3話
彼の過去を私は知っている。彼が冒険者を目指した理由も。
あれ(・・)から一年前まで、私は彼のことをずっと見てきた。親切なお爺さんの目を借りて。絶望に堕ちた彼を、そして希望を胸に灯した彼を、一人で無茶をしながらも頑張り続ける彼を。
私は彼を死なせない。私の目的も彼と一緒、あんな事二度と起こさせやしない。
「強くなりたいの?」
「…お前を倒せるくらいにはなりたい」
「それは無理」
「ぐぬぬ」
「……『隔離』の範囲を変える。半径1キロ」
「え?」
その瞬間、もたれ掛かっていた空間の壁が消えた。
「いてっ!」
柵の向こう側へと俺は頭から落下した。
でも、出られた!
「モンスターくる……頑張って」
そう言い残して魔女は去っていった。
なんだ?私を倒せるようになるまで、せいぜい頑張れってこと?
うあああああ、絶対強くなってやる!……ただ丸腰か、とほほ。
落ちていた木の棒を拾い、軽く振ってみる。
「……当分はこれでやるしかないか」
俺の修行の日々がはじまった。
アイスホーンラビット、E級モンスター。特にこれといって身体能力が高いわけではないがその角には氷の冷気を宿している。
俺がこの森で出会った中で、一番弱いモンスター。
特に苦戦することも無く、仕留めることができる。
いつもの剣があればの話だけど。
木の棒で殴りかかる。
俺の敏捷にアイスホーンラビットは逃げることは出来ない。それを本能で感じ取ったのか、反対に向こうも踵を返してこちらに飛び込んできた。
バキッ
冷気で脆くなった木の棒が真ん中から折れる。
相棒ォォっ!クソッ、やっぱだめか!
「『檻影』『土牙』!!」
疲労をかえりみず魔法を連発する。自らの影でアイスホーンラビットの行動を制限し強化した土で体を貫く。
「あー、やれやれ」
この森で一番弱い=世界最弱ではないのである。出し惜しみをすると普通に死ぬ。
しかし困った。これでは解体すらも出来ない。
土手っ腹に大穴の空いた兎なんてそもそも金銭的価値はないのだけれど、食いつなぐための肉としてはかなりの獲物だ。あー、どうしよう……
とりあえずうさちゃんを片手に庭まで戻ってきた。
俺の荷物はほぼ無いに等しい。逃げる傍ら捨て去ってきた。あるのは剣以外の装備くらいか
調理するにも火を起こせない。火打石捨ててなきゃなぁ……
「ふぁいやー!」
俺の手に握られているのは相棒2号。火の魔法が使えない俺はもう、腕力にものをいわせるしかない!
乾燥している木を見つけるのにも一苦労したがこれもなかなか……あっ煙だ!
「ふーっ、ふーっ」
よーし、こいこいこい!
「何してるの」
「うわっ!……って!ああ、火種が!何するのさ!」
本当に何もうまくいかない……厄日だ。
「何してるの」
「火を起こそうとしてるんだよ、これでな!」
相棒2号を見せつける。
「火事になる、すごく困る」
「確かに草木多いね、でもこれ生じゃ食べられないよ流石に」
血を抜き終えたアイスホーンラビットを持ち上げる。ちょっとグロい。
「お腹減ってる?」
「まぁ、今日はまだ何も食べてなかったからね」
「家に入って」
「え、なんで。俺は野宿でいいよ。流石に魔女とひとつ屋根の下は嫌だ」
「……ごはん、ご飯だけいっしょに食べて」
「遠慮するよ」
なおも拒否すると魔女は俯き、一呼吸おいた後にその身にまとった長いローブの懐からナイフを取り出し自らの首に当てた。
「私と死ぬか、ご飯食べるか」
答えはこうだ。
「今からご飯ですか?お供します!いやぁお腹減ったなぁ!」
俺は魔女の下僕にでもなってしまうのか……




