おやすみなさい
何やかんやで。
ソファに座る翔の前で、
リオンは大人しく尻尾を向けていた――。
翔は、
ドライヤーを片手にため息を吐く。
「動くなって」
「動いてないです」
「尻尾が落ち着いてないだろ」
風呂へ入れたまではよかったのだが、
問題は、その後だった。
濡れたままの耳と尻尾を見て、
どうしていいのか分からなかったのである。
(……とりあえず、
ドライヤーでいいだろ……)
まだ少し湿った銀色の尻尾へ、
温風を当てていく。
思っていたより毛量が多い。
「……これ、
なかなか乾かないな」
「結構、
毛量あるんですよね」
「ホントだわ。
乾かす側の身にもなれ」
「……それは、
すみません」
「いや、
本気で言ってないからな」
ドライヤーの風を受けながら。
尻尾が、
くすぐったそうに揺れた。
「……なんか、
変な感じします」
「くすぐったいか?」
「それもありますけど……
こういうので乾かすの、
初めてで」
「……マジか」
翔は、
少しだけ眉を寄せる。
(マジで、
どういう生活してたんだ……)
翔は半ば呆れながら、
尻尾へ風を当て続けた。
すると。
「……ちょっと、
熱くなってきました」
「え、
マジか。
ごめんごめん」
翔は、
慌ててドライヤーを少し離すが――。
「尻尾、
焦げるかと
思いましたよ……」
「そこまでやってないからな!」
妙に真顔で返され。
翔は、
小さく笑ってしまった。
だが。
ふわふわになっていく尻尾を見ていると、
妙に達成感があった。
「……よし。
こんなもんか」
「おお……」
リオンは、
自分の尻尾を抱えるように触る。
少し嬉しそうだった。
翔はそこで、
ふとリオンの服へ視線を向ける。
召喚された時から着ている、
妙に煌びやかな服。
装飾も多く、
どう考えても普段着ではない。
「……そういや、
着替えとかないよな」
「着替え?」
「いや、
他の服」
リオンは、
少し考えるように視線を上げた。
「これしかないです」
「マジか……」
翔は、
改めて服を見る。
今はまだいい。
だが、
明日からもそれでは流石に目立つ。
「……明日、
服買いに行くか」
その瞬間。
リオンの耳が、
ぴくりと動いた。
「……本当ですか?」
「ん?」
「街、
歩いてもいいんですね……」
少しだけ、
尻尾が揺れる。
「服買いに行くんだから、
当たり前だろ」
「……少し、
楽しみかもです」
尻尾が、
隠す気もなく揺れている。
「浮かれすぎだろ……」
「だって、
外を見れるので」
「外?」
「こっちに来てから、
まだちゃんと見れてないですし」
そう言って。
少しだけ、
尻尾が揺れる。
「あと」
「まだあんのかよ」
「マスターと出かけるのも、
少し楽しみです」
あまりにも自然に言われ。
翔は、
少しだけ言葉に詰まる。
「……ただ、
服買いに行くだけだからな」
時計を見る。
時刻は、
もう日付が変わる直前だった。
「……とりあえず、
今日はもう寝るぞ」
「はい」
リオンは素直に頷く。
翔は立ち上がると、
クローゼットから毛布を引っ張り出した。
「とりあえず今日は、
ソファで寝てくれ」
「ソファ」
「悪いけど、
ベッド一個しかないから」
「分かりました」
思った以上に、
あっさり受け入れられる。
「……文句言わねぇのな」
「ここにいられるだけで、
十分ですから」
さらっと返され。
翔は思わず視線を逸らした。
「……そういうとこ、
反応に困るんだよ」
毛布を受け取ったリオンは、
少しだけ楽しそうに笑う。
「……おやすみ、リオン」
「おやすみなさい、マスター」




