第十話「執念のヴァルマ領決戦!!」6
車輪が地を削り、反転して場に向き直る。
「ふんっ!」
リボリアムは座席を両足で蹴り、勢いよく宙に舞った。
「狙えぇーー!!」
―――ドカドカァァン!!
空中で続けざまに爆発が起こる。モグログのキメラ魔人の十八番、視線を向けるだけで爆発を起こす魔法『爆破』である。
爆煙の中、『爆破』とは違う光が一瞬見えると、無傷のリボリアムがそれまでの軌道を変え、手近なキメラ魔人に飛びかかった。
気合いを伴ってキメラ魔人を投げ飛ばし、膝をつくアスタレートを背に身構えた。
彼女がアイネグライブ達と戦闘を始めてから、時間にして5分も経っていないが、連中相手に1対10では分が悪すぎた。八方からくる攻撃を凌ぎ、防ぎ……むしろ5分もよく保ったと言えよう。膝をつく彼女は外傷こそ少ないが、既に息が上がっていた。
「アスタレート様、ベルカナードに乗って下がってください!」
「く、あ、あなた……!」
―――ひゅんッ パァン!!
「グヒュゥゥ!……この雷は!」
振り下ろされるような紫電がキメラ魔人達を打ち、近衛銃士ドミナが駆けつけた。彼女はそのままリボリアムの隣に立つ。
「アスタレート、今のうちに!ここは私たちで抑えますッ!」
「ア、アインドール……くっ!」
口元を歪ませながらも、ベルカナードに跨がり離脱するアスタレート。
残ったリボリアムとドミナに、上級キメラ魔人達が殺到した。
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ベルカナードMk-Ⅱの背に揺られるアスタレートは、打ちひしがれていた。報告は確かに読んだ。侮ったつもりも無かった。だが……。
あの僅かな間に、彼女のすべてが通らなかった。文字通り生き馬の目を抜くほどの射撃技術も。魔法の武具で固めた装備も。体術も戦術も。連中の武技やあの『爆破』という魔法に通用しなかったのだ。帝国最強の近衛銃士が、だ。
「BBB、BBB。」
「………。」
目の前の(目の当たりにしてもよくわからない)馬が、何やら鳴く。何を言ってるのかは不明だが、好意的な感じでは無い。
あっという間に城門が近づいてくる。戦い合うボリアミュート守備隊とモグログのキメラ魔獣の間を掻い潜っていく。この馬は可愛げや礼儀など欠片も無いようだが、速力と馬力は素晴らしい。アスタレートは、到着するまでの数秒、考えてた。
「………ふぅ。 ……よし。」
一応怪我人に配慮しているのか、急ブレーキを使わず、ベルカナードMk-Ⅱは城門前でゆっくり停車した。アスタレートは素早く降り、そして目の前の銀の馬にズビシと指さし言った。
「あなた、戦場に戻るのでしょう?わたくしも戻るので少しお待ちなさい!」
「Q!?!?」
一方的に要求し、次いでパチンと指を鳴らした。
「セバス!!」
「はいお嬢様。」
「アレを、急いで用意なさい。」
「そう仰ると思いまして、既にご用意してございます。」
「ふん、いつもながら流石ですわね。」
そう言って執事は、いつのまにか用意してあった馬車から、一際大きな箱を取り出し、立てた。
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黒い半透明のバイザーの奥、緑の双眸が光る。各所のランプが明滅し―――
「うおおおおおっ!!」
左右にまとわりつくキメラ魔人を、それぞれ片手で投げ飛ばす。
後ろから『爆破』を受けてよろけるが、そちらは無視してドミナを狙う個体に『レイブリット』を発射する。
一方ドミナは、絶えず動き回り『爆破』をなるべく受けないよう立ち回っている。相手の数が多いので、彼女の愛剣から放たれる電魔法『ヴィオ・ウィップ』は、適当に振るっていても連中を薙いでいく。
流石と言うべきか、最強の近衛銃士を捉えるのは上級キメラ魔人であっても至難の業であるようだ。ドミナが、珍しいことだが防戦に注力しているのもある。
それでも全くの無傷では無い。モグログ側も多少のダメージはお構いなしで、味方ごと『爆破』に巻き込んだりは平気でしてくるのだ。
「くっ……!」
「ジュロロロロ……シャギュアアーーッッ!!」
そして『爆破』でバランスを崩したところに追撃が入る。ドミナもそれは解っているので、なんとか凌ぐ。
「上級キメラ魔人は武人の集まり」と先程アイネグライブは言っていた。こうして対峙すると遺憾ながらそれは認めざるを得ない。人ならざる者どもの爪、牙、尾、そしてそのどれでもない何かを使った攻撃……どれも斬新でありつつ洗練されている。全員が独自の武術を修めていると言えた。1対1ではドミナが勝っても、多数相手に高度な連携までされては対応しきれなかった。
―――バリュリュリュ、バババァァン!!
「シュギュゥ!?」
蛇の面影があるキメラ魔人を、赤い光弾が撃つ。追撃を免れた瞬間、体勢を立て直したドミナが反撃し、すぐさま動く。なんとかリボリアムのサポートに助けられ致命的なダメージは避けられている。だがそれは、リボリアムが思うように攻勢に出られないということでもあった。
完全に不利だ。だが……2人には当てがある。リボリアムの相棒、”鋼鉄の騎馬”ベルカナードMk-Ⅱが、もうすぐ駆けつける筈だ。もう1つ戦力が増えれば、この事態からは抜け出せる―――そう思った矢先。
―――キィィィィィィィィィン……!
誰の耳にも聞こえ始めた。この世に2つと無い甲高い音。ベルカナードのタービン音だ。
「! 来たかベルカナード……うん!?」
迫ってくるそれを誰もが見た。そして困惑した。その背に見慣れない人物を乗せていたからだ。
黒っぽい灰色の甲冑……それも相当の大鎧だ。だがアイネグライブの鎧のような禍々しさは無く、金で縁取られた模様が美しい。かといって華美すぎず……全体的には実践向きの堅実な印象だ。で、問題は……アレが誰かと言うことだが。少なくともリボリアムは見たことが無い。ドミナをちらと見ると、これまた首をかしげている。
モグログの連中はリボリアムとドミナを見るが、その彼らが疑問符を浮かべているので困惑は深まるばかりである。
その大鎧は両手に大きな円錐型の騎槍を持ち、ベルカナードから降り、飛んだ。
「!!?」
敵も味方も困惑する中。その大鎧は騎槍から炎を吹き出しながら突撃し、敵陣を突っ切った!
大鎧だけでなくベルカナードも、魔術の刃を形成し斬撃を仕掛ける!大鎧に気をとられて、これに数体のキメラ魔人が切り裂かれた。
「何者だ!?」
《名乗りはもう上げましたわ?》
「! まさか……だが、その姿は一体!?」
訪ねるアイネグライブに、空から降り立った甲冑が答える。兜から響く声は、多少くぐもっているが間違いなく、近衛銃士アスタレートのものだった。
どよめくモグログ達であったが、むしろ驚愕したのはリボリアム達だ。何せ先ほど退避させたと思ったら、なぜか巨大化(?)して戻ってきたのだから。
あのちんちくりん体型の人が、どうやって大柄なフルプレートらしき鎧を着けて動けているのか?という疑問もあるが、リボリアム的にはむしろ……何か既視感のようなものを感じている。言葉にはまだできない。全体的なシルエットなんかではない気がする。
ドミナはハッと目を見開き、聞いたことが無いくらい素っ頓狂な声でアスタレートに話しかけた。
「ア、アスタレート……まさか、まさか貴殿それは……”国宝”を持ち出してきたのですか!?」
《んもう!確かに似たような物ですが、人を泥棒みたいに言わないでくださいまし?これは我がペッコリーネ家に伝わる家宝です!
槍・鎧どちらも、岩人製の逸品にして英雄デリンナガンの甲冑……その名も”小人の大人形”!そしてその愛槍、”火吹きの双槍”でしてよ!》
会話を聞いたモグログ達にも緊張が走る。
「デリンナガン!山の如き魔獣を単騎で討伐したという!?我らとて伝説でしか聞いたことが無いが……闘神官殿、あれは……!」
「むぅ、本物だとすれば少々厄介か……だがまだ数では勝っている、あのような骨董品1つあったところで!」
皆がわちゃわちゃしている内にベルカナードMk-Ⅱと、甲冑姿のアスタレートが、リボリアムとドミナに並ぶ。モグログも対面に集まり、仕切り直しの形になった。
改めてモグログの連中を見渡すと、アイネグライブを除けば大きく3つの特徴に分かれていた。動物っぽい奴ら、虫っぽい奴ら、植物っぽい奴ら。動物型の比率が多く、その数4体。虫型が3体、植物型が2体。……キメラ魔人がそもそも複数の動植物を人間と融合させた存在であるため、これは連中の頭部を見て判断した、かなり大まかな分類に過ぎないが。
並ぶキメラ魔人達の一部が体を肥大化させていった。大幅なパワーアップをする連中の切札的魔術、『魔陣励起』だ。
全員でなく一部なのは、リボリアムが思うに体に負担がかかるためと、何より攻撃力が上がる分、同士討ちの被害が大きくなるのだろう。今まで戦った『魔陣励起』化キメラ魔人は、どいつも動きや攻撃が大雑把になっていた気がする。今変化した奴らは、援護が上手かったり小器用な奴なのかもしれない。
帝国組とモグログ組、互いが戦闘態勢をとる。
「特捜騎士リボリアムに、近衛銃士2人……加えてあの馬か。相手にとって不足なし!」
「トライラム・キャリバー、プラズマモード!」
アイネグライブはキメラ魔人化し、リボリアムは左腕を輝かせた。
「いくぞ!!」
リボリアムの声で、両陣が動き出す!
まずリボリアムとベルカナードが、牽制の遠距離魔法をばら撒きながら走る。敵も当然『爆破』を撃ってくるが、上級キメラ魔人のそれとて、リボリアムとベルカナードの装甲を前に『爆破』は通じない。近衛銃士2人は彼らを盾に攻撃を避け、爆煙で視線が遮られたのを皮切りに行動を開始した。
「キキェーーーーッ!!」
『魔陣励起』した1体、グリフォンのようなキメラ魔人が飛び、上から帝国組を襲わんとする。だが!
―――スゴゴゴゴゴ!!!!
「ギギエェー!?」
”火吹きの双槍”の後部から猛烈に火を噴かせながらアスタレートが舞い上がり、そのまま突撃を仕掛けた!
グリフォン魔人は槍こそ避けたものの、まともに体当たりを食らい、吹っ飛んだ。体躯で言えばデスプ・グリフォン魔人の方が遥かに大きいが、アスタレートの火を吹く槍(彼女は熱くないのだろうか?)による突進力が凄まじいのだろう。彼女の空飛ぶさまを見て、リボリアムは超文明時代に存在した対空兵器や、遠く星の海に行くための機械を想起した。
アスタレートの、飛行能力に優れたあの甲冑の援護はありがたかった。大回りして突撃し、モグログのフォーメーションに突っ込み連携をかき乱す。これはベルカナードと似た戦法であるが、こちらは空が飛べる分、より縦横無尽だ。かといってベルカナードが目立たないかといえばそうではなく、彼女にはない遠距離攻撃を積極的に使用し、リボリアムやドミナの背面・側面を守っている。
「ぬぅぅん!!!」
「ぐあっ!?」
アイネグライブが漆黒の魔法剣を手に、リボリアムに斬りかかる。リボリアムは応戦するが、凄まじい力であった。下手に出力を抑えると完全に押し負けてしまうだろう。
受け流すより、こちらもパワーで対抗する。
ガキィン!
「うぐっ!?」
ガゴォォン!!
と思った瞬間、両脇から重い打撃を受けた。
「おあああーッッ!!」
ズバァァン!!
「うああっ!?」
打撃に体勢が崩れると、すかさずアイネグライブが渾身の一太刀を振るう。大きな火花が上がり、リボリアムが吹っ飛んだ。すぐさま立ち上がるが、今さっき両脇から来たキメラ魔人2体はもう眼前に迫っていた。だがさっきのような大振りの攻撃ではなく、関節を狙った鋭い攻撃だ。なんとか反応し防御できたが、さらにアイネグライブが追撃してくる。
「く、まだまだっ!」
追撃に剣を合わせ、流れを断ち切る。またもや2体のキメラ魔人が後ろから来たが、今度はアイネグライブの攻撃を凌ぎつつ、この援護を躱し、ついでに蹴っ飛ばして反撃した。……キメラ魔人達は上級になるほど連携も上手いと感じてはいたが、今日のモグログは特に気迫が違う。リボリアムはヘルムの中で一筋、頬を汗が伝った。
目の前のアイネグライブと、絡んでくる2体。この3体のせいで、仲間たちへの援護が出来なくなっている───いや、出来なくさせられている……!




