表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
13/35

明るい日に

 まだ、夜の明けないうちに目を覚まして。

 そのまま、ベッドの上で、ぼんやりと時を過ごします。

 何も考えないようにしても、どうしてもあのときのことが頭に浮かんできて。

 何度も寝返りを打ちました。

 はやく朝になってほしい、って思っていました。

 外がうっすらと明るくなったころ、屋敷のあちこちから色々な音が聞こえはじめます。

 召使いたちが起きて、今日の準備を始めたのでしょう。

 その音が聞こえるようになると、私はすこしだけ安心できました。

 そうして、私は、ハルが来るのを待っていました。

 私が、あんなひどい言葉を投げつけたのに、それでも毎日来てくれるハル。

 今日こそは、せめて一言でもいい、お話しようって思いながら、ハルを待っていました。

 朝が来て。

 ドアをノックする音が聞こえて、私は、いつものように、おふとんにもぐりました。

「おはよう、姉さん」

 ハルが私の部屋に入ってきました。

「今日もいい天気だよ」

 無理して明るい声を出そうとしているのが分かりました。

 私に何があったのか、誰からも聞かされていないみたいでした。

「あっ……カーテンは閉めたままにしとくね」

 ハルがそう言ったとき、私は、今だ、って思って、

「ううん……開けて」

 そういいました。

 私がそれだけ言っただけなのに。

「あ……うん!」

 ハルの安心したような、救われたような声音。

 私は、胸が痛くなりました。

 ハル……ごめんね。こんな……いやなお姉ちゃんで……。

 カーテンを開ける音がしました。

 おふとんの中にいても、部屋に光が差し込むのが分かります。

「じゃあ、姉さん。僕、朝ごはんに行ってくるね」

 そういって、ハルは部屋を出て行きかけたみたいでした。

「うん……」

 私は、そう答えました。

 でも……とても小さな声でしたから、ハルには聞こえなかったかもしれません。

 そのときドアの開く音がして、つづいて、配膳車を押す音が聞こえてきました。

「あ、おはようございます、ハル様」

「おはよう、ミスティ」

 ドアのところで、二人が挨拶を交わすのが聞こえました。

 少しの沈黙があってから、ミスティの足音が近づいてきて。

 ミスティは、おふとんの上から私をゆすって、

「リーゼロッテ様、ハル様に、お顔を見せてあげてください」

 ミスティの困ったような声が、頭の上から降ってきました。

「いいんだよ、ミスティ」

「そう、ですか……?」

 そんなやりとりがあって、ハルは部屋を後にしたみたいでした。

 部屋の中からは、かちゃかちゃと食器の鳴る音が聞こえていました。

「ねえ、ミスティ」

「はい?」

 おふとんから顔を出すと、ミスティのやわらかくて優しい笑顔がありました。

「ねえ、変……じゃない?」

「……? いいえ」

「変……なのよ。なんだか私じゃないみたい。ねえ、これ、とか……」

 私は、自分の顔に触れて、ミスティにほおを揉んで見せました。

「こんな私、見たら……ハルに嫌われない、かな……?」

 ミスティは、ふっと笑って、

「リーゼロッテ様。ハル様は、そんな方ではありませんよ」

「うん……」

 でも、嫌われるのが怖いの。

「う……でも……でっ……も……」

 そう言おうとして、でも、口ごもってしまいました。

 そんな私を、ミスティは化粧台のまえに連れていって、くしを取って、私の髪を梳いてくれました。

「身じまいをきちんとすると、気持ちが落ち着くんですからね」

「うん……」

「それに、あせらなくとも、大丈夫なんですよ」

「え?」

「ハル様に、リーゼロッテ様はいつもハル様のことばかり言ってるって、申し上げておきましたから」

 鏡越しに見たミスティの顔は、少し得意そうで……。

 私は、いつかの仕返しなんだって気付きました。

 でも、悪い気はしなくて……。

 なんだか言葉でくすぐられてるみたいでした。

 私は話題を逸らそうと思って、そうして、私の文机の上に置かれた見慣れない表紙の本を見つけました。

「ねえ、ミスティ。その本は?」

「えっ、あ……そうでした。あ、あの、トートン様から預かった、あの、ご本です……」

 そういって、ミスティが私に渡してくれた本は、私の好きな作家さんの新刊でした。

 覚えていてくれたこと、そして、トートン先生のお気遣いが嬉しかったです。

 ミスティは、また黙って私の髪を梳き始めました。

 トートン先生と、どんなお話をしたんでしょうか。

 鏡越しに見たミスティのほおが少し赤く染まってるような気がしました。

 ミスティかわいい、って思って。

 ミスティにしあわせになってほしいって、思いました。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ