第十話「執念のヴァルマ領決戦!!」8
「……ムゥゥゥ~~~~ン……!」
「なんだ?!」
目の前の上級キメラ魔人アナトール。腕を落とした筈が、特に苦痛を感じていない様子だ。
アナトールが不気味な魔力を漲らせると、切り落とした筈の腕があっという間に生えて来た。
「何!?」
「ムゥゥン特捜騎士ぃぃ……殺された同志達の仇、ムゥーーーン!!」
「うっ……!」
腕を振りかぶるアナトール。リボリアムが何気なくそれを受けると、予想外のパワーに2、3歩後退させられた。こちらは”マノ・ターバイン”こそ切れていたものの出力はほぼ全開。あちらはキメラ魔人として並程度の体格であったから面食らった。アイネグライブと一緒に攻撃してきていた時から思っていたが、明らかに他と違う……!
「ムゥゥ~~~~ン……!」
距離が空くと、アナトールが何らかのエネルギーをアイネグライブに注いだ。エネルギーを浴びたアイネグライブは、地に這っていた体をゆらりと起こした。
「!」
大型キメラ魔獣すら貫く魔力の突撃槍―――ベルカナードMk-Ⅱの『アークバリスター』をまともに受けた筈のアイネグライブが。事実、彼は今まで起き上がることができなかったのだ。そのダメージが一瞬で回復されたというのか。
「まさか、ロクシンさんの回復魔法!?」
「ムゥ~ンその通り。奴の力を受けたのだ、このように!」
今度はドミナが斬った植物型キメラ魔人が、そのエネルギーを浴びる。すると同じように、傷がみるみるうちに塞がった。
「シュルシュルシュル……」
ドミナの前で完全復活し、笑い声(?)を上げる植物型。彼女の周囲に、残りのキメラ魔人がすり寄る。先程ベルカナードを追いかけていた2体も、間もなく戻るだろう。
ドミナは―――
「………………足りない、か。」
そう呟くと、再び剣を鞘に納めた。
「勝負を捨てたか、近衛銃士!」
「捨てる?……そう、ある意味ではそうかもな。異形のバケモノ程度に遅れをとっているようでは、真の近衛銃士とは言えない……。
そうでしょう、アスタレート!!」
《も……っ》
名を叫ばれた甲冑は、残った槍を握り直しつつ、よろよろと起き上がる。甲冑の胴には4つの鋭い爪痕が刻まれている。深さからして中のアスタレートの体にも達しているかもしれない。
《もちろん、でしてよ……!》
「グルルル、そのまま寝ていれば、楽にトドメを刺してやったものを。」
先程アスタレートの甲冑に傷を付けた”切り裂くもの”リサッタが、ギラリと笑う。
アスタレートは落ちていた槍を飛び込んで拾い、ドミナと睨み合っていた植物型に向かって走る。ドミナも入れ替わるようにリサッタの前に出た。
これでリボリアムがアイネグライブとヤギ型のアナトールで2体を。
ドミナ、アスタレート、ベルカナードMk-Ⅱが、棘のガンドマ、肉食獣のリサッタ、植物型に、(ベルカナードを追いかけて離れていた)トカゲ型とグリフォン型、計5体を相手取ることになった。このうち植物型とグリフォン型の2体は、キメラ魔人のパワーアップ魔術『魔陣励起』を発動させている。ちなみに開戦当初『魔陣励起』していたのは3体だったが、1体減った。先程リボリアムが斬り捨てた内の1体だった。
モグログ側が計3体減ったことで、帝国側が連携し易くなった。だがこちらもアスタレートが負傷している。戦力で言えば五分だろう。
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白い毛に覆われた腕が、鈍く光る金の胴を殴り、火花が上がる。
殴ったヤギキメラ魔人アナトールを蹴り飛ばし、青白く光る刃が、漆黒の剣とぶつかり合った。
グリフォン魔人は白銀の駿馬を捕らえようとして、ダイナミックな8回し蹴り8を受けた。
白銀の馬体から回し蹴りのついで放たれた赤い光弾を、棘キメラ魔人がその身で受ける。
棘キメラ魔人に庇われていたトカゲキメラ魔人は、絶えず『爆破』をまき散らす。
『爆破』を掻い潜るドミナが、肉食獣キメラ魔人の女に肉薄される。超近距離で剣と爪の応酬が起こる。
己が身を焼かれようとも相手を締め殺さんとする植物キメラ魔人と、何度再生されようと焼き続ける大鎧のアスタレート。
状況は拮抗していると言えた。だが、帝国側は消耗する一方なのに対し、モグログ側は隙を与えるとすぐに回復してくる。リボリアム達帝国側が勝利するには、やはりヤギキメラ魔人”慈悲深きもの”アナトールをなんとかするのが絶対条件のようだ。
しかしそんなことはモグログもわかっている。仲間を3体失ってからは、アナトールをより固くガードするようになっていた。
リボリアムが、少し離れた位置にいるドミナに叫ぶ。
「ドミナ師範!」
「!」
「仕掛けます!」
「……ええ、よろしく!」
短いやりとりであった。だが2人の間では、確かに伝わった。
「”マノ・ターバイン”!」
BRアーマーの腰横、小さな風車が高い音を立てる。
「トライラム・キャリバー、ハイ・プラズマモード!!」
リボリアムの左腕から伸びる剣が、眩しい必殺の輝きを帯びた。
「……来るか、リボリアム!」
BRアーマー必殺機能の1つ”マノ・ターバイン”。出力を一時的にブーストするこの機能は、リボリアムに人知を超えた超パワーと超スピードをもたらす。
同じく必殺機能の1つ”ハイ・プラズマモード”。超高温プラズマを纏った剣は、触れた物質を『斬る』ではなく『分解』させる。
この2つを起動させて、リボリアムが敗北した闘いは無い。だが、必殺機能は1つの起動でもマナ・エネルギー消費速度が凄まじく、魔力容量・回復速度ともに大幅なアップデートを受けた今のBRアーマーでさえ、長時間や連続使用はエネルギー切れの危険があるのだ。エネルギーがゼロとなってしまえば、攻撃力どころかBRアーマー自慢の防御力すらも半減してしまう。そうなる前に勝負を付けられなければ……。
それでも、リボリアムは前に出た。正面には宿敵アイネグライブ。
「「うおおおっ」」
かち合う光の剣と闇の剣。キメラ魔人となったアイネグライブの恐ろしき魔法剣は、なぜか、すべてを切り裂くはずのトライラム・キャリバーと打ち合えるのだ。
だがこれまでの状況や態度からして、奴がキメラ魔人として戦うにも相応のリスクがあるらしい。
互いに本気。強大な力とリスク。そしてどうやら、互いに譲れない信念。……リボリアムの微かな雑念に、まるで心が繋がったような感覚があった。
「たぁっっ!!」
「うぬぅッ!!」
その感覚はすぐ、他の雑念とともに意識外に消えた。
鈍く陽を反射する金のボディが、光の帯となって戦場に翻る。
「! なんだと!?」
リボリアムは宿敵を無視し、手近なキメラ魔人へ肉薄した。
「ぜぇあッ!!」
「ムゥゥ~~~ン……!!!」
輝く剣はアナトールの胸を貫いた。『魔陣励起』していないとはいえ、異常な強力さを前に油断は無い。すぐさま密着し剣を押しつけ、あわよくば頭部ごと縦に切り裂くかんと力を込め……
―――がしっ
「………!?」
アナトールがリボリアムの左腕を掴んだ。そこで違和感を感じた。切り裂こうと剣を押し上げようとしたが、その腕が動かない。
アナトールはさらに反対側の腕をリボリアムに添え、押しつぶすように内側へ圧力をかけ始めた。
「う、うあ!っく、ばかな……!」
リボリアムが呻くも無理はない。基本出力100%の上、”マノ・ターバイン”でさらに強化されているこの状態で、ここまで不利になったことは無い。
それもキメラ魔人アナトールは、未だにリボリアムの剣に貫かれたままなのだ。普通の生き物であれば心臓を失っている。(もしかしたらキメラ魔人化の影響で、心臓の位置すら変わっているのかもしれないが……。)ロクシンの力、予想以上のパワーアップのようだ。
《騎士リボリアムッ!!》
―――ドガァッ
「ムゥゥゥン……!」
アナトールの胸から2本の騎槍が生えた。大鎧姿のアスタレートが後ろから突撃してきたのだ。ダメージはともかく、体勢が崩れた。それに乗じてリボリアムは脱出する。……この際に胴体を切断しようとしたが、横から
またもアイネグライブに邪魔され、それは適わなかった。
アナトールは激しく身を振り、貫いて来たアスタレートを遠心力で吹っ飛ばした。同時にまたもロクシンの『再生魔法』で体を修復する。
リボリアムのピンチにアスタレートが駆けつけたが、反対にドミナとベルカナードが手薄になった。今が好機と一斉にドミナを他のキメラ魔人が取り囲んだが、間一髪ベルカナードが間に合い、ドミナを乗せて包囲を抜ける。
「感謝します、ベルカナード!……ついでに1つ、頼まれてくれないかしら?」
「PP、Q?」
ドミナがそう言って何やら告げると、白銀の馬体から飛び、キメラ魔人軍団の前に降り立った。
「モグログ。お前達に1つ聞こう。……今日は、何人まで減ったら逃げるつもりだ?」
「!?」「なんだと!」
「グルルルどういう意味だ!」
「いやなに。戦略というものはな、負けたときのことまで勘定に入れておくものということだ。
例えば……今で言えば私は、我々の誰か1人でも欠けたら、撤退する。例え残った2人が死ぬまで戦うと決めても、私1人でも逃げる。私はここで死ぬつもりは無いからだ。」
「……何を府抜けたことを!近衛銃士が聞いて呆れる!」
「はっ、所詮獣や草木を混ぜた頭ではその程度か。」
「な、何ィ!?」
「落ち着けリサッタ。」
「ガンドマ……。」
ドミナの物言いに怒る面々を制したのは、全身棘だらけのキメラ魔人、ガンドマであった。
「近衛銃士ドミナ。武人として思うところはあるが、貴様の言っていることはわかる。そして貴様の問いの答えだが……。ふ、”全員死ぬまで戦う”と言っておこう。」
「ううむ、さすがに正直に答えてはくれないか。まぁいい。では、宣言しよう。
私は今から、3体殺す。お前たちを……3体だ。」
どよめき、戸惑うモグログ。ドミナは納めた剣の柄に手をかけ、棒立ちに近い体勢で、わずかに膝の力を抜いた。
―――ザキュ……ッッ!!
「カ……ガ……」
「このように。」
次の瞬間、彼女は宙に飛んでいた。先のお喋りを隙とみて上空・背後から奇襲をかけてきたグリフォン魔人を、その攻撃を躱しつつ、いつの間にか抜いた剣で両断していたのだ。正に「目にも留まらぬ」出来事であった。
―――ドガァァァァァン!!!
「まず1体。」
上級キメラ魔人特有の大爆発を背に再び納刀しながら、ドミナは静かに言った。
「次は誰だ?」
「お、おのれぇぇ~~~、グラァァオ!!!」
「リサッタ!……いかん、皆、補助に回れ!!」
棘のキメラ魔人の号令で、慌てて他の連中がドミナに殺到する。ショックが大きすぎて皆、気づいていないが……今、初めて人間がキメラ魔人を殺したのだ。これには冷静を装っているガンドマも相当に動揺していた。相手が近衛銃士であり、特にその中でも最強との呼び声高く、”超人”と噂される傑物であるからこそギリギリ納得できているが……たかが人間に、それも『魔陣励起』した上級のキメラ魔人が、たかが人間に倒されるなどあってはならない事なのだった。




