第十話「執念のヴァルマ領決戦!!」3
「それで、アスタレート。貴殿が来た、という事は……?」
「ええ、お・待・ち・か・ね……の、モノを届けて差し上げたわよ。まずはどうぞ、お一つ。」
アスタレートの言葉と共に、黒い塊を放り投げる。受け取ったドミナの手には、見慣れぬ円柱状のものが1つ。それを見て彼女はニヤリと不敵な笑みを浮かべた。
「ドミナ師範、それは?」
「銃弾です。これのね。」
いつも右腰に差している近衛銃士の代名詞、『ピストル』……”回転連発式拳銃”を抜いて見せた。リボリアムもピンときた。彼の知識で言うリボルバー拳銃の……替えの弾倉である。見たところ、オーソドックスな6発入り。馬車を見ると、重そうな木箱がいくつも積まれている。あれが全部弾丸だとすれば、相当な数だ。そういえば……
「師範ってこの街で、その銃使ったことないですよね?」
「虎の子でしたからね。銃弾が。でも、これで気にする必要は無くなりました!」
そう言って、弾倉から1個、弾丸を抜いて見せてくれるドミナ。リボリアムはハッとした。そのピストルの弾丸は、一般に帝国で使用される魔法複合式のライフルとは別規格……どころか専用の弾丸だった。それは金属の筒に火薬と起爆薬を入れ、弾丸で蓋をすることで作る……『実包』と呼ばれるタイプの弾丸だった。
この街に来た時、ドミナの銃弾はあらかじめ装填しておいた6発しかなかった。実はそもそも長居する予定でなく、それこそモグログの脅威度が予想外に高かったため、居座る事になったのだ。なので拳銃は本当にここぞという時に使うため、大事に取っておいた。今日この時まで来ることは無かったが。
「おお、おお。野獣みたいなカオしてますわよ?アインドール。」
「街の守りを貴方がしてくれるなら……という期待が籠もっているのだが?アスタレート。」
「気が早いですわ。まずはヴァルマ卿に挨拶しなくては。」
「ふふ、確かに。では私が案内しましょう。……リボリー!そっちはそっちで、用事を済ませてきなさい。」
「は、はい。」
近衛銃士同士の会話は、なんだか不思議であった。ピリピリしているような、でも親しみが籠もっているような。かのアスタレート=S=ペッコリーナと話すドミナは、この街の誰と話すよりも活き活きしているように見えた。人とはそもそも相手によって態度を変えるものだが……。なんだか『男が家族には見せず、友人にだけ出す荒っぽい一面』を見たような。高揚感と疎外感が綯い交ぜになったモヤモヤを、その場の全員が感じていた。
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ところ変わってマザーの工房。
《おかえりなさい、ナンバー004。》
「ただい……予想以上にいっぱい居る……」
リボリアムの言葉通り、中にはマサキ、元々の尋ね人であったナイアに、考古学者であるモルダン翁までがいた。そこにリボリアム・トマック・カイナまで入ると、かなり手狭だ。
ちなみにいつもマザーと会話するここは、工房のモニター室にあたる。作業進捗の監視が主な目的の部屋だ。ただでさえそう広くも無いのに、どこから持ってきたのか見慣れぬテーブルに椅子が3つほど追加されており、子供の秘密基地めいた様相になっている。工房全体としてはキッチンもあるし宿泊もできるが……。そういえば久方ぶりに来たが照明が妙に暗く、リボリアムは違和感を感じた。
ともかくカイナの紹介を済ませ、マザーに改めてただいまを言った。
「ナイアのねーちゃんがここに居るのは聞いてたけど、モルダンじいさんまで?」
「いや~驚いたわい、いきなりどこぞに連れてかれてな、まさかまさかの、超文明の遺跡ときたんじゃからな!長生きはするもんじゃ!……この森に悪魔は居なかったというのを、ポッと知る事になってしまったが。」
早速勝手なお喋りを始めるトマック。
「やぁ~~、ナイア=ニール正魔導士さん、お会いできて光栄ですぅ!いつもうちの石板がお世話になってますぅ。」
「あら、『セット魔術』のユーザーさん、ご利用どうも。どれどれ?……なんかスゴいの入れてるわね??」
カイナは生ナイア女史を見て盛り上がっている。近衛銃士の時と言い、ミーハーというか。いや、これが正しい反応なのかもしれないが。
「ただいまマザー。えっと、ナイアさんがこっちにいるって聞いて……あ、これ、お土産。」
《…………》
マザーは返答に窮した。リボリアムの差し出した、赤い水晶のような石を見て。
時間にすれば数秒にも満たない間だったが、マザーは自身が思うよりもずっと思考が重なり合い、沈黙してしまった。
《それを、なぜ?》
「エネルギー、もう少ないんだろ?これ……マザー2のところで貰ったんだ。新型のエネルギー。これで、解決しないかな!?」
《どうしてそれを。》
「わかるよ……親子じゃないか。マザーが俺をそう作ったんだ。」
気づけば、部屋全体が静まっている。皆がリボリアムを、驚きの表情で見ていた。
リボリアムは、うっすら気づいていた。モグログ第二の幹部ウィドログリブが現れた日。そう、通信用の腕輪を渡されたあの日。マザーがリボリアムに「自分はもう不要だ」と言った、その意味が。
「BRアーマーとベルカナードを造り出したことで、この工房の維持に必要なエネルギーは枯渇寸前だったんだろう?でも、今まだこうして稼働してる。節電してまで。マザーは、まだ止まるべきじゃない。それなら、これを使うべきだよ。」
「リボリアム、それは?」
トマックの問いに振り返り、皆に見せるように説明する。
「これは、『有機代謝マナ・クォーツ』……あー、簡単に言えば、呼吸する魔石ってとこかな。」
「呼吸?生きてるの?」
「生き物に近いけど、石ころなんだ。空気中の魔力を取り込んで、溜めておける石。……マザーも、ベルカナードから聞いたろう?」
《もちろん聞きました。あなた達はその結晶を得て、飛躍的にエネルギーが上がったと。ですが、それだけの結晶があれば、よりあなたの戦いが楽になるはずではありませんか。》
静かに見守っていたナイアが、ここで口を挟んだ。
「いいじゃない、マザーさん。貰っときなさいよ。」
《…………》
「あたしもね、親と言ったらおじいちゃんだけだから分かるんだけどさ。親孝行は素直に受け取って欲しいもんよ。いなくなる方は気楽だろうけどさ、子供に『何もしてあげられなかった』なんて嘆かれたくないでしょ?」
「おいおい、俺ァまだまだ死ぬ気はないぞ?」
「そうはいったってもうおじいちゃんじゃないの。娘としちゃあね、未だにロマン馬鹿のおじいちゃんに、なーんかドカンとでっかいモン見せてあげたいってゆーか?」
「カッカッカ!おお~~~そうだな!それは俺ァも確かに見てみたいわい!」
《…………》
ナイアはモルダンを指して苦笑いを投げかけた。マザーは何も答えなかったが、部屋の壁の一部が小さく開き、台座のようなものがせり出してきた。
リボリアムは全てを悟り、柔らかな笑みと共に、その台座へ『有機代謝マナ・クォーツ』を置いた。台座が引っ込み、壁が閉まってしばらくすると、薄暗かった照明が明るくなり、各所のランプも点灯し始めた。
「マザー……これからもよろしく。」
《あなたの意思を尊重します。ナンバー004。そして、その意思に応えましょう。》
リボリアムはナイアに振り向き、お礼を言った。次いで、ここに来た本来の目的を口にした。
「ナイアさん。魔術のエキスパートとして、ご協力願います。」
「……面白い話なら聞いてあげるわ?」
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いつの間にか持ち込まれていた机に、ざっと大地図が広げられた。
海に囲まれた大地がまるまる描いてある地図である。大まかには領主邸に保管している貴重な大地図を写したものであるが、さらにベルカナードによって収集された観測データが反映されている。(出力はマザー)今まで行った範囲であれば、この世界のどこよりも正確になっている。
「連中は、このあたりで消えたんです。まるで岩肌に溶けるように。」
「なるほ、ど……手が無いわけじゃないわ。」
「え?心当たりがあるんですか!?」
「うん、あるわね。」
ナイアはあっさりと言い切った。
「昔から、思いつく人はいたのよ。それが成功した例が無かっただけで。今じゃ禁術指定されてるわ。」
「まさか、だとしたらテレポート……転移を……本当に!?」
「その言葉の意味は分からないけど、そう、心当たりはあるってワケ?」
ナイアによれば、理論としては既にあるもので、しかしなんらかの要因で成功しないものだとされている。
リボリアムも、テレポートのような移動手段は知っているし、事実自分が使っている。モグログに対しその可能性を除外していたのは、まさにその要因に関係する。
彼の相棒、鋼鉄の騎馬ベルカナードMk-Ⅱの機魔術『G.S.ジョウント』。これがリボリアムの言うテレポートのイメージに最も近い。だがこれは、ベルカナードをはじめとする高性能コンピュータが、膨大で緻密な計算をしながらでないといけない。人間には無理だし、リボリアム単体でもできない。モグログのキメラ魔人がどの程度人間と違うのかは不明だが、獣の小さな脳を10や20詰め込んだところで不可能である。
そもそもこの『G.S.ジョウント』でさえ欠点がある。転移の過程で、ベルカナードとリボリアムは完全に量子化してしまう───端的に言えば、一度死ぬのだ。転移先で分子レベルの、ほぼ寸分違わぬ再構成が行われるが……それが転移前のリボリアムと同一のものである保証は、実は無いのだ。(リボリアムの知識で言えば、『テセウスの船のパラドクス』などと言われる問題である。)
さらに、緻密な再構成が行えるのはリボリアムとベルカナード共にマザーの被造物として、十分なデータがあるからである。他の生物では分解まで出来ても、再構成で致命的な不具合が起こる。例えばカイナが後ろに乗っていたとしたら使えないのだ。
「俺の知ってる方法は使えない筈だ。奴らは地脈に、まるで沈むみたいに……」
「地脈の流れに乗っかったってことね。……そんなことが本当に可能だなんて、正直ビックリよ。」
「うむぅ?地脈……そりゃちぃっと妙だなぁ。」
「おじいちゃん?」
「モルダンじいさん、ちみゃくって?」
モルダンの言葉に、一同が注目した。懐から出した分厚い手帳を開き、広げられた地図と何やら見比べつつ、トマックの問いに答える。
「うむトマック坊、地脈というのは、大地の奥底で河のように流れる、たくさんの魔力のことだ。そもそも魔力っちゅうんは風のようにどこにでもあるものだが、それらの元々はこの地脈という大河から、染み出てきた水のようなものだと言われとる。」
「その地脈の流れに乗って、長い距離を短い時間で移動できないかっていう発想は、昔からあったのよ。でも、有効な手段は今も無いわ。いや、”無いとされている”かしら。」
簡素な説明だが、わかりやすかったらしくトマックは頷いている。
「うむ、やっぱり変だ。ナイアよ、これをどう見る?」
「ん~~~~?……あ~~~~~~~~……」
唸るナイアの後ろから、リボリアム達も手帳を見る。が、びっしり何やら書いてあるらしいのが見えるだけで、読めなかった。
「どうしたんです?」
「あなたの記録にある土地はね。地脈が乱れている場所なの。あたしの知る理論で言えば、地脈による移動は ある程度大きな流れでないとできない……と、されてたわ。…………ふ、ふふ、っふふふふふふ……!」
突然笑い出したナイアに、リボリアムや周りの人たちが困惑する。
「面白い。しっかり面白いわ!幸いおじいちゃんもいるし……、その消える魔術ってやつ、暴いて見せようじゃないの!」
「ん、エエじゃろ。俺ァは土地の方面から調べてみることにしよう。」
《では、記録のまとめは私がやりましょう。現代の魔術については、あなた方のほうが詳しい。是非とも存分に考察いただきたい。》
「あ、あのあの、私も混ざっていいですかぁ?皆さんほど意見は出せないかもですがぁ、後学のためにお手伝いさせてください~。」
手拍子を1つ打って宣言するナイア。その頼もしい言葉に、リボリアム達の顔に喜色が浮かんだ。同時にマザーも活力を取り戻したようだ。そうして、4人は卓を囲み始めた。
残ったメンツはリボリアム、トマック、そしてトマックの兄である次期領主マサキ。マサキは残った2人を集めた。
「じゃあ、こっちはこっちで、別に動こう。ここ最近、モグログの襲撃が続いてることは?」
「あ、はい、聞いています、マサキ様。」
「それじゃあその事だ。……特捜騎士リボリアムに指示を与える、何か意見があれば、言ってくれ。」
「……は!」
リボリアムはびしりと胸に拳を当て、敬礼した。
余談:『G.S.ジョウント』で転移する際、リボリアムの荷物として載っている食べ物や服、剣などの再構成は、結構アバウト。融合するようなことは流石に無いが、干し肉の繊維がめちゃくちゃに絡み合って食い千切りづらくなったり、果物の味が変わっていたりする。




