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33.熱帯夜の休戦協定

山奥のログハウスのリビングは、ガーリックとオリーブオイルの暴力的な香りと、五人のヒロインたちが放つ「熱」に支配されていた。


「「「「「……ごちそうさまでした」」」」」


テーブルを囲んだ彼女たちは、俺の作ったパスタを、指先まで舐めとらんばかりの勢いで完食した。


飢えが満たされたことで、彼女たちの瞳に宿っていた「生存本能としての殺意」は、今度は別の――もっとドロリとした、熱を孕んだ「情動」へと形を変えていく。


「……ふぅ。お腹がいっぱいになると、今度は体が重いわ。……汗をかいて、服が肌に張り付いて気持ち悪いわね」


若桜わかさ 葵依あおいが、上質なブラウスの第一ボタンを指先で外し、はだけた首筋を無防備に晒した。


ランタンの灯りに照らされたその白い肌が、じっとりと汗ばんで光っている。


「……お風呂、入りたいな。……朔ちゃん。あたし、もう足も腕もガクガクで、一人じゃ体洗えないかも。……ねえ、手伝って?」


雫乃が、蕩けたような瞳で俺を見つめ、濡れたような手で俺の太ももをギュッと握りしめた。


その指先が、布越しに俺の肌をじりじりと熱くさせる。


「……主君。……戦場カーチェイスの汚れを落とす必要がある。……装備を脱がせてほしい。……浴室での機密保持、私が担当する」


三栗屋みくりや 翡翠ひすいが、タクティカル・スーツのジッパーを喉元まで下ろした。


シュルリ、という金属音が静かなリビングに不気味に、そして艶かしく響く。


「あははっ、先輩たち、気が早いですよぉ。……朔先輩、あたしと一緒にシャワーを浴びれば、時間の節約になりますよぉ? 狭いユニットバスで、密着しながら……ねぇ?」


小日向こひなた 巳波みなみが、俺の背後から腰に腕を回し、耳たぶに熱い吐息を吹きかける。


俺の背中に、彼女のまだ幼さの残る、しかし確かな弾力を持った身体がピタリと押し当てられた。


「(ア、アカン……! 胃袋を満たしたのが完全に裏目に出た! 奴らの欲望が、殺意から『情欲』に全振りされてしまった!!)」


俺、月島つきしま さくは、鼻血が出そうなほどの「女の匂い」に包まれ、必死に理性を保とうとした。


この状況で志乃さんに助けを求めようとしたが、彼女もまた、大人の色香を全開にして俺をロックオンしていた。


「……残念だけど。ボイラーが壊れてるから、使えるのはゲスト用の小さなユニットバスだけよ。……二人で入るのが限界ね。……ねえ、朔君。……まずは、家主の私と一緒に入るのが、『大人のマナー』じゃないかしら?」


志乃さんが俺の目の前で足を組み、スリットから覗く太ももを、見せつけるように撫で下ろした。


その仕草一つ一つが、高校生のヒロインたちにはない、完成された「女」の毒を孕んでいる。


「ま、待て! お前ら、落ち着け! 風呂は順番だ! 俺は最後! まずは雫乃から……!」


俺が必死に「家長」として場を仕切ろうとした、その時。


『ヌルポッ!』


巳波のポケットで、気の抜けた通知音が鳴った。


彼女は俺の腰に抱き着いたまま、気怠げにスマホを操作し、画面を読みあげる。


「……えーっと、この山域はたった今から記録的な大雨になるよー。周辺道路は一時間以内に土砂崩れで封鎖されるそうですぅ」


「なっ……!?」


その言葉を裏付けるように、窓の外で地響きのような雷鳴が轟いた。


凄まじい勢いの雨が屋根を叩き、別荘全体が震える。


『……お嬢様。申し訳ありません。急速な積乱雲の発達により、ヘリはこれ以上の待機が不可能です。……また、林道で大規模な土砂崩れが発生。……現在、別荘は物理的に完全に孤立しました』


葵依の通信機から届いた絶望的な報告。


土砂崩れ。豪雨。停電。


クローズド・サークルと化したこの密室に、俺と、五人の肉食獣。


「……あら。じゃあ、連休が終わるまで、誰にも邪魔されないってことね」


志乃さんが、ランタンの灯りに照らされた唇を、ゆっくりと舌で舐めた。


「……ふふっ。お風呂も、お部屋も。……じっくり、たっぷり時間をかけて、朔君を『分かち合う』ことができそうじゃない」


「……朔。覚悟しなさい。もう、逃げ場なんてどこにもないわ」


葵依の黄金色の瞳が、俺の服の上から、まるで中身を検分するように這い回る。


「朔ちゃん……。ふふ、逃げられないんだ。……ずっと、ずっと一緒だよ……♡」


雫乃の手が、俺のシャツのボタンに伸び、一つ、また一つと、指先で器用に外していく。


「……主君。……外気の遮断。……体温維持のための密着を、推奨する」


翡翠が、俺の腕を掴み、自分の胸元へと引き寄せる。


柔らかな感触と、石鹸の香りが鼻腔を突く。


「あはは……。先輩。今夜は、寝かせませんからねぇ……」


巳波が、俺の首筋に鼻を押し付け、深く、深く、俺の匂いを吸い込んだ。


ピコーン! ピコピコピコピコピコピコーン!!!!


窓を叩く雷光と同期するように、五色のフラグが、もはや物理的な「熱」を持って、ログハウスの空気を焼き尽くさんばかりに膨れ上がる。


『外界から完全に遮断された、逃げ場のない熱帯夜! 五人のヒロインたちの抑え込まれていた本能が、密室という免罪符を得て一気に決壊する【一線越え・五等分の完全支配確定フラグ】!!!』


「(助けてくれええええええええええええええッ!!!!!)」


土砂降りの雨に閉ざされた山奥の別荘。


連休最終日の夜。


月島 朔の貞操と理性は、五人のヒロインたちの剥き出しの独占欲という名の大波に、完膚なきまでに飲み込まれようとしていた。

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