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契約完了

「……はじめまして」


 彼は翔の前で足を止める。


 そして、優しく微笑んだ。


 それ以上、名乗りも状況説明もなかった。


 ただ静かに、翔を見つめている。


(……なんだ、この状況)


 警報音は鳴り続けている。


 周囲もざわついているはずなのに、不思議とそこだけが切り離されたように静かだった。


 青年が、静かに口を開く。


「一つだけ、お願いしてもいいですか」


 穏やかな声だった。


(お願い……?)


 現実離れした出来事の連続で、思考がうまく働かない。


「オレと、従魔契約を結んでほしいんです」


 あまりにもあっさりとした言葉だった。


「……従魔、……契約?」


 言葉だけが、反射的に出る。


「はい。難しいことはありません」


「少しだけ、触れるだけですから」


 断るべきか迷っている間にも、青年は自然に距離を詰めてくる。


 視線が外せない。


 翔の前で、青年はわずかに腰を屈めた。


 そして。


 コツン、と。


 額同士が、軽く触れる。


 一瞬。


 感覚が、意識の奥を駆け抜けた。


(――っ)


 熱でもない。


 痛みでもない。


 ただ、何かが深く結びついた感覚だけが残る。


 静かに息を吐くと、青年はほんのわずかに表情を緩ませた。


「これで、契約は完了です」


 当然のように言う。


「……は?」


 思考が、一拍遅れる。


(……契約が、結ばれた)


 気づいた時には、もう手遅れだった。


 青年は少しだけ距離を取る。


 そして、穏やかな表情のまま言った。


「これから、よろしくお願いしますね。マスター」


(……は?)


 ようやく。


 思考が、現実に追いついた。

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