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明るい日の朝

 なつかしい匂いの中で、私は目を覚ましました。

 起き上がってまわりを見回すと、そこはハルの部屋でした。

 部屋の中はうす暗かったけれど、それでもカーテンはぽおっと明るくなっていて。

 そして……とても静かで。

 私は昨日のことを思い出しました。

 そっか……ハルの部屋で……。

 となりを見ると、そこにいたはずのハルは、もういませんでした。

 いつもと違う感じ、違う匂い……。

 私は、このまま自分の部屋にもどるのがもったいない気がして、ハルの部屋を見てまわることにしました。

 ハルの机の椅子に座ってみると、なんだかえらくなったような、そんな気がして。

 そうして、ハルの机の上を見渡してみました。

 机の端には紐で閉じられた書類が重ねてあって、手元には綺麗に削られた鉛筆が揃えられていました。

 そのとき私は、書類の束の下に、小さな筆記帳があるのに気付きました。

 授業の筆記帳かと思って、引っ張り出して、開いてみました。

 それは、ハルの日記帳でした。

 私は、いそいで日記を閉じて、もとあった場所に戻して、その場を離れました。

 でも……。

 ハルは私のことを、どう思っているんだろう?

 ハルに冷たくあたっていたとき、ハルは私のことを嫌いになったりしてないかな?

 それを……どうしても知りたくなって。

 私は、その誘惑に勝てませんでした。

 ハルの日記帳を手にとったとき、後悔するかもしれないよ、って声が自分の中から聞こえました。

 でも私は、それでもいいと思って、ハルの日記帳を開きました。

 日記は、今年の最初の日からはじまって、領地経営のことや覚えておくべきことが淡々と書かれていて。

 そうして、あの日も、その次の日も、同じように書いてあって……その次の日から空白になっていました。

 私は、ここまでしか書いてないのかなって思って、ぱらぱらとめくって。

 そうして、書き殴るようにして記されたそれを見つけました。

 

 誰か姉さんをたすけてほしい

 僕にできることを教えて欲しい

 何をすればいいのか

 疲れたような痛々しい寝顔だった

 姉さんが生きてここにいる本当によかった

 忘れるべきではない

 僕にできることをさがしている

 何が出来るんだ

 何がしたいんだ

 きっと何かあるんだ

 何とかするんだ

 分かったらそれをするんだ

 僕にできること全てするんだ

 やれやるんだ迷うな今すぐだ

 

 ……どきどきして、それから、自然に口元がほころんでしまって。

 こんなにも想われていることに、少しだけ戸惑いました。

 でも、すぐに……うれしいって気持ちが、それを上書きしていって。

 私はしばらくの間、ハルの日記帳を抱きしめていました。

 

 そうしていると、ハルの部屋の扉が開いて、ティトが入ってきました。

「リーゼロッテ様、朝食はこちらで召し上がられますか?」

「うん、そうする」

 ティトが応接用のテーブルの上に並べてくれた朝食……そのなかのジャムの瓶が目に留まりました。

 それは、私の好きなミスティの手作りのジャムでした。

 中身もいっぱい入ってるし、新しく作って、持ってきてくれたのかな?

 じゃあ、今、ミスティは台所にいるんじゃ……そう思って。

「リーゼロッテ様!?」

「ちょっと! ちょっと、行ってくるだけだから!」

 そうティトに言って、私は、ハルの部屋を出て、廊下を走って、階段を一段ずつ飛ばしながら降りて……。

 階段を降りているとき、私は誰かの声を聞いた気がしました。

 このまま振り切って!

 その声はそう言っていました。

 無理やりでいい、きつくてもいい、このまま明るく振舞えれば、振り切れる……。

 だって、いつまでも、あんな……あんな暗い場所にいることなんてできない。

 だから……。

 連想のように言葉がつながっていって、そのまま私は台所へ飛び込んで、後片付けをしているミスティを見つけました。

「ミスティ!」

 私の声に、ミスティが振り向いて。

 驚いた表情を浮かべたあと、視線を泳がせながら、臆病そうに一歩後ろに下がったミスティに私は、

「ねえ、ミスティ、まだ怒ってるの? だめよ、そろそろゆるしてくれなきゃ。だって誤解なんだもん!」

 言葉が口からすらすらと出てきました。

 そんな私を見て、ミスティは微笑んでくれて、その目からぽたぽたって涙がこぼれて。

 そうしてミスティは、私に駆け寄って、両ひざをつくようにして、私を抱きしめてくれました。

「わ……私のほう、こそ……自分のことっ、ばか、り……」

 ちょうどいい位置にミスティの頭があったので、ちょっとなでてみました。

 年上の人にお姉さんぶるのは、いいものですね。

 そのとき、視界のすみに誰かがいるような気がして、そっちを見てみると……クルと料理人のフィルがいました。

 クルは、麦ご飯、ベーコン、卵、野菜を山盛りにしたお皿を片手に、困ったような笑いを浮かべて立っていました。

 私がここに来るまで、台所で立ったまま、ご飯を食べていたみたいでした。

 フィルは、ミスティが泣いてるのにびっくりしたのでしょうか、ぽかんと口を開けて私とミスティを見ていました。

 ミスティの頭をなでながら、ちょっとにらんであげると、二人とも大げさにうなずいてみせて、小走りで食堂のほうへ行きました。


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