第十話「執念のヴァルマ領決戦!!」7
「ベルカナード!」
「PPPC」
―――キィィィィィン!
叫んだのは近衛銃士ドミナ。応えたのは”鋼鉄の騎馬”ベルカナードMk-Ⅱ。タービン音を響かせ、白銀の馬体が地を走る。
ドミナはベルカナードに飛び乗り、敵の遠距離攻撃の狙いを外す。モグログのキメラ魔人が使う『爆破』は集中も呪文もいらずほぼ即座に発射でき、視線だけで狙いを付けられる。とても強力な魔法だが、「視線を合わせなければならない」というのが、存外難しいのだ。……高速で移動するものに対しては。
「お前達のそれは大したものだが、それに頼りすぎなところがあるな。」
「ギギ!?グググなにをぉ……!」
挑発され『爆破』を放つキメラ魔人(ぱっと見、猿っぽい)。だったが、難なく躱されてしまった。実際、モグログはこれまで『爆破』をドミナに当てられたことが無い。外した隙を突かれ反撃を許すのがいつものパターンなのだ。なまじ「所詮人間なのだから、当たりさえすれば」という思いがあるのだろう。だがドミナは既に、『爆破』という魔法の穴を見切っていた。
「人を辞めて、力を得て、のぼせているのがお前達だ!!」
ドミナが馬上から愛剣”ポリング・レイ”を振るい、紫電が迸る!彼女の得意技、雷の鞭『ヴィオ・ウィップ』だ。
周囲のキメラ魔人を1撫でし、ベルカナードの背を蹴って手近なキメラ魔人に接近する。奇しくも先程なじった猿キメラ魔人だった。
「お前達”上級”と言われるキメラ魔人は、あの魔法の威力も強い。同士討ちを避けるくらいにはな?」
「キキキギギィィ~~~上級キメラ魔人を、舐めるなぁ!!」
―――ドガァァァン!!
「ググキキィ~……はっ!」
「…………。」
猿キメラ魔人は見た。自傷覚悟で放った『爆破』を近衛銃士が躱すのを。即座に雷の剣が振りかぶられるのを。だが、すんでの所で―――
「ガ、ガンドマ……!」
「焦るな、我らは何のために鍛錬してきた?」
全身トゲだらけのキメラ魔人、”貫くもの”ガンドマが、ドミナの剣から仲間を庇っていた。雷を受けたであろうその体からは煙が立ち上っていたが、上級キメラ魔人の致命傷にはほど遠い。
ドミナは既に距離を取り、再びすばしっこく動き、周囲を翻弄していた。
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「捕らえタぞ!」
《そうかしら?》
ツタと蜘蛛が混ざり合ったようなキメラ魔人により、甲冑姿のアスタレートが後ろから羽交い締めにされた。全身から蔦を生やし、頭部以外を覆う。このままでは何も抵抗できずに命を奪われてしまうだろう。
しかし次の瞬間吹き出た炎により、みるみるうちに焼き切れていった。
「グオォォ、私の体ガ……!!」
《見えていた結果でしたわね。》
アスタレートの感覚では当然のことだったろう。植物は燃えるのだから、火を吹く槍を持っていればこんな拘束は無意味だと。だがツタ蜘蛛キメラ魔人にとってはそうではなかった。弱点など分かりきっているからこそ、それが意味を成さぬほど自分の武器を鍛えた。鉄をも溶かす溶鉱炉に放り込んでもなお強度は衰えない……そのぐらい磨き抜いた自身の武芸である。そんじょそこらの火で燃やせる物ではないのだ。
それを焼き切る炎を扱うこの近衛銃士こそ、なぜ自身は平気なのかがいっそ不思議になるほどだった。
「! あれは……あの槍、プラズマ兵装?……いや、」
違う、とリボリアムが呟く。BRアーマーの頭部センサーヘルムに、それが表示された。本人が目の前の敵にかかりきりでも、BRアーマーは常に周囲の情報を処理し続けている。そして、その異常な温度が彼の目に留まったのだ。
3000度……自然に存在する炎ではそこまで行かない。魔法でもその温度に達するものは稀だろう。ただ……BRアーマーやベルカナードMk-Ⅱと同じ、遙か古の超文明技術ならば?
あの槍の炎、リボリアムの知る超文明のプラズマ兵装に似ているが、それにしては妙に中途半端でもあった。超文明時代で一般的だったプラズマ兵装はもっと高性能だ。それに3000度の炎に耐えるあの鎧も……。
ある仮説が浮かんだ。彼の親である工房は、技術の保管・継承を目的として作られたからこそ現代まで存在している。超文明は、滅びたからこそ超文明なのだ。だがその遺物が、マザーほど完全でなくとも残っていたら?それを現代の技術者が独自に復元させたら?
おそらくあれは、そういうものなのだ。細々とした事情はわからないが―――巡り巡って今は、「小人族用の操縦型ロボット」となったのだろう。まさに”小人の大人形”というわけだ。
「……そういうことなら、頼もしい!ぜああああッ!!」
「むぅぅん!!」
1秒にも満たない思考の中、結論が出たリボリアムは気を入れ直す。味方は頼もしいが、相手もまた強敵なのだ。
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「くっ……!」
ドミナの頬に一筋の血が流れる。
上級キメラ魔人”貫くもの”ガンドマが中心となり、周囲のキメラ魔人を纏めてから動きがよくなった。ドミナといえど無傷とは行かなくなったのだ。
戦いが進むと、互いの戦術が顕著になってきた。特にモグログの対応力が洗練されてきている。
頑丈で空も飛ぶ鎧姿のアスタレートには、防御が優れ、あの槍を受けられる者が。
剣に優れるドミナにはそれを捌き、返すことのできる技量を持つ者と、搦め手が得意な者が。
ベルカナードには、そのスピードに追いつける者と、攻撃力の高い者が。
リボリアムにはアイネグライブをはじめ、パワーに優れた者が。とりわけ、見た目に反して重い一撃を放ってくる、山羊のような頭をした奴が強敵だった。
帝国組もモグログの連携をかき乱し、あるいは仲間をサポートする動きを見せたが、特にリボリアムがアイネグライブによって抑えられているのが痛い。数の多いモグログの方が、結局互いをサポートし易いのは自明だ。
「く、どうする……!」
「貴様さえ抑えれば、あとはじわじわと追い詰めれば……よいのだ!」
これがアイネグライブと1対1であれば、”ハイ・プラズマモード”と”マノ・ターバイン”の全力戦闘で一気に勝負を決める選択肢もある。だが今の状況ではそう簡単にいかないだろう。いくらエネルギー容量がアップしたとはいえ、全力戦闘をし続けるのはエネルギー枯渇の危険がある。例えアイネグライブを倒せたとしても、他のモグログに袋叩きにされてしまっては意味が無い。エネルギーの無いBRアーマーでは、上級キメラ魔人の攻撃に耐えきれないのだ。
「さぁ近衛銃士、死は近いぞ!!」
「うぐっ……!まだまだ……!」
《アインドール!》
「貴様の相手は、マイマイ~~~!!」
《! ま、また、頑丈な……!》
だがアイネグライブをなんとかしないと、他の仲間達が危ない。どうする、リボリアム!
「PPPP」
―――ぐぉん!!
「な、なんだぁ!”鉄の馬”が……!?」
突然ベルカナードがスピードを上げた。……だが、戦場を離れるように進んでいる。マークしていたスピード自慢のキメラ魔人達が慌てて追いかけるが、戸惑いが隠せない。
「ジュウジュウ、は、速い……!」
「だが何のつもりだ?このままじゃ離れる一方じゃあねぇか。」
ベルカナードが全速力を出すと、モグログの誰にも追いつけない。すわ戦線離脱かと思った所、かの馬の体から白く細い、奇妙なものが出てきた。
「んん?……」「糸か?」
鋼鉄の騎馬は、ぐんぐんスピードを上げていく。その馬体の前面に、赤い力場が現れはじめた。あれは突進を兼ねた攻撃魔術のようであるが……一方で「糸」はどんどん湧き出て、かの馬の8前方8へ複雑に絡み合っていく。
それは、魔法陣であった。
ただし現人類の誰にも理解できない、かの馬独自の技術によるものだ。機魔術『G.S.ジョウント』……その効果は、瞬間的に長距離を移動できるという、驚くべきものである。
―――キュゥゥゥゥゥ………パァァン!!
銀馬の車輪が地を削り、タービンが唸りを上げ……眩い閃光と衝撃波、強烈な破裂音を響かせて、鋼鉄の騎馬は姿を消した。
「リボリアム、もらった!!」
「ッ!!」
―――パァァン!!キュゥゥゥン、ドガァ!!
「ぐぉあああっ!?」
「! ……ベルカナード!」
ワープしたベルカナードが出てきた先はアイネグライブの側面。まさにリボリアムに剣を振り上げていたその時、突撃魔術『アークバリスター』がクリーンヒットし、アイネグライブが吹っ飛んだ!
「ガォォォッ!?」「ギュロロロっ!?」「ギャアッ」
完全なる不意打ちで、リボリアムを抑えていた他のモグログや、たまたま軌道上にいた者も吹き飛ばした。
BRアーマー、その緑の双眸が黒いバイザーの奥で輝く!ここに一世一代のチャンスが生まれたのだ。
「”ハイ・プラズマモード”、”マノ・ターバイン”!!」
鈍く光る金の残像を引きながら、吹っ飛んだキメラ魔人に向かって、強く輝く左腕を振るった!!
「グクッ…………」
それは誰の呻きだったのか。
―――ドガァァンドガドグォォォーーッッ!!
上級キメラ魔人、3体分の大爆発が巻き起こる。連中に刻まれている力が、死によって一気に解放されるとみられる現象だ。その内包魔力はやはり凄まじいらしく、通常のキメラ魔人に比べて自壊・爆発の規模が段違いである。
「ぐぅお! ぐ……と、輩達よ……!!」
ベルカナードの突撃を一番まともに受けたアイネグライブは、一際遠くに吹き飛んだためリボリアムの狙いから外れていた。
リボリアムも、あえて宿敵に拘る選択をしなかった。より確実な勝利のために……アイネグライブ1体より、上級3体を選んだのだ。
この選択により、リボリアムの抑えは不完全なものとなった。そして、ドミナを狙う目も減った。敵は現在5体……!
「………!」
ドミナが剣を鞘に納めた。それを見て、アスタレートが声を上げる。
《駿馬よ!!》
「PPQ?」
なにやらベルカナードが呼ばれた(らしい)。駿馬には違いないが、そんな呼ばれ方をされたのは初めてで若干困惑した様子だ。
《アインドールを援護!横槍を防ぎなさいッッ!!》
「P・PP」
戦力ダウンの衝撃から早々に立ち直ったモグログは、妙な様子を見せたドミナに警戒する。そこにアスタレートとベルカナードが飛び込んで来た。
「……カァァッ!!」
「師範!!」
だからこそ「何かある」と睨んだ1体、”貫くもの”ガンドマがドミナに向け『爆破』を撃つ。リボリアムは咄嗟に駆けつけ、腕を広げた。
―――バァァン!!
上級キメラ魔人にしては小規模な『爆破』だった。
「近衛銃士を狙えーー!!」
「ガルルァァ~~!!」
《たぁぁーーーーッ!!》
どうやら『爆破』はただの周知行動のようだた。号令に弾かれ、闘神官以外の3体は妨害をすり抜け、2人を取り囲む。肉食獣頭のキメラ魔人―――以前ドミナとも戦った、”切り裂くもの”リサッタである―――が、自慢の爪を見舞おうとした時、素早くアスタレートが立ちはだかった。
リサッタは3度腕を振るい、アスタレートを切りつけた。1度目でガードが崩れ、2度目で槍を片方手放し、3度目で鎧から激しい火花が上がった!
《うあああっ!!》
まともに受け、倒れ込むアスタレート。そしてドミナ・リボリアムの2人へ、4体のキメラ魔人が迫る。
背中合わせに2人が飛び出した。
「シュルゥゥ!?」
「ムゥゥ~~~ン!」
苦悶の叫びが、キメラ魔人側から上がった。
1体はドミナが、抜刀した剣で植物型キメラ魔人を切り裂いた。
もう1体はリボリアムが、プラズマモードの刃で山羊キメラ魔人の両腕を落とした。
「―――アナトォォォル!!!!」
「……ムゥゥゥ~~~~ン……!」
その号令は、1人離れていた闘神官アイネグライブのもの。そして名を呼ばれた山羊キメラ魔人アナトールは、不気味な鳴き声を上げた。




