いつもと違う帰り道
会議室を出ると。
窓の外は、
すっかり暗くなっていた。
高層ビル群の灯りが、
夜の街を淡く照らしている。
(……なんで、
こんなことになってるんだ)
翔は思わず額を押さえた。
朝までは、
いつも通りだったはずなのに。
気づけば。
謎の召喚獣にマスター呼ばわりされ。
資源調達部に囲まれ。
そのまま、
一緒に住む流れになっている。
(意味わかんねぇ……)
「……マスター、
大丈夫ですか?」
「……なんでもない」
翔は小さく息を吐いた。
二人で駅へ向かう。
夜のオフィス街は、
仕事帰りの人々で溢れていた。
すれ違う人々が、
リオンの姿に思わず視線を向ける。
だが。
翔はもう、
それを気にする余裕すらなかった。
改札を抜け、
電車へ乗り込む。
幸い、
端の席が空いていた。
翔が腰を下ろすと、
リオンも当然のように隣へ座る。
電車が揺れ。
窓の外を、
夜景が流れていった。
「なんでそんな自然なんだよ……」
「自然……ですか?」
「いや、
もう普通に帰宅途中みたいになってるし……」
「普通に帰宅途中だと思ってました」
「そこなんだよ……」
翔は力なく項垂れた。
リオンは、
流れていく夜景を
少し楽しそうに眺めていた。
都心を離れるにつれ、
車窓の景色も少しずつ落ち着いていく。
高層ビルが減り。
住宅街の灯りが増えていった。
やがて。
二人は最寄り駅へ降り立つ。
駅前には、
スーパーやチェーン店の灯りが、
まだ通りを照らしていた。
そこから十分ほど歩き。
翔は、
見慣れたマンションの前で足を止める。
「……ここ」
「ここが、
マスターの家なんですね……」
「ああ」
駅から少し離れた、
落ち着いた雰囲気のマンション。
派手さはないが、
設備はそれなりに整っている。
(いや待て。
本当に、
ここで二人暮らしするのか……?)
今さらになって、
二人で暮らす実感が押し寄せてくる。
だが。
「行きましょう、マスター」
リオンは、
迷いなくエントランスへ向かっていく。
(もう完全に住む気だ……)
翔は頭を抱えながら、
その後を追う。
エレベーターへ乗り込み。
自室のある階へ。
廊下を進み、
部屋の前で鍵を取り出す。
見慣れた帰り道。
見慣れた部屋。
――そのはずだった。
翔は小さく息を吐き。
扉を開けた。
真っ暗な部屋。
静かな空間。
翔は、
半ば癖のように口を開く。
「……ただいま」
その瞬間。
「おかえりなさい、マスター」
すぐ後ろから、
穏やかな声が返ってきた。
翔の動きが、
ぴたりと止まる。
――誰かに、
“おかえり”と言われたのは。
いつぶりだっただろうか。




