今日の仕事は(2)
結晶棚の一つ一つをチェックしながら奥へと進んでいく――。
そのまましばらくすると棚の突き当たりまで進んだようで、前方の棚が視界を遮り、その先が見えなくなってしまった。
ふと、相沢が足を止める。
「……」
何かに気付いたように、
棚の向こうへ視線を向けていた。
「どうしたんだ?」
「……先輩」
相沢が手を上げる。
「ちょっと待ってください」
そう言って慎重に棚の横へ回り込んでいくと、
その棚の影には一匹の魔物が佇んでいた――。
二足で立つ、犬に似た魔物。
こちらの姿を確認すると、
魔物は低く唸りながら身構えた。
「な、なんだよそいつ……!」
「……コボルトですね」
相沢は落ち着いた様子で答えた。
「低層では珍しくない魔物です」
そう言いながら、翔の前へ出る。
「先輩は少し下がってください」
「……分かった」
翔が一歩下がったのを確認すると、
相沢はコボルトとの距離を測るようにじっとその動きを見つめた。
「シエル」
相沢が静かに名前を呼ぶ。
すると、足元に淡い光が集まり円形の魔法陣がゆっくりと展開し始めた。
魔法陣から風が巻き上がり、
その中心からは、白い翼を大きく羽ばたかせながら鷹のような召喚獣が姿を現した――。
召喚獣は空中で一度だけ翼を広げると、
相沢の前へと静かに降り立った。
「……シエル、お願いします」
相沢の声に応えるように、
シエルがコボルトへ視線を向ける。
と、同時にコボルトが地面を蹴った。
低い姿勢のまま一気に距離を詰めてくる。
「シエル、上へ避けて下さい!」
相沢の指示にシエルが素早く翼を広げる。
コボルトの爪が白い羽根をかすめたが、
シエルはそのままコボルトの頭上へと舞い上がった。
「そのまま、突風!」
相沢が短く指示を出すと、
シエルは翼を大きく振り始める。
次の瞬間、強い風が巻き起こった。
「ギギィ……!」
風に煽られコボルトの身体がよろめく――。
その隙を逃さずシエルが急降下すると、
鋭い爪がコボルトの肩を捉え、そのまま地面へ押さえつけてしまった。
コボルトは抵抗しようと身を捩るが、
シエルの爪から逃れることができないようだ。
その様子を確認しながら、
相沢がゆっくりと右手をコボルトへ向けた。
人差し指には小さな魔道具の指輪が嵌められている。
「――炎弾」
相沢がそう呟くと、指輪が淡い赤色に光ったような気がした――。
すると光は大きくなり、かざした手の前に小さな魔法陣が浮かび上がり始める。
魔法陣の中心へは炎が集まり、一瞬で小さな炎の弾へと形を変えていった。
「――発射!」
次の瞬間、
魔法陣から放たれた炎弾がコボルトへ真っ直ぐ飛んでいく。
炎弾はコボルトへ直撃し、その身体を炎が包み込む――。
「ギィッ……!」
短い鳴き声を上げると、
コボルトは力なくその場に倒れこんだ。
相沢はしばらく様子を確認してから、
ゆっくりと右手を下ろした。
「……終わりです」
シエルも役目を終えたように相沢の横へ戻ってくる。
「……強いな」
思わず口から出た。
「このくらいなら、
たいしたことないですよ」
相沢は何でもないことのように答える。
「……それじゃあ、先輩」
相沢がタブレットを手に取る。
「続きをやりましょうか!」
「……切り替え早いな」
「まあ、仕事ですから!」
そう言って、
相沢はいつもの笑顔を見せた。




