表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
チートな俺が、チープなあたしに変わったら、くすぐりに悩まされる日々が待っていました  作者: 広瀬みつか


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

102/109

102.内なる獣、なにが……

 メイリスは荷物袋を床に置くと、代わりにミユウをベッドの上に寝かせた。

 ミユウは相変わらず胸を手で掴み、全身を上下させて呼吸をしている。

「これは酷い。もっと早くに君の異常に気づいてあげれば。ごめんね」

 目の前で苦しむミユウの姿を見て、メイリスは罪悪感に苛まれた。

 町の通りで再会したときにも、ミユウには今ほどではないものの体調の優れていない様子だった。

 本当であれば、自分の部屋ではなく、医師のいる場所に行くべきだった。

 であれば、彼女はここまで苦しむことはなかったのかもしれない。

 メイリスは何度も謝罪の言葉を呟きながらミユウの額に流れる汗を拭き取っていく。

「神術で治療してあげたいけど、確かこの子の体の大半は魔力で形成されている。下手をすれば体調がより悪化するかもしれない。僕ができることは何もないな。ここは医師を連れてくるか」

 立ち上がろうとした瞬間、メイリスはベールの裾を掴まれ、後ろに引っ張られると、背中からベッドに倒れた。

 その拍子に彼女の頭からベールが外れ、エメラルド色の長髪がバサッと広がる。

 何が起きたのか分からず唖然としたメイリスだが、すぐに体を起こそうとする。

 しかし、ミユウが馬乗りに跨がり、メイリスの両手首を掴んで、完全に動きを制止した。

 上から見下ろすミユウは相変わらず、顔を赤く染め、肩で大きく呼吸をしていた。

「こ、これはどういうつもりかな?おふざけにしては度が過ぎていると思うよ」

「ふざけてなんかない。あたしは本気、だよ?」

「本気か。だったら、なおたちが悪い」

「メイリスがいけないんだ?あたしは何にもしたくなかったのに、あなたが誘うから……」

「そんなことした覚えはないけどなぁ。前にも言ったよね。僕には女の子と交わる趣向を持ち合わせていないと」

「そんなの関係ない。あたしをこんな気持ちにさせた責任はとってもらうから」

 そういうと、ミユウはメイリスに顔を近づける。

 距離が縮まるとよく分かる。ミユウの目が据わっていると。

(ダメだ。正気じゃない。確か、変なポーションを飲まされていたと言っていたが、そのせいだろうか?いや、今は原因なんてどうでもいい!)

 手で押し返したり、全身をくねらせたりしながら脱出を試みるが、体の弱まっている少女のそれとは思えないほどの怪力の前には無駄だった。

 神術を使えば簡単に引き剥がすこともかのうだろうが、発動時に必要なペンダントは転倒する拍子に外れてしまった。きっと床に落ちているだろう。

 そうこうしている内にミユウの全身とピタンと密着していた。

「な、何をする気だ」

 ミユウはとろんとした目でメイリスの胸をしばらく見つめた後、いきなり顔を埋める。

「ちょ、ミユウ!君、自分が何をしているのかわかっているのか!」

 メイリスは頬を赤く染め、必死に抗議する。

「いい匂いがするぅ」

 しかし、ミユウはそんなことお構いなしに顔をグリグリと擦りつける。

「やめないか、あ、あはははははははは!く、くしゅぐったい!」


 しばらくメイリスの胸の弾力と石けんの匂いを堪能したミユウはトカゲのようにゆっくりと這い上がっていく。

 そして、舌なめずりをすると、メイリスの首元にはむっと噛みついた。

「ひゃう!」

 未経験の刺激にメイリスは甲高い声を上げる。

 頭を大きく振って抵抗するも、ミユウは一向に離れようとしない。それどころか、メイリスから何かを吸い取るような音を立て、ときにはペロリと首筋を舐めた。

(偉大なる神“シリスト”に仕える聖職者として、一人の女としてこんなことで身を穢すことは許されないんだ!)

 純潔を奪われる前に逃げ出さなければならないとメイリスは必死になっていた。

 しかし、彼女の中で妙な感情が芽生えていた。

(あれ?この体の底から湧き上がるものはなんだ?逃げなければならないと思っているはずなのに。こんなことをされて嫌なはずなのに。相手は同性のはずなのに……)

 メイリスは半ば理解していた。

 この感情が聖職者の信仰心と理性に相反するものであることを。そして、自分が今までに経験したことのない未知の世界が開かれていることを。

(これは、これで……)

 ふと目線を落とすと、ミユウが上目遣いでメイリスを見上げていた。

 涙で潤んだ彼女の目。それは新たなターゲットを確かに見据えていた。

「キスをしたいのかい?」

 ミユウは答えない。ただ小首を傾げてメイリスの唇を見つめている。

 心なしか、手首を押さえつけるミユウの力が弱まっていることに気がついた。

(今なら逃げ出せるチャンスだ。けど、本当にこのまま逃げてもいいのか?ミユウをこんなにしたのが僕なら、彼女の言うとおり責任をとるべきなのでは。それにこの機会を逃すのは……)

 メイリスは全身の力を抜き、そっと目を閉じた。抵抗することを放棄したのだ。

 彼女の意思を察したのか、ミユウは再びメイリスの上を這い上がっていく。

 そして、メイリスの鼻の下にミユウの息があたる。

(シリスト様、清らかな身を穢す罪深い私をお許しください!)

 心で信仰するシリスト神に許しを乞うた。


『お待ちください!』

『どこに隠れているの!にぃに!』

 ドアの向こうから複数人の足音とともに宿屋の支配人と聞き覚えのある少女の声が響いてきた。

『勝手に入らないでください!』

『安心してください。用が済み次第、退散いたしますから』

『それでも困ります』

『早く退散するから教えや。黒い長髪の少女を見かけんかったか?』

『申し訳ございません。お客さまに関する情報をお伝えすることはできません』

『その言い方じゃと、君には心当たりがあるんじゃな?』

『いや、先ほどのは言葉の綾といいますか……』

『ふむふむ。なるほど。こちらの部屋からミユウさんの気配を感じますね。では失礼します!』

『お待ちください!こちらのお部屋は特別なお客さまの……』

 支配人の制止を無視するように部屋の扉が開かれた。

 そこにはアストリア、サヤ、イリイナ、シュナの姿があった。

「メイリス助祭、申し訳ございません!私どもは必死にお止めをしたのですが、こちらの方々が強引に入られて……」

 アストリアたちを押しのけ、宿屋の支配人が部屋に入り、深々と頭を下げて謝罪の言葉を述べたが、ベッドで少女に押し倒されているメイリスの姿を目にして、一瞬唖然とした。

 彼はどう察したのか、狼狽しながら「お楽しみのところ、失礼いたしました!」と言い残し、部屋を飛び出ていった。


 しばらくの間、ただっ広い部屋を静けさが支配する。

 その沈黙を打ち破ったのはアストリアの一言だった。

「お久しぶりです、メイリスさん……随分とお元気なようでなによりです」

「いや、違うんだ!これはミユウがいきなり襲ってきて……」

「うふふ。冗談ですよ。安心してください。事の仔細は理解していますから。ねえ、ミユウさん?」

 アストリアの視線がメイリスからミユウに移る。

 同様にメイリスも目線をミユウに向ける。

 ついさっきと変わらない正気とは思えない表情だが、大量の汗を流し、妙に動揺しているように見えた。

「うちのミユウさんがご迷惑をかけ、申し訳ございません。あとは私たちが責任を持って預からせていただきます。ではミユウさん、一緒に帰りましょうか」

 アストリアたちが部屋に入ってきて、メイリスとミユウに近づく。


「一旦落ち着こう。感情的になっても仕方ない。よかったら、ここでじっくり話し合ったらいいよ。僕も仲介人として立ち会うからさ。ミユウもそれでいいだろ?」

「むぅ~~いやだ!」

「安心しろ。君の悪いようにはしな、んん!」

 何を血迷ったのか、ミユウは自分の唇をメイリスの唇に強引に押しつけた。

 突然のことにメイリスは自分の置かれている状況を把握することができなかった。

 口が塞がれて満足に呼吸ができない。苦しい。

 しかし、その中に幸福感と満足感が湧き上がるのを実感していた

(これがキスというものか。唇どうしを重ね合わせて、何がいいのかと思っていたが、これはこれで…………って何考えているんだ、僕は!)

 メイリスは顔を左右に振り、強引にミユウの唇から引き離した。

「ミユウ、いい加減にし、ろ?」

 ミユウに面と向かって説教しようとしたが、目の前にあったのはミユウの顔ではなく、少女の右の足の裏だった。

「うらぁぁぁーーーー!」

 少女の殺意の籠もったうなり声が鳴り響くと同時に、ミユウの顔面に少女の足の甲がクリーンヒットし、ミユウの全身は後方に飛ばされる。

「ふんがっ!」

 ミユウは後頭部から鈍い音をあげて、衝突する。その衝撃で割れたのか、ミユウの後頭部から出た大量の血が壁一面に飛び散った。

 メイリスが恐る恐る左側に目線を向けると、今ちょうど着地したばかりのサヤがいた。

(なんだ、あの蹴りは。あんな細い体のどこからそんな力が)

 サヤは拳をボキッと鳴らしながら、ミユウに詰め寄った。

「にぃに~、何やっているの?あたしからしたときは嫌がってたのに、メイリスさんにはあんな熱い熱いチューを。しかも、あたしたちの目の前で。当てつけかな?嫌がらせなのかな?」

「ちょっと何をしてるんだ!」

「何って、目を覚ませるために蹴りを一発ね」

「いくらムカついていたからって、顔面を蹴るのは無いだろ!これじゃ死んでしま……」

「安心して。すぐに生き返るから」

「何を言ってるんだ。死んだ人間が蘇るはずがな……あれ?」

 メイリスは自分の目を疑った。

 壁一面に飛び散ったはずの大量の血が全て一瞬で消えていたのだった。

「確かに生き物は一度死ねば生き返ることはできない。けど、何にでも例外ってあるものなんだよ。ねえ、にぃに?」

 倒れ込むミユウの目の前でサヤがしゃがむ。

 すると、ミユウはうなり声をあげ、ぶつけた後頭部をさする。

「あれだけの血を吹き出して無事だなんて。けど、その血もどこかへ消えてしまって……まさか君たちは不殺族、なのか?」

「ぴんぽーん!」

「なるほど。それなら、さっきの蹴りの威力も納得できるよ」

「このことは秘密にしてね。役人に知られたら、捕まっちゃうから」

 サヤはメイリスに向けて、人差し指を唇に当てるジェスチャーをした。

 不殺族はその特異な体質から実験材料として国家権力から追われている。そのことは世界の暗黙の常識である。

 彼女たちがその正体を明かさなかったことも頷ける。

 しかし、実際に目の前で蘇生する光景を見せられると信じがたいものがある。まさに奇跡だ。

 国家権力がその力を手に入れようと考えが少しだけ分かったような気がした。

「さて、にぃに。なぜあたしじゃなくて、メイリスさんにキスをした、その心意を聞かせてもらおうかな?場合によっちゃ、顔を潰しちゃうけど……ん?」

「ぐるるるるる……」

 人とは思えない、獣のような唸り声をミユウがあげていた。

 サヤが不思議そうに顔を覗き込むと、突如ミユウがサヤに襲いかかった。

 不意を突かれたサヤは後ろに倒れ、彼女の両手首をミユウが押さえる。

「え?ちょっと何?蹴られたことを怒ってるの?でも、あれはにぃにが浮気をしたのが悪くて……」

「ぐるるるるる……」

 サヤの言葉を一切聞いている様子はない。ひたすらに唸り声をあげ、サヤに対して牙をむき出しにする。

 それはもう人間ではなく、猛獣という言葉がふさわしい。獣人族であるシュナの方がまだ人間っぽい。

 一方、押し倒されているサヤは恐怖しているのではなく、何かを期待しているように見えた。

 ミユウを怒りと殺意の籠もった蹴りをかました人物とは思えない。

「あ~。にぃにに襲われる~。犯される~。でも~、あたしにも責任があるしな~。本当は嫌だけど~、あたしの初めてをにぃににあげちゃう~」

 言葉の内容と口調がまったく合っていない。危機感のない棒読みだ。なんならずっとニヤニヤと口角を上げている。

 その言葉の意味を理解したのか、ミユウはサヤに襲いかかろうとした。


 しかし、それは叶わなかった。

 ミユウの両手首と腰が鉄製の鎖に拘束され、全身が壁に引きつけられたからだ。

 鎖はアストリアが魔術で出現させたものだった。

「ぐるるるぅ!がるるるぅ!」

 手足をバタつかせて、鎖を外そうとするミユウ。

 そんな彼女の元にアストリアが近づく。

「いくら不殺族の力がすごいとはいえ、魔力で生成した鎖を壊すことはできませんよ」

「がうう!」

「気が荒ぶっているのは分かりますが、実の妹に手を出すのは倫理的にアウトです。よね、サヤさん?」

「ちっ。あともう少しだったのに……」

 サヤは明らかに惜しがっている様子で体を起こす。

「そんなことを言っている場合じゃありませんよ。ミユウさんがこうなってしまったのは私たちが原因です。そのせいでメイリスさんにまで迷惑をかけたのです。せめて責任を持ってミユウさんを正気に戻しますよ」

「しかし、どうするんや?ここまで獣化しとるんを正気に戻すんは至難の業やで」

「簡単な話です。正気に戻るほどの刺激を与えればいいのですから」

「刺激って。さっきのサヤの蹴りを顔面から受けてこれじゃ。それ以上の刺激があるんか?」

 アストリアはニコッと微笑むと、右手でパチンと指を鳴らす。

 同時に、ミユウの周りに30程度の小さなマジックハンドが姿を現し、ミユウに向けてワキワキと動いていた。

「うふふ。ミユウさんと言えばやはりこちらですよね」

 再びアストリアが指を鳴らすと、マジックハンドたちがミユウに一斉に襲いかかる。土埃にまみれたガウンの紐を全て解き、晒された体をくすぐり始めた。

「ひにゃはははははははは!いひひひひ、ぎゃはははははははは!」

 笑い悶えながら全身を必死にくねらせて振りほどこうが、マジックハンドはお構いなしにミユウの体に食らいつくように容赦なくくすぐり続ける。

 気のせいか、笑い方に少しだけ野性味を感じる。

「このまま正気になるまでじっくりとくすぐり続けるのもいいですが、あまり時間をかけてはメイリスさんに迷惑をかけてしまいます。今回は早々にけりをつけましょう」

 アストリアが右手で人差し指を立てると、その先をミユウに向ける。

 それを合図に、マジックハンドの一つがミユウの背後に移動し、髪をかき分け、襟元からガウンの中に潜り込み、他のマジックハンドがミユウの体から離れる。

「ふにゃーーーーーーーーーーーー!ガクッ」

 笑い悶えていたミユウがいきなり叫び声を上げ、数秒後に気絶した。

「一体何をしたんじゃ?」

「ミユウさんの首から腰にかけて、背筋をすぅーっとなぞりました」

「確か、背中も弱かったもんね」

 アストリアは再び指をパチンと鳴らし、ミユウを拘束していた鎖を消す。

 そして、ベッドの上のメイリスに向けて振り返る。

「メイリスさん、この度はお騒がせし、申し訳ございません。先ほどのミユウさんの不躾については私たちでしっかりとお仕置きしておきます。また後日改めて謝罪させますので、どうか本日はご容赦願います。では、これで失礼しま……」

「ちょっと待ちなさい!」

 ミユウを連れ出そうとするアストリアたちにメイリスは待ったをかけた。

「いかがされましたか?」

「いかがされましたか、じゃない!今回の件、僕も被害者なんだ。だから、君たちには僕に対する説明責任がある。ミユウがなぜああなったのか。君たちは彼女に何をしたのか?そして、どうしてそんな事をしたのか?僕が納得のいく説明をするまで君たちを帰さないからね!」

「それはまた日を改めて……」

「つべこべ言うんじゃない!さあ、全員そこに正座しなさい!」

「「「「は、はい……」」」」

 メイリスの迫力に圧されて、アストリアたち4人は横一列に並び、床の上に正座した。

 そして、メイリスによる尋問と説教が始まったのだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ