晩ごはん
「それで……
お前って何食べるんだ?」
翔はキッチンの前で立ち止まり、
リオンを振り返った。
時間は、
すでに二十二時を回っている。
今から出前を頼むのも、
正直少し面倒だった。
とはいえ。
そもそも召喚獣って、
何を食べるんだ?
人間と同じなのか。
その辺りを、
翔は何も知らない。
問いかけられたリオンは、
少しだけ首を傾げた。
「食べられるものなら、
だいたいは」
「ざっくりしてんな……」
翔は冷蔵庫を開ける。
中に入っていたのは。
数個の卵。
少し萎びかけた野菜。
そして、
酒のつまみ用に買っていた
少し高めのベーコン――。
あとは、
冷凍してあった余りご飯くらいだった。
「……まあ、
チャーハンくらいなら作れるか」
「チャーハン」
リオンが、
興味深そうにその単語を繰り返した。
「初めて聞きました」
「マジかよ」
「はい」
妙に真面目な返事が返ってくる。
翔は冷凍ご飯をレンジへ放り込みながら、
小さく息を吐いた。
「そんな大したもんじゃないぞ。
残り物炒めるだけだし」
「でも、マスターが
作ってくれるんですよね?」
「まあオレしかいないしな」
「……なんか、
ちょっと得した気分です」
「何がだよ」
さらっと返された言葉に。
翔の手が、
一瞬だけ止まる。
翔は誤魔化すように、
フライパンへ視線を戻した。
「……意味分かんねぇこと言ってないで、
邪魔だからちょっと離れろ」
「ちゃんと離れました」
そう言いながらも、
尻尾は楽しそうに揺れている。
「まだ近いんだよ」
リオンは、
素直にもう半歩だけ下がった。
だが視線は、
変わらず翔の手元へ向けられている。
(なんで料理見られてんだオレ……)
フライパンへ油を引く。
ジュッという音と共に、
ベーコンを炒める。
その瞬間。
リオンの耳が、
ぴくりと動いた。
「おお……」
「そんな感動するとこか?」
「手際いいですね」
「ただ炒めてるだけだぞ」
「でも、
慣れてる感じします」
「まあ、
一人暮らし長いからな」
どうやら、
見ていて飽きないらしい。
翔は苦笑しながら、
卵を割り入れた。
やがて。
湯気の立つチャーハンが、
二人分テーブルへ並ぶ。
「ほら」
「ありがとうございます」
リオンは椅子へ座ると、
しばらくチャーハンを見つめていた。
「……食べないのか?」
「いえ」
リオンは静かにスプーンを手に取る。
そして。
一口食べた。
リオンは、
しばらく味を確かめるように咀嚼した。
「……どうだ?」
少し気になって聞くと。
リオンは、
ゆっくり顔を上げた。
「……好きな味です」
真っ直ぐな声だった。
その言い方が、
妙に真剣で。
翔は思わず視線を逸らす。
「……ただのチャーハンだぞ」
「でも、
マスターが作ってくれたので」
「だからそういうの重いんだって……」
翔は額を押さえながら、
自分もチャーハンを口へ運ぶ。
味は。
いつも通り。
適当に作った、
一人暮らしの味だった。
なのに。
向かいでは、
リオンの尻尾が
機嫌良さそうに揺れている。
それだけで、
少しだけ部屋が賑やかに感じた。
(……こんなのも、
案外悪くないのかもな)




