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第83話 暗黒決闘(後編)

「正剛!」



【正剛】――自身の界理(ロゴス)を爆発的に燃焼させ、一時的に「筋力」と「耐久」を超強化する能力。代償として生命の根源たる界理(ロゴス)を激しく消費する――


 

 一時的に超強化された筋力と耐久のステータスの恩恵を確認した。余裕ができた分の筋力と耐久ステータス値から更に俊敏へと、指先が震えるほどの過負荷を感じながらポイントを割り振る。


 ――――――――――――――――――――――


 名前:徳本 巧

種族:人間

魂の位階(レベル):30( 神眼モード✕脳筋モード)

筋力:6→3+α

耐久:5→3+α

敏捷:17→22

器用:5

知覚:10

知力:5

精神:5

運 :1

歪み耐性:1



名前:ヴォルフ=ハウンド

種族:狼獣人

魂の位階(レベル):60

筋力:16

耐久:15

敏捷:20

器用:8

知覚:12

知力:2

精神:2

運 :4

歪み耐性:6


 ――――――――――――――――――――――


 ガガガガッ! ドゴッ!


 先程までの、じり貧だったヴォルフとの打ち合いに明確な差が生まれた。むしろ膂力、素早さ共に僕の方が優位に立っている。


 だが、体内で次々に消費されては消えていく界理(ロゴス)に内心で恐れ慄く。これは……短期決戦で決着を付けるしかない!


「……おいおい、急に身体能力が上がりやがったな!?……さっき唱えていたスキルの力か?」


 僕の変化を素早く冷静に分析し、戦闘スタイルを柔軟に変えて狼牙封禍拳の技を多用し始めたヴォルフ。速度負け、力負けの差など全く意に介さないその戦いぶりに、敵ながら見事と言う外がない。


 こちらの方がステータス値で優位になったにも関わらず、ヴォルフは全く崩れない。せいぜいが互角といったところか。僕の力が増しても、時間制限付きの中ではじり貧なのは解消できなかった。こめかみがひりつき、ジリジリとした焦りを覚える。


 暗黒決闘の間に激しい剣戟の音が響く中、ヴォルフのスキル、絶牙連斬を凌ぎきった際にほんの一瞬の技後硬直生まれた。


 今だ! 自分の臭覚を遮断し、隠していたスキルを放つ。


「声轟!」 



【声轟】――「声」の力を極限まで増幅し、界理(ロゴス)の破壊的な力を乗せて広範囲に解き放つ能力。存在を揺るがす「超振動」は外殻を越えて内部を破壊し、音圧は精神にも作用して行動を一時的に不能にする――



「ぐうぅ……ガァーッ!!!」


 高レベルのヴォルフに『声轟』が効いたのは、始めのほんの少しの間だけだった。すぐにヴォルフもスキル『咆哮』を放ち、音圧を打ち消し合った。


 間髪入れずに、アイテムボックスから取り出した秘密兵器を、態勢が整っていないヴォルフへと投擲する。


 多少の痺れをものともせずに、ヴォルフがその玉を切り捨てた瞬間、劇的な変化が訪れた。


「ギャワン!?」 

 

 悶絶して、真っ暗闇の中をのたうち回るヴォルフ。


 僕が投げた物――それは使い道がないと、アイテムボックスの肥やしになっていた『ど(ぐさ)れ玉』だ――


【ど(ぐさ)れ玉】

――ゾンビキングのすべて怨念が煮詰まって凝縮した握りこぶし大の玉。本体が浄化されたことで、この玉には人体への直接的な害はない。使用すると、この世のものとは思えない悪臭を放つ――


 忌避の封眼(アヴォイド・アイ)で何倍にも増幅された臭覚で、ど(ぐさ)れ玉の汚臭を思いっきり吸い込んだからには、自分の脳が急速に腐っていくのを永遠に味わうほどの激痛を感じ取っていることだろう。


 反撃を受けないように、速やかに武器を握るヴォルフの右手を鋼骨の斧槍メタルボーン・ハルバードで断つ。


「ギャァァァ!!」


 暴れ狂うヴォルフを蹴飛ばし、次いで左手。


 もう一度『声轟』を放ち、聴覚と身体の自由を奪い、額と眼を覆う眼帯のような魔道具『忌避の封眼(アヴォイド・アイ)』をはぎ取った。


 これで、聴覚と臭覚が回復したとしても、ヴォルフはこの暗黒決闘の間ではまともに行動ができないだろう。


「ふぅ……」


 なんとか間に合ったな……それにしても猛烈な疲労を感じる。界理(ロゴス)及び魔力不足だろう。急いでアイテムボックスからマナポーションの小瓶を取り出し、一気に飲み干した。根源たる界理(ロゴス)の回復も促進してくれる。


「さて……確かこの空間から出る条件は……どちらかが死ぬか、降参して相手が受け入れる事……だったかな」

 

 ヴォルフの首筋に短槍の切っ先を突き付け、触れた部分から血がにじんだ。


 腐ってもヴォルフは幼少期のルナにとっての、兄同然だった男。ルナの目の前で生命を絶つのは憚られる……僕がこの場でやる(・・)しかない、か……だけどなぁ……ヴォルフは不穏な事も言っていたし……はたしてどうするのが最善なのか……


「ま、待て! いや、待ってくれ! 頼む! 殺さないでくれ!」


 臭いと音から回復したのか死に体のヴォルフが口を開く。


「僕を殺す気満々だったくせに……なにを虫のいいことを」


「……俺を……俺を殺したらすぐそこまで来ている五十人のハウンド達が、お前達を一生地の果てまでも追い続けるぞ! 俺との連絡が途絶えて、五十人で足りなければ一族総出でだ!」


 そうなんだよなぁ……暗黒決闘の間に来る前にもそんな事言ってたっけ。


「頼む! 何でもする! 殺さずに降参を受け入れてくれるなら、お前達のことは誰にも言わない! それどころか、聖女の痕跡は西方面には一切なく、これ以上こちらを探しても無駄だとゼニス王国へと報告する!」


 さっきまでの傲慢さは微塵もない。


 鼻を突き、耳を壊され、光を失った獣の王は、ただ無様に生に縋っていた。


「……そんな都合のいい話を信じられるわけないだろう」


「信じてくれ! 部族の誇りと……俺の魂にかけて誓う!」


「所詮は口約束だしなぁ……」


 何か契約魔法的なものでも有れば良いんだけど……


 ヴォルフの図々しい懇願を聞きながら、何か良い打開策はないかと考えていると、とある『整合スキル熟練度2』が新たにスキル欄に加わっていることに気付いた。


 ……これなら……


「ここからでた後に、美咲さんとルナの前でも今言ったような事を魂にかけて誓えるか?」


「ああ、誓う! だから頼む! 見逃してくれ!」


「わかった」


 ヴォルフに誓わせる文面を、僕に続いて復唱させ覚えさせた。


「降参する!」


「その降参、受け入れよう」


 僕が口にすると同時に、へそから体が裏返るような感覚を味わい、元の緑豊かな森のはずれへと景色が戻った。


 土下座するヴォルフの首筋に短槍を突きつけた状態で、再び現実空間に現れた僕の元へルナと美咲さんが駆け寄り、メイとラヴィが嬉しげに嘶く。


「タクミ様!」


 ルナの悲鳴のような呼び声。


「巧君! 無事なのね!?」

すみません、更新遅くなりました(^_^;)

第一部完結まで後2話お付き合いくださいませm(_ _)m

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