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クラスメイトを間違えて前世の妹の名前で呼んだら陰でベッタベタに甘えてくるようになった  作者: 蒼唯まる


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6/8

見慣れた姿

 一度校門を潜れば、望月は品行方正な優等生へと姿を変える。


 ぴんと伸びた背筋、たおやかな足取り、常に浮かべる穏やかな微笑み。

 風に靡いた横髪を耳に掛けるといった何気ない所作まで全てが上品で、近くを歩いていた生徒の視線が自然と望月へと惹きつけられている。


 まさにいくら手を伸ばしても決して届くことのない高嶺の花——俺がこれまで見てきた望月詩葉である。


「にしても、さっきまでとは本当に別人だな……」


 いつの間にかクラスの女子に囲まれて昇降口に入る望月を遠目から眺めながら、俺は小さく呟く。

 もし、俺と二人でいる時はもっと砕けた言動になるぞ、なんて言っても誰一人として信じてはくれないだろう。


 ——尤も、言うつもりは微塵もないのだが。


 ろくに望月と関わったことのないぼっちが何言ってんだって白い目で見られる可能性が高いし、仮に信じてもらえたとしても、それはそれで今度は男子からのやっかみが飛んできかねないし、それが免れたとしても関係性を訊かれた時の説明がかなり面倒くさい。

 どのみちデメリットばかりな上にメリットが皆無なので、黙っておくのが一番無難な選択だった。


 その後も望月は、いつもの優等生のままだった。


 どの授業であっても姿勢を崩すことなく真面目に受け、業間の休憩時間になれば柔らかな物腰と丁寧な口調でクラスメイトと雑談を交わす。

 昼休みになれば、よく一緒に行動している女子グループに囲まれて昼食を取る——いつもと変わらぬ光景だ。


 けれど、一つだけ違う点があるとすれば、


「あれ? 詩葉ちゃん、今日はお弁当持ってきてないんだ」


「はい、その……恥ずかしながら、普段より遅く起きてしまいまして。急いで準備をしてたら家に置いてきてしまいました」


「おやまあ、珍しい。詩葉が寝坊だなんて。おかず分けたげよっか?」


「いえ、購買で買ってくるので大丈夫ですよ。お気遣いありがとうございます」


 言って、望月は席から立ち上がると、


「すぐに戻ってきますね」


 足早に教室を出て、購買のある食堂へと向かっていった。


(……そりゃそうか、一人暮らしで昨日あんなだったもんな)


 横目で見送りつつ、俺は内心で一人納得する。


 体調が回復したとはいえ、まだ病み上がりで弁当を用意するのは中々に骨が折れる。

 本当はこういう時にこそちゃんと栄養のある物を食べてもらいたいものなのだが、自分一人でやれることに限度はあるし、仕方ないことではあるか。


 ——というか、体調を崩していたことは隠すんだな。


 素直に言ってしまっても問題ない——むしろ、無理に隠さない方が良いまである——とは思うのだが、そうしないのは何か事情があると見るべきか。

 あくまで直感ではあるけど、別に友人を信頼していないってわけでもなさそうだし。

 まあ何にせよ、下手に踏み込むべきことではないことは確かだ。


 ……確か、なのだが。


(あいつ、一人で行動して大丈夫なんだろうか)


 微熱とはいえ、まだ完全に体調が回復したわけでもない。

 何より、周りに友人がいない状況で人の多いところに行こうものなら——、


「どうする……?」


 以前までだったら、スルーする一択だった。

 けれど、望月と月詠の繋がりを知ってしまった以上、見て見ぬ振りをすることだけはできない。

 今は月詠の面影はさっぱり消えてしまっているけど、朝陽の記憶が俺に動けと強く訴えかけていた。


 結果的には逡巡するまでもなかった。


「様子を見るだけだ」


 自分に言い聞かせるように声に出して、俺は望月の後を追うことにした。


 ストーカー紛いで気持ち悪く思われるかもしれないが、そうなった時は甘んじてその汚名を貰い受けよう。

 確認して何もなければ、すぐに戻ればいいだけのことだ。

 もし何かあった時は……まあ、どうにかしよう。


 つらつらとそんなことを考えながら、階段で一階まで降り、食堂へ続く渡り廊下に差し掛かった時だ。


「……ああ、やっぱりこうなるか」


 俺は小さく嘆息を溢す。

 前方では、望月が上級生の男子生徒二人に絡まれていた。


 ぱっと見た感じ、望月と上級生二人と関わりはなさそうだ。

 そして、困った素振りを見せる望月から推察するに一方的に話しかけられているといったところか。


 当然の結果ではある。

 校内一の美少女が一人で行動しているんだ。

 自分からガツガツ行けるタイプの人間であれば、このチャンスを逃す手はないだろう。


(その折角のチャンス、申し訳ないが潰させてもらうけど)


 ——朝陽の記憶が俺の背中を押す。

 行動を起こすことへの緊張はあるが、躊躇いや迷いは微塵も生まれてこなかった。


 一度深呼吸を挟んでから、俺は望月に近づき、何食わぬ顔で話しかける。


「望月。茅野と青山が呼んでたぞ。何でもすぐに来て欲しいって」


「え、小瑠璃さんと環奈さんがですか……?」


 勿論、今適当に考えた嘘だ。

 それでもここを離れる口実にはなるはず。


 隣では上級生が苛立った様子で俺を睨んでくるが、構わず続ける。


「ああ、急いで教室に戻ってきてくれ、だってよ」


 言って、「行け」と目配せをすれば、すぐに俺の意図を察してくれたようで、


「わ、分かりましたっ! すぐ行きますね。そういうことなので申し訳ありませんが、これで失礼しますね……!」


 望月は上級生二人に深々と頭を下げてから、早足で教室へ戻って行った。


「チッ、空気読めよ」


「連絡先交換するチャンスだったのに邪魔すんなよな」


 彼女の姿が見えなくなると、上級生二人から忌々しげにそう吐き捨てられたが、俺は「すみません」と会釈だけ返して食堂へと向かった。


 ——もう一つだけお節介を焼かせてもらうとしよう。

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