第3話
石山ヒビは見た。鈴岡レイがつまずいて恥ずかしがるのを。
もうヒビは、レイがどんな顔を見せようが、どんな姿勢でいようが、新しい一面を見たということで満足以上の感情を抱いてしまう。
それは運動場から校舎へ戻る時だった。
石の煉瓦に対してヒビの魔導種の力が暴走。石の花の如く、十数本の柱のようなものが立つ。
(ああもう、戻れ戻れ)
またも、気持ちと操る力とを間違えないようにすべく、生やすことにも元に戻すことにも慣れていく。
そんなことのための魔導の授業も、この魔導学園には存在する。
樹妖種の一人が、手や指を木の枝へと変えて花を幾つか咲かせ、
「やった、ここまでできたよ」
などという声を出した。最近ヒビにできた友人、上木ミナだ。その手が元の状態に戻る。普通の手と指に完全に戻る。そういう種族。
彼女と同じように、ヒビも魔導の力を使い、使う感覚を覚えていく。そして気持ちの変化の際に、その使う感覚が混ざらないようにしていく。
自分で柱を、いわゆる突出部を、作るのは、今のヒビには難しいらしい。限界まで粘り、
「ぷはぁ」
と、力を使うのをやめた、その時点で、地面がそんなの盛り上がっていない。
(石や木の所じゃないからかなあ、でも多分違いそう)
コンクリートの所で試してみる。と、
(うーん)
それでもかなり小さい。
これらの様子を見ていたミナが、
「ねえ、それって元始種のだよね。でしょ?」
「あ、えーっと、うん。多分。てっきり魔導種って括りなのかと思ってたけど」
「それは大きな括りだもんね。あたしたち全体が魔導種」
「じゃああれかな、ここに来る前にね、学校からの帰り道で、見たんだよね、なんか大喧嘩みたいなのを。危ないから無視して帰ろうとしたんだけど」
「何がどう関わってくるの? それ」
ミナはそう言って運動場の端のコンクリートの階段に座った。
その隣にヒビが座る。
ヒビは思い出しつつ、
「それがさ、歩いてたら、焼けるように痛くて。急に。で、いつの間にか治ってたの。巻き込まれたみたいでさあ」
「ふうん……どうやって治ったんだろ、元始種がいた?」
「元始種っていうのは治せるの?」
「ああ、うん。そうだ、そうだよきっと。じゃあハーフみたいなものなのかもね。それで慣れ難いってことなのかも」
ミナに言われて、ヒビは、
「ええ? 治し方、なかったのかなあ、ほかに。元始種かぁ……」
と愚痴りつつも、
「え、じゃあ治った部分だけ魔導種……元始種ですよって? じゃあその分で難しいのかな」
「かも?」
ミナが首を横に倒して半分同意すると、ヒビは、道が拓けたような、それでいてその道がかなりの坂だと知ったような、そんな顔をした。
(もしかして、あの煉瓦を別な感じの煉瓦に変化させるのもできるのかな……細胞が元に戻ったみたいに……)
そのタイプの暴走も防がなければと、ヒビは意気込んだ。
それからちらりとレイのほうを見た。
レイは丸い氷の巨岩を目の前に生み出していた。高さは彼自身の身長の半分ほど。それを消すのも一苦労のようで、両手を向けて長いこと念じてから、呼吸を整えていた。
そんなレイと目が合った。ヒビは、
(気のせい?)
と、目を逸らした。手元でコンクリートが花を咲かせる。
(ああっもうっ)
ヒビがそう思ってから、階段に咲いた無機質な花は、元の平らな面へと戻った。




