ごちそうさま
食事を終え。
翔は、
空になった皿をシンクへ運んだ。
水を流す音だけが、
静かな部屋へ広がる。
振り返ると。
リオンはソファへ座りながら、
どこか満足そうに尻尾を揺らしていた。
(……分かりやす)
さっきまで、
しょんぼりしていたくせに。
翔は、
思わず小さく笑ってしまう。
苦笑混じりに皿を洗っていると。
リビングの方から、
少し遠慮がちな声が聞こえた。
「……手伝います?」
「いや、いい」
「でも、
一応居候ですし」
「そういうの、
気にしなくていいって」
そう言うと。
リオンの耳が、
ぴくりと揺れた。
「……でも、
何もしないのも落ち着かないです」
「真面目かよ……」
思わず返すと。
リオンは、
少しだけ困ったように笑った。
気付けば、
さっきまでの気まずさは薄れていた――。
洗い終わった皿を置き。
翔は、
キッチンの縁へ軽く背を預ける。
リオンは相変わらず、
部屋の中を興味深そうに見回していた。
生活感だらけの、
見慣れた部屋。
なのに。
そこへリオンがいるだけで、
見慣れた部屋が少し違って見えた。
「……なんです?」
「いや別に」
じっと見ていたことに気付かれ、
翔は視線を逸らした。
数秒、
微妙な沈黙が落ちる。
その後。
翔は頭を掻きながら、
ぼそりと口を開いた。
「……別に、
お前と生活するのが
嫌な訳じゃないからな」
リオンが、
ぱちりと目を瞬かせる。
「ほんとですか?」
「そんな嘘つく意味ないだろ……」
「……よかった」
安心したように、
尻尾がゆっくり揺れる。
「だって、
追い出されるかもって
ちょっと思ってましたし」
「追い出すかよ……」
その反応が、
あまりにも素直で。
翔はなんとなく、
視線を逸らした。
「ただ、
まだ慣れてないだけで……」
「はい」
翔がぼやくように言うと。
リオンは、
少しだけ目を細めた。
「……まあ、
普通はそうですよね」
「なのに、
お前は妙に馴染んでるしさ……」
「そうですか?」
「いや、
普通もっとなんかあるだろ……?」
上手く言葉にできず、
翔は小さく頭を掻く。
すると。
リオンは、
少しだけ視線を泳がせた。
「……まあ、
ちょっと浮かれてたのは
あるかもしれません」
「浮かれてた?」
「はい」
少しだけ、
尻尾が揺れる。
「だって、色々と……」
「色々?」
「……その、
なんか嬉しかったので」
少しだけ言葉を濁しながら、
リオンは視線を逸らした。
翔は、
一瞬だけ言葉に詰まる。
「……なんだそれ」
その様子を見ていると。
さっきまで落ち着かなかった部屋が、
少しだけ静かになった気がした。
翔は小さく息を吐き。
キッチンを離れると、
そのままソファへ腰を下ろした。
隣では。
リオンの尻尾が、
まだ機嫌良さそうに揺れていた。




