の声かと疑った。
足許に、床板と同じ木製の柱が、何本も、様々な角度で生まれた。ある一点を中心として、花のようになる。まだ感情と力を分けて制御できていない。
(やっ、戻って!)
ヒビのそれは愛の告白をしたあとの恥ずかしさに似ていた。
ヒビが冷静になろうとし、逆行、つまり消去を念じると、何本もの柱が引っ込んだ。
そしてヒビは見ていた、レイの目の前に氷が浮いて、それをレイが遠くに投げるのを。
「どうしたの?」
それを冷静に口にすることはできた。自分が言える側か? とも思いながらも。
「や、別に。石山さんも、髪、綺麗だよ、艶々してて」
「ど、どうも」
(石山さん、かぁ)
ヒビは髪のことを言われ慣れていた。それでも嬉しい言葉には変わりない。だが逆に、落胆している。
「ヒビって呼んでよ、レイって呼ぶから」
(言えた)
そう思ったヒビの足元や手元に、花が咲かなかった。
(よし、コントロールできてきてる)
そこでふと、
(あれ?)
と思ったヒビは、考えた。
「今さっき、氷を投げたのって」
「ああ、あれ。あれはほら、ドキッとしたから」
(あれ? もしかしてもしかする?)
ヒビは自分から言おうか迷った。
「あんな風に言われたの初めて」
レイが急にそう言った。なぜか目を合わせずに。
ヒビは勇気を振り絞った。
「ねえ、あたし、レイが好き。レイはあたしのことどう思う?」
「や、え、その……最初目が合った時から好きです。じゃあ付き合ってよ、い、いいよね?」
「う、うんっ」
何段もの階段を跳び越えた想いがヒビの胸に生まれた。足元や手元には花が咲かなかった。嬉しい今は違うらしい。
『ドキッとしたから』レイはそう言った。
あの感覚だけが魔導種の力の暴走に似ているのだろうかと、ヒビは考えた。
(いや、違う)
それがヒビの答えだった。不安でドキドキした時にもあれは起こった。
それはそれとして――
「最初目が合った時って言ったよね? それっていつ?」
ヒビはふと気になって、靴を履き替えながら聞いた。すると。
「転入生紹介の時」
(え、あの時から?)
レイは、ヒビを初めて見た瞬間に胸を高鳴らせ、氷を目の前に生んでしまい、その氷を開いた窓の外に投げ捨てたのだった。
あの時からそうだったなんて、と思っても花は咲かなかった。ただただ喜びに満ちている。
「付き合うって何するの?」
ヒビは、どうしようかこうしようかと考えた。そんな時には歩き始めていて、隣、若干高い位置から声が――
「ぶっ、何するのって、そりゃ話したり、手を繋いだり、そりゃ何やかんや」
「じゃあ、はい」
手を、ヒビから差し出した。
繋がる。
「ひぃ、慣れない。恥ずかしい」
「俺もだよ」
それからの二人は、会えば話したり、○×ゲームをしたりした。元始魔族からもらった元始種の力でワッフルの網型のような線を引いて、そこに、胸の高鳴りだけではない、石の延長物や氷で。




