第十話「執念のヴァルマ領決戦!!」5
―――時は少し遡る。
アスタレート=S=ペッコリーネ。
帝国の最上級貴族たる公爵家の息女。ペッコリーネ家は大アバンジナ帝国成立以前から存在する、たいへん由緒ある貴族家である。その地位は伊達ではなく、文官・武官とも代々優れた人物を輩出し、帝国に貢献してきた。完全実力主義である近衛銃士任命の栄誉すらも、1度や2度ではない。
「おーーーーーーーーーーーーーっほっほっほ!!子供が何人集まっても、わたくしには物の数ではありませんわ!」
「なてこった!ダンちゃんがやられちまった!」「な、なんてやつだぁ」「だからおれは最初からやめようって言ったんだぁ!」
その中にあって、彼女はペッコリーネ家歴代でも特に優れた知と武を備え、現代の近衛銃士に選ばれている。唯一体格にだけは恵まれなかったが、それを補って余りある才能と努力でもって、帝国最高戦力の一角、近衛銃士となり得ている。
「何度でもいらっしゃい!貴族の力を思い知らせて差し上げますわ!!
しかし、今日はもうお前達の負・け・!おとなしくあのお嬢さんたちに、広場をお渡しなさいな!」
「く、くっそぉぉ、お、覚えてろよっ!!」「あ、ダンちゃん!……おい、引き上げだぁ!」
「お前達こそ覚えておくことよ!大貴族ペッコリーネ家の名を!!おーーーーーーーっほっほっほっほ!!!」
そんな彼女は、ここ帝国最南端のド田舎、開拓街にして領都ボリアミュートにて、一躍女児達のスーパーヒロインとなっていた。いつも遊び場を占有してくるナマイキな男子連中を細い扇子1つでシバき倒し、貴族令嬢らしい高笑いをお見舞いしたのだ。これで女児達も思い切り遊べるというものだ。……ちなみに普通、貴族令嬢は高笑いしない。はしたないからである。
「わはぁ、きぞくさま、ありがとう!」「これで”ぴすとりごっこ”できぅ!」
「ええ、大変結構。では。」
お礼もそこそこに受け取り、さらりとその場を去るアスタレート。その優雅な姿にほえーっとする女児。遊び内容は変更だ。さっきまでは”ぴすとりごっこ”を予定していたが、今日、新たな遊びが生まれる。名付けるなら”ぺこりーねごっこ”となるだろう。
所変わって、ボリアミュートの繁華街、一等商区……通称”飾り籠通り”。そこに1件、知る人ぞ知る密かな人気のお店がある。
店構えは地味。両隣やお向かいが派手なので、一層景色に埋もれてしまう。だが、入り口の簾から僅か覗くキラリとした光を見た通行人は、つい目で追ってしまう。
その光に心動かされて中を覗いた者は、まるで夢かと思う空間に足を踏み入れることになるのだ。数々の珍しい家具・置物の店”オム・ファタル”。帝国きっての大商会”タッツ商会”の経営する、輸入雑貨のブランド店……
遠慮ない言い方をすれば「珍品屋」である。
「まさかこんな所にまであるとは思いませんでしたわ。さすがはタッツ商会、感心感心。」
「こ、こちらこそ、まさかペッコリーネ家のご令嬢様がいらっしゃるとは……いやしかし、流石でございます。一目でここを見つけていただけるとは。」
「さしずめ本当の価値を見いだせる者にしか、目に入らせないと言ったところかしら。うふふ、二等区に目立つお店がございますものね?」
「さようでございます。あちらは系列の”パンセッタ商会”で、もっとカジュアルに、使いやすい物を取り扱っております。……そちらで見込みのあると判断したお客様にも、ここをお教えすることがございますが。」
「面白い試みですわね。……さて、ここにはどんな品があるのかしら。じっくり見させていただきましょう。」
「どうぞごゆるりと…………。」
そう言って、店主は心なしかそわそわした様子で奥に引き、カウンターに座った。何やら書き物をし始めたようだ。さすがのタッツ商会系列店の店主と言えど、突然のペッコリーネ家来訪には対応に焦るらしい。
アスタレートは、じっくり商品を見た。だが改めて見ると、どの雑貨も見覚えある品が多い。よく考えれば「田舎にある珍品屋」だからこそ、帝都など大都市にある品が運ばれてくるのだろう。逆に大都市ではそれこそいろんな地方の珍品が集まってくるのだ。そもそもの話、ここボリアミュートは珍品が発生する側だったのである。それに気づくと、アスタレートは嘆息した。だが1品、よさげな簾があったのでそれを購入した。窓にかけておけば、ただの日差しも目に楽しくなろう。
店主は結局、見送りの最後までアセアセした様子であった。きっとまだ未熟なのだろう。
所変わって、ボリアミュートの守備隊訓練場。
「あの体格で、ズンズン来るから参っちゃったよ。低い位置で対処が難しいし。」
「確かに。ズンズン来るよな。ドミナ様もだがあれが『闘気』ってやつか。」
「素振りも見たがよ、いやぁ~綺麗なもんだったね。ペッコリーネって言われて納得したね。」
兵士達と手合わせし、一汗流したアスタレートがいた。それを端で見ていたリボリアムが、皆に聞いた感想が先のコメントである。
「俺も見てて思ったけど、相当やってるよなぁ。」
「ああ、どっちかっつーとアンザイ師範みてえな凄味があるな。積み重ねっつーか。」
皆一様にうなずき、彼女の腕前を褒め称える。かなり打ち合っていたはずだが、それでも彼女には本当に「一汗」程度でしかないようで、お供の老執事を伴って優雅に訓練場を後にした。
アスタレート=S=ペッコリーネは、その家名に恥じぬ寛大さ、気高さと教養に加え、確かな強さをも併せ持つ「理想的な近衛銃士」である。
*
「セバス!!」
「はい、お嬢様。」
アスタレートが高らかに呼ぶと、いつのまにか後方に控えていた老執事が、素早く箱を差し出した。
「え!?こんなもんいつの間に……」
リボリアムが仰天する。箱と言っても、人1人が入れそうなほどの大きさだ。本当にいつ用意したのか……。
執事がそれを開くと、下からブーツ、胸鎧、マント、小盾、兜……が、わざわざアスタレートの身長に合わせセッティングされていた。彼女がブーツを履きつつ箱の中に入れば、各装備が装着しやすい位置に来た。要するにこの箱は大型の鎧櫃だったわけだが、まるでリボリアムの使っていた、旧BRアーマー着装ボックスのようだ。アスタレートの着装そのものは執事さんが手作業でこなしているので、だいぶアナログだが。
「ふん。魔獣が多いですわね。」
「あ、アスタレート、様?それを着込んで、まさかアレに飛び込もうってんじゃ……」
「このわたくしを誰だと思って?『爆破』という魔法のことは聞いています。知ってさえいればあの程度、物の数ではありませんわ!」
「解っていて!?」
「近衛銃士は、アインドール1人ではないんですことよっ!」
アスタレートは一喝すると、氷上を滑るように移動し、キメラ魔獣の群れに飛び込んでいった。
「……魔道具!じゃああの装備、全部……」
リボリアムが気づく。あのブーツは素早く移動するための魔道具……ならば、あの盾も鎧も兜も、すべて魔道具としてもおかしくない。果たしてそうだとすれば、あの装備一式はいったいいくらになるのか……。
「さっすが大貴族だ……」
リボリアムは金額を想像し頭がくらくらしそうになった。
『爆破』の視線を掻い潜りながら、アスタレートはそのままモグログの群れに飛び込む。
群れの中に入れば、同士討ちを避けるためか、『爆破』はピタリと止んだ。
―――パン!
「ッ……!」
キメラ魔獣の群れの中で乾いた破裂音が響いたかと思うと、1体が焼け爛れ灰になった。
苦悶の声を上げる間もなく、一瞬の事だ。他の魔獣にも理解はできなかっただろう。まさか目の前の小さき者が持つ、さらに小さな道具から発射された、さらにさらに小さな礫が、頭にめり込んだから死んだなど。
かつては古代遺跡から発掘され、今は人が自身で生み出す、驚異の力。
『銃』。とりわけアスタレートの手にあるそれは特注の中の特注。”近衛銃士”の代名詞、回転式連発拳銃
である。
―――パン!パン!パン!
その音が響くたび、1匹ずつ魔獣が灰となって消える。装弾数は6発、だが撃ち切れば素早く装填。流れるような動作である。
魔獣もアスタレートを攻撃しようとするが、止まることなく滑るように移動し、正確に頭を撃ち抜く彼女には為す術が無かった。
キメラ魔獣は決して弱くない。精強なボリアミュート守備隊でも苦戦を余儀なくされる強力な存在である。それは身の守りに関してもそうで、肉も骨も、そんじょそこらの猛獣より頑丈だ。銃と言えどその頭蓋を貫通させるには相応の口径と火薬量が必要になる。
回転連発式拳銃は対人間用の武器であるので、本来はキメラ魔獣の頭蓋を貫通せしめることはできない。故に―――
帝国最強の1人であるアスタレートは、その銃弾をすべて目、ないし耳の穴に命中させているのだ!!
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―――城門近くでは、リボリアムが感心しきっていた。
「あれが今の”銃”の力……いや、アスタレート様の実力もすごい。」
「その通り。彼女はすごい。」
気づけば後ろにドミナが立っている。
「しかし今の彼女では、あのキメラ魔人には足りない。行きますよリボリー。」
「!」
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何体魔獣を葬ったろうか。それらは現れた。
9人のフードを被った者達。そして黒い鎧の偉丈夫。
彼女も報告は聞いている。帝国に弓引く愚か者ども、その幹部と首魁……その首魁がアスタレートを見て、眉をピクリと上げた。
「これは驚いた。その金髪と体躯、そしてその手の回転式連発拳銃。アスタレート=S=ペッコリーネ?」
「あら、田舎かと思っていましたが、知る者もいますのね。できれば礼賛もくれれば言うことなしなのだけれど?」
「……ハハッ。」
黒鎧の男が失笑した。今度はアスタレートの眉がピクリと動く。男に続くように、フードの者達からも笑い声が上がっていた。
「なんの笑いかしら、今のは。」
「我らモグログの上級キメラ魔人は、等しく力を求める武人でもある。敵とはいえ、強者には相応の礼節も向ける。だが……。
お飾りの近衛銃士までいちいち敬う事など……フッ。」
パカン!
高い音が響き、黒鎧の男が身じろぎする。アスタレートが撃ったのだ。弾は男の目に飛んで行ったが、男は素早く顔を下げ、兜で阻んだ。もちろん撃ってからできる事では無い。アスタレートの攻撃の空気を察したのだ。だがそれを見ても、アスタレートの目に動揺はなかった。
「今の言葉……我々への侮辱となりましたわ。」
「では覆してみるがいい。……かかれぇ!!」
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アスタレートがキメラ魔人と対峙した時、リボリアムとドミナは彼女の元に急行していた。魔獣の群れを素早く抜ける。魔獣達はそのままボリアミュートに向かっていくが、これは気にしない。最初にアスタレートが大暴れしたお陰で、守備隊が迎撃態勢を完璧に構築できたのだ。街の守りは、彼らがやってくれる。
前方では、すでに戦いが始まっている。いくら近衛銃士と言えど多勢に無勢だ。端から見てアスタレートはよく凌げているが、10体もの上級キメラ魔人に囲まれては長くは無いだろう。
森からベルカナードが出てくる。リボリアムは走りながら、叫ぶ。
「”煌結”!」
瞬く黄金色の光がリボリアムの身体を包む───
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リボリアムが『煌結』のキーワードを発した時、0.7±秒でBRアーマーの装着が完了される。
では、そのプロセスをもう一度見てみよう。
「”煌結”!!」
キーワードの入力が確認された時、ベルカナードMk-Ⅱの機魔術『エクォ・ファット』が起動、内部に搭載する超圧縮物質『アーマーシート』が、一気に波動粒子化される。それは黄金に瞬く煌結現象を伴って、リボリアムの体に合わせ『BRアーマー』として再物質化されるのだ。
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走る特捜騎士が、併走してきたベルカナードに飛び乗る。
「ドミナ師範!」
「気にせず行きなさい!!」
短いやりとりで、互いが即座に判断する。リボリアムはベルカナードMkーⅡのアクセルグリップをおもいきり捻る。タービンが唸りを上げ、嘴のような前面装甲から赤い力場が形成されていく……。
「『アークバリスター』!!」
それは自身を巨大な槍とし、大型キメラ魔獣をも貫く、魔術を併用した体当たり攻撃である!
赤い槍がキメラ魔人達に突っ込んでいく……が、それは誰にも当たらなかった。煌結現象の光を見てから、すべてのキメラ魔人がリボリアムを意識し、身構えていたからだ。リボリアムは急ブレーキをかけ、地を削りながら反転する。
黒鎧の男……モグログの首魁、”闘神官”アイネグライブが、金色の戦士を睨んだ。
「……来たな特捜騎士!」




